《栄養素を逃さない野菜の食べ方》「アクぬき不要」「切ってから洗う」「皮ごと食べる」管理栄養士が解説する“新常識”
年齢を重ねて食が細くなると、健康な体を保つために必要な栄養素が不足するおそれがある。『食が細くなってきたら! 少食でもちゃんと栄養がとれる食べ方』(アスコム)の著者で料理研究家・管理栄養士の関口絢子さんは無理にたくさん食べるのではなく、少ない食事量でもなるべく多くの栄養素を摂ることが重要だと語る。そこで、同じ量の野菜からより栄養素を摂ることができる「栄養素をキープする下処理法」について教えてもらった。
教えてくれた人
関口絢子さん/管理栄養士
川村学園短期大学食物学科卒業。「食とアンチエイジング」の関係が注目されていなかった20年以上前から、インナービューティースペシャリストとして情報を発信し続け、健康・美容・ダイエットに関するレシピや栄養情報を提供。2020年に開設したYouTubeチャンネル「管理栄養士:関口絢子のウェルネスキッチン」は登録者数60万人超え。米国栄養カウンセラー、ヘルスケアプランナー、日本抗加齢医学会認定抗加齢指導士の資格ももつ。
野菜の栄養素を流さずに調理する
野菜を水にさらしたり、茹でたりすることは、栄養素の流出につながる。それを避けるための新常識として関口さんが推奨するのが、「アク抜きをしないこと」と「下ゆで代わりに蒸すこと」だ。
“アク” の正体はポリフェノール
野菜を調理する前に水に漬けるなどして、当たり前のようにアク抜きをしていないだろうか。しかし、関口さんによると「野菜の“アク” の正体は、ほぼポリフェノール」のため、アク抜きは「栄養素を捨ててしまう下処理」だという。「食事量が限られる少食さんにとってなるべく避けたい」と関口さんは続ける。
「切ったごぼうやれんこん、なすの種などが黒く変色するのは、どれも抗酸化成分であるポリフェノールによるもの。見た目がちょっと気になるだけで、実は捨てなくともよい成分なのです」(関口さん・以下同)
しかし、ほうれん草にはシュウ酸が含まれているため、アク抜きは必ずするようにしよう。
野菜は洗ってから切る
アク抜き同様に、野菜を水にさらすことで栄養素は流れ出てしまう。
「辛みが強くてそのままでは食べられない生玉ねぎは水にさらしてOKですが、10分以内にとどめるのがおすすめです」
一方で、水にさらす必要のない野菜に関しては、切ってから洗うのは栄養素をキープする調理としてはNG。切る前に洗うことで、切り口から栄養素が流れ出るのを防ぐことができるからだ。
たっぷりのお湯で煮ない
ビタミンCなど水溶性の栄養素は、下ゆでによっても流れ出てしまう。その対策として関口さんは、「フライパンに少量の水を入れて蒸し煮にする」ことを推奨する。大量の水(お湯)で茹でると、野菜全体が水に触れて栄養素が流れやすくなるため、なるべく少量の水で下ゆでするのがよい。
「もっと簡単に調理したいときは、電子レンジで加熱するのもおすすめです」
また、ゆでる必要がある野菜を使うときは、スープや味噌汁など煮汁ごと食べるメニューにすれば、栄養素の流出を気にしなくてもOK。
ゆでずに“蒸す”調理法のメリット
蒸し調理というと、蒸し器やせいろなどの調理器具が必要なイメージをもつ人もいるだろう。しかし、家にあるフライパンで十分なのだという。
野菜の大きさや種類によって加熱時間は変わるが、例えばブロッコリーなら、小房に分けてフライパンに並べ、100ml程度の水を入れて蓋をして中火にかけるだけ。1分半~2分で蒸し上がる。時間がかかる場合は、水を100ml程度追加して様子をみよう。
「蒸すときは、複数の野菜をまとめて蒸すと彩りが豊かになって栄養価もアップします。さらに、肉や魚も一緒に蒸せば、うまみが野菜に移って一石二鳥のおいしさに。野菜もたんぱく質もひと皿でとれる、簡単なごちそうメニューができあがりますよ」
