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《もっと早くプロに頼れば…》5年間の在宅介護をエッセイスト・岸本葉子さんが回顧 知識不足のストレスと後悔から見えた「一人で抱え込まない」大切さ

5年間、きょうだいと交代で父親を在宅介護したエッセイストの岸本葉子さん(64歳)。「もっと早くプロに頼ればよかった」という反省と共に、今後の介護の課題と、乗り越えるヒントを語った。

知識を持って介護をあたると、ストレス軽減にもなる

――介護をした5年間を振り返って、思うことはありますか?

岸本さん:プロに加わってもらうタイミングは、もう少し早くてもよかったと思います。ずっと在宅できょうだいと交代で介護をして、かなり最後のほうで訪問看護師さんに入ってもらったんです。家族だけでは父の入浴は大変だったのですが、訪問看護師さんはスッと入浴させていて、家族だけの介護は、果たして本人にとって安全で快適だったのだろうかと考えさせられました。

私は子育てをしたことがないので、人の命を預かることが重荷にも感じました。例えば、父に元気がない時に、単に疲れているのか、それとも、すぐに病院に運ばなければいけない事態が起きているのかが分からない。介護の知識が乏しい家族だけで、生死を分ける判断をするのは難しいことでした。

また、最初のうちは生死に直結しないまでも、日常的な場面での葛藤もありました。例えば、父親が寝る前に「トイレに行きましょう」と言っても、その時は出ないと言うからそのまま寝かせます。けれども、寝て間もなく「トイレに行く」と言い出すので、私も起きなければならない。なぜこういうことが起きるのか理解できず、すごくストレスでした。

調べてみたら、循環の衰えてきた高齢者は、体を立てている間は重力の関係で血流が流れにくいけども、水平になると全身の循環がよくなって、腎臓に血液が流れ込む量も増えて、尿が作られやすいそうです。理屈がわかると、少し心が和らぎました。高齢の人の心と体になにが起きるのかを知って介護にあたるのと、そうでないのとでは、雲泥の差があると思います。

認知症の人の根本にあるのは不安

――介護の日々を記した『週末介護』を出版した経緯を教えてください。

岸本さん:父親の尊厳に関わることなので、介護については書かないと決めていたんです。なので、意識してメモを残さなかったんですね。でも、しばらくすると、あの時私はどう感じ、何を考えていたのか、整理したくなったんです。後悔も含めて文字にすることで、写真のように定着して前に進める気がしました。

あくまで、私が行った介護は一例でしかないんですけど、どうすればお互いストレスなく介護ができるのか、そして、介護は知識や情報がいかに大切か、そういうことを伝えたかったんです。

――介護をしている中で得たことや学びはありますか?

岸本さん:非常に多くの学びがありました。認知症は徐々に物事が分からなくなっていく病気なので、本人もものすごく葛藤と不安があるんです。認知症の人の根本にあるのは不安だと本で知りました。今までできていたことができなくなっていく。それから、「もうすぐ寝るから、その前にトイレに行っておこう」というような、時間軸に沿って行動の段取りを組むことができなくなるんです。

そういった計り知れない不安に、たった一人で向き合っている。しかも、その不安は周りと共有できないものなのに、父親は誰かに当たり散らすでもなく、その大仕事に挑んでいるのだと思うと、尊敬の念すら湧いてきました。

実は、私自身が介護をする前に大病を経験したことも、父親の気持ちを理解する助けになりました。幸い病気は回復しましたが、闘病中はできていたことができなくなり、来年や再来年という未来を見据えた計画はできませんでした。病気なら回復の希望もありますが、老いや衰えは終わりが見えています。自身の病気の経験と重ね合わせることで、多くの気づきがありました。

介護はできる限り人を巻き込むべし

――今の社会における介護の問題点は、どんなところだと思われますか?

岸本さん:介護保険ができたことは本当に画期的なことで、この制度を作ってくださった先人に感謝します。ただ、今後は支え手不足になるので、その課題をどのように解決していくかが問われていると思います。

改善方法はいろいろと考えられると思っています。近年、情報通信技術が発達しているので、それをうまく介護に取り入れられたら、支え手の負担を減らすことができるはずです。

例えば、要介護のかたがある動きをするとアラートが鳴って、職員さんが様子を見に行くようにする。よかれと導入してみると、職員さんの負担がかえって増えた、という失敗例を耳にします。けれど、それは情報通信技術の使い方が開発途上だから起こるのだと思うんです。

見守りやお風呂の介助など、様々なところで介護ロボットも登場しています。そういった科学技術の発展と、それをうまく取り入れることによって、人手不足を補えるようになるといいですよね。

――介護に携わる人にメッセージをお願いします。

岸本さん:いい意味で、できる限り人を巻き込んでほしい。公的なサービスを受けるのはもちろん、近所の人の助けも借りてください。私の場合、父が1人で徘徊していた時に、よく買いに行く花屋さんが気づいてくれました。介護していることを隠してしまう方もいるのですが、どんどん開示していくほうが、お互い楽になると思います。

◆エッセイスト・岸本葉子

きしもと・ようこ/1961年6月26日、神奈川県生まれ。東京大学卒業後、会社員、中国留学を経て執筆活動に。暮らしや旅、食、俳句などを題材に、知的で温かな眼差しで日常を綴るエッセイを数多く発表。2001年に診断された虫垂がんの経験を『がんから始まる』(文藝春秋)に、2014年の父親の看取りを『週末介護』(晶文社)に著し、共感と支持を得ている。

撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香

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