「認知症の母の袖口がびしょびしょに濡れている」理由と対策|「100円ショップのアイテムを使ってみたが残念な結果に」
母親の認知症介護は13年目に突入した作家で介護ブロガーの工藤広伸さん。母は認知症の進行とともに、家事など日常生活の中でできないことが増えてきているという。そんな母の行動で最近気になるのが、袖口がぐっしょりと濡れていること。一体なぜなのか、100円ショップを歩いて、対策グッズを探してみたが――。
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(81才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
母の袖口はなぜ濡れてしまうのか?
母がシャツの袖口を何度も触りながら、コタツ布団にこすりつけたり、腕をコタツの中に入れたりを繰り返していました。毎日のように袖口を触るので、気になって確認してみると水で濡れていました。どうやら袖口を乾かすための行動だったようです。
夏はすぐ乾くのでいいのですが、冬はいつまでも濡れた状態のままです。インナーのシャツの袖口まで濡れているので、母が風邪をひかないよう何度も着替えをする必要がありました。
いったいなぜ袖口が濡れるのか、理由が分からなかったので母の行動を観察してみました。
料理や皿洗いなどの家事が得意だった母
母は認知症が進行して料理ができなくなってしまいましたが、頭の中では今も台所に立って息子のために料理を作る現役バリバリの主婦です。
母は台所に立って夕食の準備をしようとするのですが、何をしたらいいか分からないのか、テーブルに食器や鍋を並べます。わたしは台所に立ちたい母の思いを汲んで、皿洗いをお願いしています。しかし、その皿洗いもそばで見ていないと、濡れた皿をそのまま食器棚に片づけたり、食器棚と勘違いして冷蔵庫にお皿を入れたりします。
以前は母に細かく指示していた時期もありましたが、今は皿の油汚れが落ちていて水滴さえ拭けていれば、あとは自由にやってもらうようにしていて、最後にわたしがフォローしています。
この皿洗いのタイミングで、袖口を濡らしていることが分かりました。
100円ショップのアイテムで解決できないか?
皿を洗うときだけでなく、母が顔を洗うときも同じように袖口が濡れます。多くの人は袖口が濡れないよう腕をまくったり、袖口に水が入らないような動作をしたりするのですが、母は腕をまくらずに顔を洗って袖口を濡らし、手や腕を伝った水が台所の床に落ちます。
袖口が濡れる原因が分かってからは、母が台所に立ったら、わたしがすぐに駆け付けて、思いっきり腕をまくるようにしました。しかし皿を洗ったり洗顔したりするだけでなく、トイレのあとや手の汚れが気になったときなど、手を洗う瞬間は一日に何度も訪れます。その都度、母の腕をまくるのは大変です。
何かいい方法はないかと考え、ホームセンターや100円ショップに行って商品を眺めながら解決策を探ることにしました。
いつもこうやって介護の困りごとを解決してきたのですが、今回も100円ショップをウロウロしていたら、「腕カバー」なるものが目に飛び込んできたので、早速購入してみました。
腕カバーで対策をしてみた結果
腕カバーは腕全体を覆って袖口の汚れを防いでくれるためのもので、手首と肘のあたりにゴムが入っているので、袖口に隙間ができません。母が皿を洗うタイミングがきたので、早速腕カバーをつけました。
いつもどおり皿を洗ってもらったあと、母の袖口を確認すると全く濡れていません。これで解決したと思ったのですが、次に腕カバーをつけたときはなぜか袖口が濡れていました。不思議に思い腕カバーを確認すると、わずかに隙間ができていました。
母は足や手の筋肉が痩せる難病を抱えているので手首がかなり細く、腕カバーのゴムが最も縮んだ状態でも隙間ができていたのです。結局、腕カバーは数回使ったところで中止しました。
これまで100均アイテムを介護に使う記事を数多くご紹介してきましたが、今回はうまくいかなかったようです。いつもダメで元々と思いながら介護に応用しているので、うまくいったらラッキーですし、失敗しても110円なので経済的なダメージはありません。
腕をまくる習慣を思い出して欲しい
仮に腕カバーで対策できていたとしても、母は認知症なので腕カバーの存在自体を忘れてしまいますし、使い道も覚えられないでしょう。わたしが母のそばにいて、毎回腕カバーをつけないと、袖口は守れません。
結局、これまでどおり母が台所で水を使おうとしたときに、わたしがダッシュで駆けつけて母の袖をまくるようにしています。これを何度も繰り返していると、母は袖をまくらないといけないと思い出すようで、4回に1回くらいは袖をまくってくれます。
認知症が進行しても、「手続き記憶」と呼ばれる体で覚えた記憶は比較的保たれると言われていて、例えば子どもの頃から自転車に何度も乗っていれば、体に記憶として染みついているので、乗り方を忘れないと言われています。
水仕事をするときに腕をまくる動作も繰り返しやってきたことなので、言葉はなかなか出てこなくても、動作は思い出すようです。
母が袖口を濡らす動きを見て、多くの人は無意識のうちに袖口が濡れないような手の動きをしていたことに気づきました。しかし認知症が進行すると、そういった手の動きを忘れてしまったり、袖口の汚れに無頓着になったりするのだと思います。
今日もしれっと、しれっと。