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暮らし

家族の介護やがん闘病の不安にそっと寄り添う【書店員選ぶ名著3選】「母の余命を初めて意識した瞬間のこと」

 図書館司書の資格を持ち、オンライン書店の店主でもある小黒悠さんは、脳梗塞を患った母のケアを20代から続けてきた。今は亡き母の「余命」を初めて意識したときのことを振り返りながら、病を抱える当事者、家族の人生を“そっと照らしてくれる”3冊を教えてくれた。

教えてくれた人/小黒悠さん

元図書館司書。20代から母のケアを経験し、ケアする人を「ケアする本屋」を目指し、オンライン書店「はるから書店」を運営。ライターとしても活動中。https://harukara-reading.stores.jp/

「母の余命」を初めて意識したときのこと

 こんにちは「はるから書店」の小黒です。介護に「やくだつ本」と、気持ちの「やわらぐ本」をセレクトしているオンラインの本屋です。

 漫画家の倉田真由美さんが昨年出版された『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』を読みました。介護ポストセブンの連載をもとにした本書は、倉田さんが夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さんを在宅で看取られたご経験を、エッセイとマンガで振り返る一冊です。

 この本を読んで、私自身が初めて「余命」について考えたときのことを思い出しました。

「これから先、同年代の人と同じようにずっと何年も、という訳にはいかないかもしれません」

 母の主治医からそう伝えられた時、私は一瞬、その言葉が何を指しているのか分かりませんでした。そして、なぜか先生の目を見ることが出来なかったのです。

 先生は私より少し年上で、診察のときは親しく会話をすることもある女性の医師。母ともたまに冗談を言い合い、心配性な私たち親子のペースに合わせて、いつもゆっくり説明をしてくれる優しい先生でした。

 その言葉を告げられたのは、母の体調がすぐれず急遽入院をした時のことで、いつもより先生が堅く重たい口調だったことを覚えています。

 病院の入り口近くのソファに腰を下ろして、私は少し休憩しました。大きな病院のエントランスはたくさんの人が行き来しています。体の不調を抱えて通院に来た人、お見舞いに来た人、コンビニへ行こうとする入院患者、救急なのかとても焦っている家族。行き交う人たちすべてに、ここに至るストーリーがあるのだと思うと途方もない気持ちになりました。

 さっき先生に言われたのは、母の寿命、余命のことだ。ぼんやりした視界がだんだんとクリアになっていくように、頭の中で急に眼が覚めました。

 そうです、母の病状は一歩(もしかしたら、もっと)進んでしまっていたのです。

 さて、これからどうしようか。誰に話すでもなく、母に話すでもなく、私は私に話しかけていました。

病を抱える人、家族の人生に伴走してくれる名著3選

 今回は「病と人生に伴走してくれる本」をテーマに、3冊をご紹介します。私が母の余命について考えたことは、そのあとに――。

余命宣告されても人は生きることを信じる力がある

『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』
倉田 真由美 著 小学館

 すい臓がんを患った夫を自宅で看取られた倉田真由美さん。在宅で闘病しながら過ごした日々のことや「家で死ぬ」と決めるに至った経緯を、文章と漫画で綴っています。在宅緩和ケア医の萬田緑平さんとの対談や、終末期を家で過ごすためのアドバイスも。

 印象的な一節があります。

《「昨日と同じような今日、今日と同じような明日」の連続で、パートナーが末期がんの病人であっても、それすら「日常」になります。》(第2章「最期まで家がいいと決断するまで」)。

 たとえ重い病気を抱えていても、余命宣告をされていても、生きることは日常です。病と戦う夫の姿をそばで見守りたい気持ちと、苦しむ様子を見たくないという矛盾する気持ち。本当は優しくしたいのに、ついイライラしてしまう葛藤は、介護や病を抱えた家族と向き合うとき、誰もが経験することではないでしょうか。

 倉田さんの夫は4回余命宣告をされたそうです。それはつまり、何度もその余命を超えて生きてきたということでもあります。

 この本は、夫が息を引き取る最期の場面から始まるのですが、倉田さんは当初、今日がいよいよその日になるとは思っていませんでした。たとえ余命を宣告されていても、人は最後まで「生きる」ことを信じる力があるのだと思います。

 この世に死なない人なんていません。だからこそ「生きる」ということをし続けるのが私たちの毎日です。余命を告げられた夫をずっとそばで支え、過ごしてきた倉田さんの「日常」から、勇気をもらえる一冊です。

25才でがん告知を受けた当事者のリアル

『がん経験者のリアルな生活 「恋愛・仕事・お金」の悩みと上手につきあうヒント』
岸田 徹 著 翔泳社

 病気を診断されたときに知りたいことは、治療法だけではありません。その後の暮らしがどう変わるのか、これまで通りの生活はできるのか、仕事は続けられるのか、子どもを持つことはできるのか…。取り留めもなく「誰かに聞きたいこと」があふれてくるのではないかと思います。

