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暮らし

「認知症の母に怒鳴って自己嫌悪…」12年の介護経験をもつ社会福祉士が提案、知っておきたい《認知症の4段階×介護者の4つの心理ステップ》

「認知症の介護、いつまで続くのか」「親の認知症介護がしんどい、ツラい…」。認知症介護の不安や悩みには、「現在地を知ること」が大切だと、社会福祉士の渋澤和世さん。12年にわたる親の介護経験を振り返り、知っておくと役立つ認知症の進行に伴う「4つの心理ステップ」について、解説いただいた。

この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん

在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。

「介護者の気持ち」どう変化する?

 筆者は親の介護を約12年経験しました。最初の4年間は自宅がある神奈川・川崎から、親が暮らす静岡県に通う、遠距離介護でした。

 遠距離介護をしていた頃は、介護そのものというよりも、かかりつけ医への通院同行、ケアマネやデイサービス事業所との状況確認、見守りや緊急連絡をお願いしていた近所の方々への挨拶などに追われていました。

 帰省のたびに郵便を確認し、必要であれば手続きをする、急にお金が必要なときのために現金を準備しておくなどの生活上のサポートを行っていました。当時、父は要支援1、母は認知症を発症していて要介護1でした。2人とも住み慣れた土地なので近所づきあいもあり、他人の手も借りつつ暮らすことができていました。

 その後、父が亡くなったのを境に、認知症の母親を呼び寄せ、同居の在宅介護が始まります。このときの母は要介護3でした。こうした経験をふまえ、親が認知症と診断された後の家族の気持ちについてご紹介していきます。

介護者のたどる4つの心理的ステップとは

「認知症サポーター」とは、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする“応援者”のこと。介護に不安を感じていたり、現在介護中で悩みがある場合、認知症のことを正しく知ることも役立つと思います。

 この認知症サポーターは、全国で養成講座が行われていますが、筆者は養成講座の講師役となる「キャラバン・メイト」に登録しています。講座の内容に「認知症介護をしている人の気持ちを理解する」という項目があるのですが、その中で「介護者のたどる4つの心理的ステップ」が紹介されています。

参考/認知症サポーターキャラバン
https://www.caravanmate.com/

介護者のたどる4つの心理的ステップ

第1ステップ:とまどい、否定

第2ステップ:混乱、怒り、拒絶

第3ステップ:割り切り または、あきらめ

第4ステップ:受容

 この考えは、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事、川崎幸クリニック院長である医師の杉山孝博さんがまとめたものです。杉山さんは、認知症相談の場で介護者の話を聞き具体的な援助をしていく中で、どの介護者も介護を続けていくうちに「4つの心理的ステップ」をたどることに気付いたそうです。

認知症の進行には4つの「段階」がある

 一方で、認知症は、前兆(軽度認知障害・MCI)、軽度(初期)、中度(中期)、重度(末期)の4段階で進行していくとされています。

認知症の4段階

【1】前兆(軽度認知障害・MCI)

【2】軽度

【3】中度

【4】重度

 筆者は「認知症の4段階」と、認知症介護をしている家族の気持ち「4つの心理的ステップ」は非常に関係が深いと感じています。

認知症の進行×介護者の気持ちの変化を考えてみよう

 認知症サポーターキャラバンで学んだ知識と、母の介護経験を振り返りながら「認知症の進行」と「介護者の気持ちの変化」について考えてみましょう。発症期間や感情の変化はあくまで筆者の経験ですが、参考にしてみてください。

【1】認知症の前兆「戸惑い」

 軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階でまだ予防ができる状態ですが、年平均で1割くらいのかたが認知症に移行するといわれています。

 母の場合、認知症の初期は、発症から約1~3年程度の期間でした。まだ自分で判断できることも多いのですが、体験を忘れるなどの記憶障害も出始めていました。アルツハイマー型認知症の場合は、時間・場所・人物の認識が困難といった症状から始まることが多いので見逃さないことも大切です。

 母の場合は早期発見ができ、認知症の進行を遅らせるとされている薬を処方してもらい、適切なケアはできたと思っています。

 早期発見ができた理由としては、母の行動が「何だか以前と違う」と、親類から指摘され、物忘れ外来を受診したことです。MRI検査から側頭葉の萎縮を確認しアルツハイマー型認知症と診断されました。

