《トリガーポイント》のマッサージで腕や手の慢性的な痛みを軽減 痛み治療の第一人者が教える「1日3セット・筋膜や筋肉のほぐし方」
スポーツをしたり重い荷物を持ち上げた時以外にも日常の中で腕や手に違和感、しびれを感じる人は生活が不便になり、何ごとにも億劫になりやすい。病院で治療しても改善しない場合は、筋肉をほぐしたりストレッチをすることで痛みが和らぐという。痛み治療の第一人者に対処法を聞いた。
教えてくれた人
北原雅樹さん/横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科(※)「痛み外来」部長・診療教授
※かかりつけの医療機関からの紹介とファックス受付による完全予約制。
痛みの原因は筋肉のトリガーポイント
「痛み難民の駆け込み寺」と呼ばれる、痛み治療の第一人者・北原雅樹医師は、痛みについてこう語る。
「近年、慢性痛の約8割が『筋・筋膜性疼痛(とうつう)』が原因であることが分かってきました。筋肉や内臓を覆う薄い膜である『筋膜』は全身タイツのように全身の筋肉と骨、筋肉と神経を繋ぎます。長年のデスクワークや重い物を担ぐ動作などを通して筋肉がこり固まると筋肉や筋膜に索状物(しこり)ができ、これが痛みを生じさせます。ストレスや不安も痛みの原因になることが分かっています。
痛みは神経を通して広がり、しこりの周囲に『放散痛』、しこりから遠い場所に『関連痛』と呼ばれる痛みやしびれを生じさせるため、“あちこち痛い”状態を生むのです」
この筋・筋膜性疼痛は自力で改善できると北原医師。
「筋膜や筋肉のしこりは『トリガーポイント』と呼ばれ、体の痛む箇所から逆算して特定できます。これをストレッチやマッサージでほぐすことであちこちに広がった痛みを改善できるのです」
基本のトリガーポイントのほぐし方
手が届きにくい場所は、テニスボールを使うと無理なくほぐすことができます。さらに効率的に行いたい場合は、マッサージローラーの使用がおすすめです。目安は、左右1分ずつ1セットとして1日3セット。
【1】トリガーポイント(痛みの発生源)を指で探す
【2】トリガーポイントを押すとツンとした痛みを感じるのでそれが目印になる
【3】親指や中指で押す・離すを左右1セット1分ずつ行なう(1日3セット)
【4】こぶしや手のひら、テニスボールを使って行なってもいい
腕のだるさ、痛みをトリガーポイントで改善
腕がだるい、もしくはじんわりとした痛みがある場合、医者から肘部管(ちゅうぶかん)症候群や頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症などと診断されやすい。
「特にだるさが出る場合は神経障害性の疾患が疑われやすい部位です。しかし治療をしてもよくならないケースが多くみられます」
様々な腕の痛みを引き起こすトリガーポイントは腕全体に広がる。
肩の前側やひじの内側に痛みが出たら力こぶができる「上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)」、肩から腕の後ろ側にかけて痛みが出たら腕の後ろ側にある「上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)」のトリガーポイントが疑われるという。
「前腕や手のひらに慢性的な痛みが出る場合はひじを曲げたり回したりする『腕橈骨筋(わんとうこつきん)』、前腕や手の甲から指にかけて重くてだるい痛みが出る場合は親指以外の4本の指を伸ばす『総指伸筋』が痛みの発生源と考えられます。
仕事で事務作業をする人や重い荷物を運ぶ人、趣味で庭いじりや農作業をしたりゴルフやテニスなどのスポーツを楽しむ人も腕に痛みを生じやすい。腕の痛みを抱えたままだと生活が不便になるのでしっかりとほぐすことが大切です」
肩の痛みの項目で紹介した「斜角筋」や「三角筋」も腕の痛みを引き起こすトリガーポイントになるので気を付けたい。
「しこりやこりを感じるところを、気持ちいいと感じる程度の力でほぐしましょう」
腕の痛みに適したトリガーポイントはココ!
