自治体と連携進める資生堂、高齢者向け美容教室が盛況「化粧に夢中になる男性シニア層も」【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.4後編】
化粧のもつ力を科学的に立証した「化粧療法」のエビデンスをもとにした資生堂『いきいき美容教室』が人気となっている。同社の社会活動企画推進グループで美容教室の普及や運営に邁進するグループマネージャーの深沢久美子さんと成田美由紀さんにお話を伺った。
資生堂の「いきいき美容教室」地域活性に
「講座が進んでいくうちに参加者と仲良くなり、驚きと笑いのある楽しい時間となりました」「こんなに楽しく、たくさん笑う講座は初めて。化粧とともに内面磨きも続けていきたいです」「久しぶりに口紅をつけて楽しく、心地よかったです」
資生堂の「化粧療法」を具現化する手段である『いきいき美容教室』に参加した高齢者たちから、続々と嬉しい声が届いているという。
資生堂・社会活動企画推進グループ・グループマネージャーの深沢久美子さんは語る。
「『いきいき美容教室』は、介護施設や地方自治体、社会福祉法人、医療法人、企業などの組織として参加枠を申請する仕組みになっています。個人のお申し込みはまだ受け付けていないのですが、現在は自治体を通じてプログラムに参加される場合は、無料で体験できることがほとんどです。
この活動を通じて、資生堂が目指しているのが、高齢者を地域でサポートする社会づくりです。美容教室を実施するにあたり、今後も自治体との連携を強めていきたいと考えています」
自治体との連携協定でさらなる普及へ
2025年3月に資生堂は横浜市と「介護予防事業に関する連携協定」を結んでいる。
「横浜市の高齢者を「化粧のちから」で支援しています。美容教室は人気のある講座なので予約が取りずらい状況ですが、自治体との協定により開催枠を確保しており、多くの地域で開催が決まっています。また、大阪府の泉佐野市とは、子育て支援も含めた包括連携を締結しました」(深沢さん)
このほか、さまざまな自治体と地域活性化等の観点も合わせた高齢者課題解決の取り組みを展開している。中でもユニークな事例が徳島県の美馬市との連携だ。
化粧セラピストを育成し美容教室を拡大
「全国各地の資生堂の拠点に講師のネットワークはあるのですが、人的リソースが限られているので、教室開催の要望に思うように応えることができていないことが課題です。
また、過去には、化粧療法の知識とスキルを身につけ、認定資格を取ったにもかかわらず、化粧品がないなどの理由で実際に活動できていないという声がありました。
そこで、美馬市との連携では、すぐに活動ができる体制の整備まで、資生堂で支援します。
まず、化粧セラピストになるまでのプログラムを当社でサポート。セラピスト資格認定までの講座や、教室に必要な化粧品などのアイテムを教材で提供することで、すぐに活動を始められ、その後も継続できるようバックアップいたします。その後は市で(化粧療法の推進を)自走していただく予定で進めています。
全国の自治体と協力して、こうした新たな取り組みを増やしていけたらと考えています」(深沢さん)。
「化粧にハマった!」男性の参加者にも好評
講師も務める社会活動企画推進グループの成田美由紀さんに、教室での様子を伺った。
「スキンケアを始める前に、簡単な指先のストレッチをします。そして、まず化粧品の香りをかぐところからスタートします。いきなり顔に触れるのではなく、指先のハンドケアをして、つぎに腕を刺激、最後に顔に触れます。体の遠い部分からアプローチしていきます。
とくに化粧から遠ざかっている高齢者のかたには、いきなりメイクしましょうと顔に触れるのは抵抗を感じるかたもいらっしゃいます。
メイクをするときは動作を細かく分けて実践します。パフを肌にあてる動作は、優しくトントンとリズムを刻んで。それができたらファンデーションを肌に塗って、と基本動作を繰り返しながら、本人が“できる”という自信をもっていただいたところで、次の動作にステップアップしていきます。
そして最後は、できたことを喜び合い、家族や施設スタッフを交えて仕上がりを褒め合う。そんな流れになっています」
美容教室の参加者には男性も増え始めている。夫婦での参加者のほか、経営者、シニアエクゼクティブ向けの美容講座」なども好評だという。
「いきいき美容教室は男性からも多くの要望を受け始めています。現在の高齢男性には、化粧は女性がするものだという意識がやはり強いのですが、奥様と一緒に参加したり、自治体によってはあえて男性のみを対象に教室の募集をかけたりするケースも出てきています。そして実際に参加すると、化粧にハマる男性は多いですね。
シニアの男性は、ファンデーションで肌を少し明るくすると印象が良くなりますし、眉毛を整えてキリっとされると、『これ、良いね』とメイク道具を購入したいとおっしゃる男性もいらっしゃいます」(成田さん)
男性は会社定年後、社会との接点が一気に少なくなる傾向にあり、加えて昨今はコロナ禍の影響で地域とのつながりやコミュニケーションも希薄になりがち。そこに化粧の楽しさと心身への効果がフィットするのだという。
高齢者にまつわる社会課題が深刻化している現在、資生堂は「化粧のもつ力」が介護予防やADL改善、QOL向上に効果があるというエビデンスのもと、社会の今と未来に資する活動として化粧療法のさらなる展開拡大に乗り出している。
「高齢者課題の解決には、日常と接点のある行動が大切。毎日簡単にできる楽しみとして、これからもさまざまな形で化粧の意義を広げていきたいです」と、深沢さんは最後に力強く語った。