 当時、母のことは親族から指摘を受けるまでは、「年のせいだろう」くらいに思っていました。母は定年まで正社員で働いていたので「まさか、うちの親に限って…」ととまどったことも。遠距離介護をしていた初期は、「第1ステップ:とまどい、否定」の時期だったと思います。

 なお、母がお世話になった医師は、前述の杉山孝博さんでした。最初の診断は、信頼できる医師がいいと思い、情報収集をして主治医を決めました。日本認知症学会のホームページ※からも病院を検索できるので参考にしてみてください。

※日本認知症学会
https://dementia-japan.org/doctors/

【2】認知症:中度「混乱や怒り、拒絶」

 認知症の中度になると、記憶障害が進行し、日常生活での自立が困難になることがあります。筆者の場合、介護の現実を痛感し、介護がもっとも大変な時期でした。

 母の場合、認知症の中期は発症から4~8年程。妄想や幻覚、徘徊など認知症の周辺症状が出てきていました。母と同居を始めたのがこの時期で、筆者はまさに「第2ステップ:混乱、怒り、拒絶」の感情にさいなまれていました。

 母は幻覚が見えるのか、手で顔の前を払う仕草をよくしていました。夜中の2、3時でも平気で家の中を歩き回り、排泄の失敗も増えていきました。排泄物を隠したり、触れた手を壁になすりつけたりする「弄便」もあり、筆者はずっと怒鳴っていたように記憶しています。母にツラくあたってしまい、自己嫌悪に陥ったことも多々ありました。

 ここ(自宅)は介護施設で自分は介護職員だと思い込むことで、その場の怒りを収めようとしたことも。母は「どうにか生きていてくれたらいい」くらいの気持ちで、自分が楽になる介護方法はないものか、模索していました。

【3】認知症:重度「割り切り、そして受容へ」

 母の場合、認知症が重度になったのは、発症から8~12年程。コミュニケーションが取りづらく、意思疎通が困難になりました。母は要介護5で、認知症は重度ではありましたが、自立歩行はできていました。排泄の失敗や異食(食べ物以外を口にしてしまう)などの症状も出ていたため、まだ「第2ステップ:混乱、怒り、拒絶」の気持ちも強くありました。

 しかし母はその後、転倒して圧迫骨折をしたことをきっかけに、車いすの生活になりました。歩行・移動が難しくなったこの頃から、「第3ステップ:割り切り または、あきらめ」の気持ちに変化していきました。

 さらにその後、寝たきりの状態になり、通っていた小規模多機能型居宅介護※を解約し、療養型病床に入ってから「第4ステップ:受容」へと感情が変化したように思います。

※小規模多機能型居宅介護(しょうきぼたきのうがたきょたくかいご)/1つの事業所で「通い」「訪問」「宿泊」などの介護保険サービスを組み合わせて利用するサービス。

 母が車いす生活になってからは、怒っても自分が疲れるだけで何も変わらないことを悟りました。母自身も、自立歩行ができなくなってしまったことで「自由に動けない」と感じていたのでしょう。私も母もどこかで割り切って、あきらめていたのかもしれません。

 その後、誤飲性肺炎を繰り返し、在宅での介護が難しくなり、医療療養病床(療養型病院)にお世話になりました。そんな状況を受容し、母が自分の手から離れたことでだんだんと母に優しくできるようになっていたと思います。「残された時間を一緒にどう過ごすか」ということに意識が向き、毎日面会に通いました。

認知症の進行と感情の変化を俯瞰してみる

「認知症の4段階」と「4つの心理的ステップ」を理解しておくことで、おおよそですが親と自分の現在いる位置がわかると思います。認知症の親に対して”怒り”を感じたら「今、自分は第2ステップにいる」と、一歩引いて自分を見られるかもしれません。

 認知症の進行にともない、介護する家族も心が揺れるのは、多くの人が通る正常なステップであり、その後の見通しを立てるのに役立つのではないでしょうか。いつ終わるかわからない介護生活において、客観的に捉えること、冷静に見つめることは大切だと思います。

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