腕の裏(上腕三頭筋/じょうわんさんとうきん)
腕の後ろ側の肩から手首までの痛みは上腕三頭筋の脇の近くをほぐす。
腕の上部(上腕二頭筋/じょうわんにとうきん)
力こぶにあたる上腕二頭筋のこりは腕の前側の肩からひじの内側に痛みを生じさせる。
腕の内側(腕橈骨筋/わんとうこつきん)
ひじから手のひらに痛みを感じるならひじを曲げる動作に使う前腕の腕橈骨筋をほぐす。
腕の外側(総指伸筋/そうししんきん)
親指以外の4本の指を伸ばす総指伸筋は手の甲や指に重くてだるい痛みを生じさせるのでよくほぐす。
手や指のしびれの原因は前腕やひじにあることも
足裏と同じく、手や手首、指は痛みと同時にしびれが出やすい。
「しびれが出ると手根管(しゅこんかん)症候群や肘部管症候群などによる神経障害や変形性関節症、腱鞘炎などが疑われます。病院で治療しても改善しないのに筋肉ほぐしや手・手首・腕のストレッチを試すと楽になる患者が大勢います。その場合もやはり、元凶は筋・筋膜性疼痛であると考えられます」
手や指の痛みやしびれはひじの周囲や前腕から生じることが多い。
「手の甲側の手首に痛みがある場合は、手首を伸ばす動作にかかわる『短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)』にあるトリガーポイントをほぐすと効果が出やすいです」
手のひらにもトリガーポイントは密集している。
物を掴もうとした時に親指が痛んで力が入らなければ「母指対立筋(ぼしたいりつきん)」、大きなものを握る際に小指に痛みが出たら「小指外転筋(しょうしがいてんきん)」が固まっている可能性があるという。
「中指、小指に痛みがあれば『背側骨間筋(はいそくこっかんきん)』にあるトリガーポイントを試してみましょう」
ただし、指に腫れが見られる場合は注意したい。
「指の関節に腫れがある場合、関節リウマチが疑われます。患部を刺激し過ぎるとリウマチが悪化するケースがあるので腫れている場合は医師に相談しましょう」
背骨から指先まで、トリガーポイントは思わぬところでリンクしている。痛みの発生源を正しく把握することが症状改善の第一歩になる。
手の痛みに適したトリガーポイントはココ!
ひじの内側(尺側手根屈筋/しゃくそくしゅこんくっきん)
手首の内側に痛みやしびれを感じたら尺側手根屈筋をほぐす。
ひじの下部(短橈側手根伸筋/たんとうそくしゅこんしんきん)
手の甲側の手首に痛みやしびれを感じたら短橈側手根伸筋をほぐす。
小指(小指外転筋/しょうしがいてんきん)
物を握る小指外転筋をほぐせば小指の痛みを和らげられる。
親指の付け根(母指対立筋/ぼしたいりつきん)&親指(母指内転筋/ぼしないてんきん)
物を掴む筋肉の母指対立筋と母指内転筋をほぐすと親指の痛みに効く。
手の甲(背側骨間筋/はいそくこっかんきん)
手指を広げる筋肉の背側骨間筋をほぐすと指の痛みに効果を得られる
イラスト/河南好美
※週刊ポスト2025年10月17日・24日号
●あちこち痛い!の正体は“筋肉のトリガーポイント”? 痛みを緩和するセルフケア方法を専門家が解説
●腰や肩、関節の痛みは「病院×整体」で治す あなたの痛みに向き合う施設の選び方「部位別おすすめストレッチ」もご紹介
●【トリガーポイント】とは?腰・背中の痛みのトリガーポイントの探し方・ほぐし方をわかりやすいイラストで解説|「痛みの駆け込み寺」と称されるペインクリニック医師が指南
