栄養豊富な魚もリスクあり? 主菜は魚より肉の方が良い理由【医師解説】
健康長寿を支える土台となるのが日々の食事だが、これまで体にいいとされてきた食事の常識が近年の研究で次々に覆されている。なかには「かえって病気リスクを上げる」と指摘されたものも。古い知識のままの食事では早死にしかねない。寿命を延ばす食事と縮める食事について、最新の知見を専門医が解説する。
教えてくれた人
上昌広さん/医師・医療ガバナンス研究所理事長、渡辺信幸さん/医師・中部徳洲会病院・健康管理センター長
魚に潜む“ヒ素” 高血圧リスクが高まる可能性が 研究グループが発表
タンパク質やカルシウム、ビタミン類も豊富なことから、「ヘルシーな食材」の代名詞になっている魚。とくに青魚に豊富に含まれる不飽和脂肪酸のDHAやEPAには、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLを低下させ、動脈硬化を防いで血圧を下げる効果があるとされてきた。
だが2023年、その定説を覆す研究が国際誌「European Heart Journal Open」に掲載された。
発表したのは名古屋大学大学院医学系研究科の研究グループ。日本に住む2709人の一般成人を対象にした調査にもとづき、「1日に1回以上魚を食べる」人は血液中のヒ素濃度が上昇し、高血圧のリスクが高まる可能性があると指摘したのだ。
血圧と食材の関係に詳しい上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)が解説する。
「論文が指摘しているのが魚の体内に蓄積されたヒ素です。基本的に海産物にはヒ素などの環境汚染物質が含まれており、これが血管内皮細胞に障害を与え、高血圧を引き起こす可能性が示されました。ヒ素の含有量は魚の種類や海域によっても異なる。調査対象者を増やし、魚の種類なども細かく調査・分析していくことで、より体への影響が明確になっていくと思います」
近年、魚食のリスクについての研究は他にも多数報告されていると上医師は言う。
「この1~2年の間に『ネイチャー』などの一流科学誌に続々と発表されているのが、魚の体内に含有されたマイクロプラスチックに関する研究です。病気で亡くなった人の臓器を調べると、病変部位にマイクロプラスチックが多く存在し、そこに免疫細胞が集まっていることが確認されています。
とくにアルツハイマー病や心筋梗塞の患者の病変部位で多く見つかっており、マイクロプラスチックが組織の炎症を引き起こした可能性が指摘されているのです」
マイクロプラスチックとは海に流れ込んだプラスチックゴミが分解されたもの。魚に蓄積したマイクロプラスチックが食事を通じて体内に蓄積し、アルツハイマー病や心筋梗塞などを引き起こす要因になっているかもしれないのだ。
「魚が豊富な栄養素を含む食材であることは間違いないですが、食べるほど健康になる万能の食材ではない。リスクもあることは知っておきましょう」(同前)
栄養バランスは肉が主役 魚はプラス程度が理想的
同じ主菜でも「魚より肉のほうが食材として優秀」と話すのは、中部徳洲会病院・健康管理センター長の渡辺信幸医師である。
「タンパク質はもちろん、鉄分や亜鉛、ビタミン、クレアチンと魚以上に栄養の宝庫。近年はフレイル(虚弱)予防の観点から肉食の重要性を指摘する研究が目立ちます。魚を否定するわけではありませんが、基本は肉をベースにしつつ、魚をプラスするという食生活のほうがいい」
具体的にどんな肉をどの程度食べればいいのか。渡辺医師が続ける。
「牛、豚、鶏はいずれもすべての部位でタンパク質を豊富に含むので、基本的には自分の好みでいいでしょう。食べる量は大切で、成人男性に必要なタンパク質は1日60~65g。肉に換算すれば300gです。意識してたくさん食べるくらいがちょうどいい。そのうえで筋肉をつけて体を丈夫にしたいなら鶏胸肉やヒレなどの赤身、満腹感が欲しいなら牛のハラミなど脂の多い肉など、体調や目的に合わせて食べ分けるのが効果的です」
肉の脂身は体に悪いイメージが強く避ける人が多いが、気にしなくていいと渡辺医師は言う。
「厚労省は一日に摂取する総カロリーの20~30%の脂質を摂ることを推奨しています。総カロリーが2000kcalとすると600kcal分もの脂質が必要になる。そこで重要なのが肉の脂です。とくに牛肉の脂身に含まれるオレイン酸は動脈硬化や高血圧の原因となる悪玉コレステロールを減らす働きがあることが分かっています。血管を強くしなやかに保つためにも、肉の脂身は食べたほうがいいのです」
“肉より魚”の食生活は見直す余地がありそうだ。
部位別「肉の栄養素(100gあたり)」一覧表
※部位/エネルギー(kcal)/タンパク質(g)/脂質(g)
【1】牛
●肩ロース/295kcal/16.2g/26.4g
●ばら/381kcal/12.8g/39.4g
●もも/196kcal/19.5g/13.3g
●ヒレ(赤身)/177kcal/20.8g/11.2g
【2】豚
●肩ロース/201kcal/18.5g/14.6g
●ばら/366kcal/14.4g/35.4g
●もも/171kcal/20.5g/10.2g
●ヒレ(赤身)/118kcal/22.2g/3.7g
【3】鶏
●むね/133kcal/21.3g/5.9g
●もも/190kcal/16.6g/14.2g
●ささみ/98kcal/23.9g/0.8g
●手羽先/207kcal/17.4g/16.2g
※週刊ポスト2025年10月3日号
●「何を選ぶか」で老後の健康が変わる!医師が教える5つの分かれ道「肉や魚を優先 野菜は後で食べるが正解」