 著者の岸田徹さんは25才のときにがんを患い、抗がん剤治療や手術も経験されています。当時、岸田さん自身ががんに関する情報不足を感じていたことをきっかけに、400人以上のがん経験者にインタビューを実施。YouTube番組「がんノート」でインタビューの様子を生配信するなど、情報を伝える活動をされています。

 この本は、がんのことを周りの人にどう伝えたか、治療以外でどんなことにお金がかかったか、恋愛や結婚に対する考え方は変わったかなど、経験したからこそ語れる「当事者のリアル」がたくさん詰まっています。

 ピアサポートという言葉をご存知でしょうか。「仲間(ピア)による支援(サポート)」のことで、同じような経験や境遇にある人が、お互いを支え合う活動です。がん患者さんのためのピアサポートは、探してみるといろんな場所で活動があるようです。いきなり参加するのはちょっと勇気がいるという方も、まずは本を読むことから始めてみるのはいかがでしょうか。

希少がんの夫、幼い息子との暮らし「幸せに生きる選択とは」

『幸せな方の椅子』
松山 みゆ 著 大和書房

 この本の著者、松山みゆさんは、37才のときに、夫が希少がんのステージ4であると診断されます。息子さんは当時まだ7才。「病気になったけど、幸せなままでいようよ」という夫の言葉を、松山さんは10年もの闘病生活を寄り添いながら叶えます。

 不安に押しつぶされそうなとき、松山さんは二つの椅子を想像するそうです。

 一つは、病気の辛さ、恐怖、深い悲しみといったネガティブな感情に振り回されてしまう椅子。もう一方の椅子は、その場が少しでも明るく、つられて笑顔になってしまうような椅子。

 それぞれの椅子に座った自分がどんな行動をするか想像し、さぁどっちの椅子に座る?と考える松山さんは、勇気を持って「幸せな方の椅子」を選択します。それは決して、辛い感情に蓋をするためではなく、限りある時間を少しでも明るい方向へ導くことができる、心の選択術のようなもの。

 時にはちょっと演じることも、こっそり大泣きすることも、すべては幸せでいるための選択でした。前を向いて生きる松山さんの優しい言葉が、とても力強く響くエッセイです。

母との時間をどう過ごすか

 主治医から余命について話題が出たことを、私は母に伝えませんでした。

 もともと脳梗塞をきっかけに始まった母の介護でしたが、数年のうちに肝臓に関する数値が良くないことが分かり(母は全くお酒を飲まない人だったのですが)これ以上悪化しないように、と食事に気を使いながら生活をしていました。

 医師からお話があったのは、状態が一歩進み肝硬変になったタイミング。脳梗塞による不自由さへの戸惑いをやっと乗り越え、前向きさを取り戻し始めていた母に「とてもじゃないけど言えっこない」。そう思いました。

 母への関わり方が少し変わったのは、それからしばらく経ってからだったと思います。

 脳梗塞の後遺症による麻痺をリハビリでかなり回復させた母でしたが、体力が落ち歩くこともきつい日が増えてきました。以前の私ならきっと「せっかく歩けるようになったのだから歩かなくちゃ」と考えていたと思います。それはおそらく、母に対する無言のプレッシャーとしても表れていたと思います。

 松山みゆさんの著書を読んだとき、私は、当時の自分を思い出しました。

 残された時間をもっと自由に過ごしたい、一緒に、もっと楽しく過ごしたいと考えた私は、車イスを借りる選択をしました。あれはまさに、私が「幸せな方の椅子」を選んだ瞬間でした。「歩けるはず」という執着(つらい方の椅子)を捨て、「移動をもっと楽にして、お出かけを楽しむ」という「幸せな方の椅子」を選んだのです。もともとは人前で杖を使うことすら渋っていた母でしたが、それからは笑顔の数が何倍にも増えました。

 母は最後まで「自分は生きる」ということを信じてくれていました。それは、医師から病状を聞いた私も一緒です。先生が伝えてくれたからこそ、母との時間を最後の最後まで大切にすることができました。

 闘病は本人にとっても、身近な人にとっても、人生を揺さぶる大きな出来事です。本は決して、直接的な答えをくれるものではありません。それでも、不安な夜道をそっと照らしてくれる、灯りのような存在になってくれると私は信じています。「病と人生を伴走してくれる本」、ぜひお手に取っていただけたらうれしいです。

■紹介した本はオンライン書店「はるから書店」で購入できます。
https://harukara-reading.stores.jp/

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