「還暦を機に人生見直そうと思ったのになかなか実行できない」嘆く女性に毒蝮三太夫が授けた優しい助言|「マムちゃんの毒入り相談室」第75回
還暦を迎えて、「充実した老後」を送るべく「自分磨きをしたい」と願っている女性。しかし、日々のあれこれや目先の誘惑に阻まれて、やりたいと思っていたことはなかなか実行できない。夫に相談しても聞き流されてしまう。マムシさんは「『人生3割』でいこうじゃないか」と、焦りと自己嫌悪に包まれている女性の肩をもみほぐす。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「充実した老後に向けての計画が実行できず焦っている」
ドラえもんの声でおなじみの大山のぶ代さんが旅立って、もう1年だ。命日の9月29日に「大山のぶ代さんをしのぶ会」があって、オレも発起人のひとりとして参加してきた。
長い付き合いの中での思い出を挨拶や取材であれこれ話したけど、そうやってみんなで彼女を思い出して笑顔になることが、何よりの供養になるんじゃないかな。ただ、今となって悔やまれるのは、施設に入ってから10年以上も会えてなかったことだ。
どんなに大切な相手でも、いつか別れが来るのは仕方ない。自分が先にいなくなることだってある。会いたい人には会えるうちに会っておくのが大事だと、あらためて思ったよ。あなたも「会っておきたい人」がいたら、思い切って連絡してみたらどうかな。
今回は、老後に向けて張り切りつつも悩んでいる61歳の女性からの相談だ。
「還暦を機に、生活を見直して自分磨きをしたいといろいろと計画を立てました。まず、中途半端だった英語の勉強がしたい、お料理教室にも通いたい、漠然とそんなことを思ってからはや1年。結局日々の暮らしにまみれて、まだ何もできていません。
お友達から食事に誘われると、ほいほい出かけてしまい、そういう出費も案外かかってしまって、習い事へ回すお金も捻出できず。そんな自分が情けなくてたまりません。5歳年上の夫に『どうすればいいと思う?』と相談しても、『まあ、先は長いんだから焦らなくてもいいよ』と聞き流されてしまいます。
このままだと『充実した老後』なんて夢のまた夢で、何となく歳を重ねてしまいそうです。マムシさん、こんな私にぜひ喝を入れてください」
回答:「『人生3割で上出来』。オレはそう思って生きてるよ」
いいねえ、あなたのその前向きな姿勢は素晴らしい。やりたいことがたくさんあると、未来に夢と希望が持てる。そういう人は年齢に関係なく、胸を張って生きてるよね。
ただ、ダンナさんが言っているように、焦る必要はない。「あれもやれなかった」「これもできてない」と思ってばかりいると、毎日がつまらなくなるし、どんどん自分が嫌になってくる。焦れば焦るほど、ワクワクさせてくれるはずの夢や希望に足を引っ張られるわけだ。
オレは昔から「人生3割」って思いながらやってきた。欲を出せばキリがないけど、3割うまくいけば人生は上出来だ。3日のうち1日、思い描いたような楽しい日が送れたら、あとは2日は嫌な日でもしょうがない。やりたいことが3つあって、そのうちひとつできれば御の字だ。年の初めに3つ目標を立てたとして、ひとつ達成できたら大成功だよ。
相談を読む限り、どうやら生活に困っているわけではなさそうだし、ダンナとも仲良くやっているみたいだ。読みようによっては、理解も思いやりもあるダンナのことを惚気てるようにも見えてくるな。ハハハ。いや、ごめんごめん。本人は真面目に悩んでいるから相談してくれたのに、茶化すようなこと言っちゃいけないね。
「3割で上出来」というのは、人生全般にも当てはまるとオレは思ってる。あなたも60歳までは、つらいことや苦しいことを乗り越えて、必死で頑張ってきたに違いない。これからの30年は、肩の力を抜いてのんびりやって行けばいいんじゃないかな。これまで息を切らせて自転車を漕いできたんだから、あとは惰性で進んで行こう。
そうはいっても、のんびりしてばかりだと面白くない。気が付くと、あっという間に70代80代になってしまうというのも事実だ。まだまだ体力も気力もある今にうちに、無理のない範囲で手を出してみよう。
あの大谷翔平だって、3割で苦労してるんだ。最初から「3割できたら上出来」と思っていれば、挫折しても自己嫌悪に陥らなくていいし、合わないことにしがみつく必要もないしな。たとえば英会話の勉強が続かなかったとしても、「まあ、いつかあの世でやればいいわ。楽しみはとっておこう」ぐらいに思っていればいいよ。
オレもねえ、やっておけばよかったと思うことはたくさんある。本をもっとたくさん読んでおけばよかったし、楽器もマスターしたかった。オレたちが若い頃は、楽器ができるヤツはモテたんだよね。悔しかったな。
あとは料理だ。もしかしたら、これは今からでも間に合うかもしれない。オムライスなんか作って、カミさんに「どうだ、うまくできただろ」なんて言って食べさせたいね。ケチャップでハートなんか書いたりして。たとえ実現しなくても、そういうことを考えるだけで楽しい。やりたいことができないのが人生だ。今度カミさんがオムライスを作ることがあったら、ハートだけ書くことにするよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。