そして、蒸す調理法は栄養素の流出を抑えたり、熱に弱い栄養素を守ること以外にもメリットがあると関口さんはいう。
野菜本来のうまみや甘みを味わえる
「野菜を大量のお湯でゆでると水っぽくなってしまいがちですが、蒸せば余分な水分が加わらず、野菜のうまみや甘みがギュッと凝縮された味わいになります」
野菜本来のうまみによって充分おいしく感じられると、たくさんの調味料が不要になり、減塩にもつながる。
「味つけは蒸す前ではなく、蒸し上がってからいただく直前につけるのがポイントです。温かいうちに、塩こしょう・ポン酢・ごま油・しょうゆ・ドレッシングなどをつけるようにすると、調味料のとりすぎにならず、素材本来のおいしさを楽しめます」
食感を楽しめる
「ゆでるとクタッとなってしまいやすい野菜も、蒸すとシャキシャキした歯ごたえや、ホクホクしたやわらかさが引き出され、豊かな食感を楽しめます」
準備や後片付けがラクに済む
大きな鍋にお湯を沸かす時間がかからず、少量の水だけですぐ蒸すことができます。洗い物が少なく、キッチンも汚れにくいので、後片付けが面倒な少食さんにもおすすめです。
「皮も食べる」が令和の新常識 丸ごと調理で栄養アップ!
「野菜でもフルーツでも、食べるときには「まず皮をむく」というのが基本のようになっていますが、なんでも皮をむかなければ食べられないというわけではありません」
むしろ、皮ごと食べることには、次のようなメリットがある。
・食物繊維がとれる…腸内環境を整え、血糖値の上昇を抑える効果が期待できる
・生ゴミが減る…皮ごと食べれば、フードロス解消や環境保護にも役立つ
・時短できる…皮をむく手間が省けるので、毎日の調理がラクになる
皮ごと食べられる野菜やフルーツ
関口さんがおすすめする、特に皮まで食べたい野菜やフルーツについて紹介する。
「『皮が硬い』『口に残る』といった場合は、細かく刻む、じっくり煮込む、ミキサーにかけるなどをすると、皮ごと食べやすくなります」
《トマト》
トマトの栄養素として有名な、抗酸化力の高い「リコピン」。抗酸化物質は実より皮に多く含まれており、加熱すると吸収率がさらにアップする。
《にんじん、ごぼう、れんこん》
いずれの根菜も、栄養素が豊富なのは皮。にんじん・れんこんは皮付きのまま、ごぼうの皮は包丁の背やたわしで軽くこそげ取る程度にするとよい。
《りんご、なし》
皮の部分に食物繊維やポリフェノール(とくにプロシアニジンなど)が豊富で、腸内環境の改善、抗酸化作用が期待できる。
《柑橘類》
皮の裏の白い部分には「ヘスペリジン」というポリフェノールが豊富なので、はちみつ漬けやジャムにおすすめ。 みかんの白い筋にも含まれています。
「かぼちゃの皮には、実の部分には少ないβ-カロテンや食物繊維、ビタミンKが豊富です。加熱すれば、硬い皮もやわらかくなって食べやすくなります。なすの皮の濃い紫色は、ポリフェノールの一種である「ナスニン」というアントシアニン色素。抗酸化力がとても高いので、皮ごといただくのがおすすめです。先に素揚げする、炒めるなどして皮を油でコーティングすると、料理への色移りを抑えられます」
なお、皮ごと食べる際には、有機栽培や特別栽培のものを選ぶのが安心だ。農薬や泥などが残らないように、流水でしっかり洗うとよい。
「とくに汚れが気になるときは、重曹水に少し浸してから洗うのもおすすめです」
生のまますりおろして酵素をとる
野菜やフルーツには、消化を助ける成分の「酵素」が含まれている。酵素は熱に弱いので、高温で加熱するのはNG。食べられるものはすりおろし、細胞壁を壊すことによって効率よく酵素をとることができる。
「消化機能が下がっていて胃もたれしやすい少食さんは、大根、にんじんなどをすりおろし、ドレッシングやタレなどに加えると、消化を促す効果が期待できるでしょう」
