要介護でも世界一周クルーズを!80代女性「船上で毎日運動を続けたら寄港先で杖なしで歩けるように」
大型客船ピースボードで世界一周の船旅をしながら“歩く力”を取り戻す―――。優雅な洋上で運動プログラムを実施するクルーズツアーが、シニア世代に注目を集めている。話題のクルーズに帯同し、機能訓練を指導しているスタッフに、参加者たちのエピソードを教えてもらった。
教えてくれた人
介護福祉士、機能訓練指導員・村井瑞貴さん
鍼灸師の資格を持ち鍼灸接骨院勤務を経て、ポラリスのデイサービスで機能訓練指導員や主任として従事。2023年の世界一周クルーズツアーから同行し、希望者の機能訓練や寄港地での介助支援を行う。「ご自分でできることを大切に」をモットーに明るく指導する。https://www.polaris.care/
世界一周クルーズ×運動プログラム 話題のツアーに参加した人の声
「世界一周の船旅、約3か月の航路ということで、最初は自信がないかたでも、洋上で集中して運動プログラムに取り組むことで、筋力が徐々にしっかりしてきて機能の改善がとても早いと実感しています。船旅で日数を重ねるごとに、自信をもって旅をより楽しめるようになられるかたが多いんですよ」
明るい笑顔でこう話すのは、自立支援特化型デイサービスを運営するポラリスの機能訓練指導員で介護福祉士の村井瑞貴さんだ。
同社はピースボート(ジャパングレイス)と提携し、2023年から世界一周のクルーズツアー『ポラリス×クルーズ』を実施している。
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船上で運動プログラムの指導や寄港先での介助支援を行っている村井さんに、クルーズの魅力や参加者たちのエピソードを伺った。
「脳梗塞などの後遺症で手足に麻痺が残ってしまったかた、90代とご高齢で体力に自信がないかたなど、それぞれご事情を抱えた参加者がいらっしゃいますが、みなさん寄港地の観光でしっかり歩けるようになりたいといった、目標をもって運動プログラムに挑戦されています。
毎日約2時間のプログラムを頑張って、ご家族と一緒に寄港地で観光をされています。船内ではイベントを楽しむなどみなさん船の旅を満喫されていらっしゃいます。
我々介護や機能訓練をサポートするスタッフのほか、医師や看護師などの医療スタッフも乗船しています」
昨年4月に村井さんが帯同したクルーズは、3か月かけて世界一周。日本を出てインド洋を南下し、南アフリカの喜望峰を周ります。ヨーロッパを経て北欧のフィヨルドを遊覧。その後、アイスランドから北米に下ってパナマ運河を通過してアラスカまで北上して氷河を見て、日本に戻る航路。全17か国を観光するツアーだ。
「南極に近づいたとき、船のデッキから氷河の上にペンギンや海に浮かぶクジラが見えた時は感動しました。私自身、利用者さんの笑顔が増えていく様子を間近で見ることができ、ともに船旅の感動を味わえるのはとても嬉しいこと。貴重な経験をさせてもらっています」
クルーズの参加者たちのエピソードを以下でご紹介する。
1.途中下船の心配をするも最後まで旅を満喫(70代男性)
世界一周の船旅に始めて参加したAさんは70代の男性。頸椎損傷を発症し、後遺症からスムーズに歩けなくなってしまったという。
「息子さんと一緒に参加されていたAさん。乗船当初は、立ち上がることが難しく、最後までクルーズツアーを続けられるか心配されていました。
毎日およそ2時間の船上で運動プログラムをしっかり行った結果、身体の動作性がアップ。私は寄港地でのサポートもさせていただいたのですが、バンクーバーでは、歩行器や杖を併用しながら、石畳の上をしっかり立って歩まれていました。
Aさんは、『身体を動かさないとダメなことはわかっていたけど、実際やるとこんなに効果があるとは思わなかった』と苦笑いしながらも、想像以上の回復力にご自身でも驚いていらっしゃいました」
「ツアー後半のバンクーバーの寄港地では、運動の成果が出て、階段の昇り降りを以前よりもスムーズにできるようになって…。そのお姿を拝見して、とても嬉しかったです。
体力も向上したようで最後まで旅をしっかり満喫され、いい笑顔をされていらっしゃいました」
2.今度は孫と一緒に参加したい(89才女性)
腰に痛みを抱えて歩くのに不安があった女性(89才)。
「船の上で89才を迎えた女性Bさんは、『100日乗り切れるかしら…』と不安なご様子。腰痛をお持ちで、船旅や運動プログラムに耐えられるだろうか同行したご家族も心配されていました。
2か所目の寄港地であるシンガポールでは、初めて観光ツアーに参加されました。最初の頃は歩くのに杖が必要だったのですが、『家族に両手いっぱいにお土産を持って帰りたい!』という明確な目的があったため、毎日の運動を頑張られて。当初は5分歩いただけで腰が痛いとおっしゃっていましたが、なんとツアーの後半では、杖なしで8000歩以上歩けるようになっていました。
よく歩いた翌日もしっかり休まずに運動をされていました。ご高齢であっても、毎日の運動を習慣化することで、自然と体力や筋力がつくことを、身をもって体感されたようです。
翌年のツアーにも申し込みをされて、今度はお孫さんと船旅を経験したいと笑顔でお話されていました」
3.ジャクジーの出入りもスムーズに(70代男性)
70代の男性Cさんは、脳梗塞の後遺症で階段の昇降がスムーズにできないのが悩みだった。
「Cさんは乗船当初、階段の昇り降りがおぼつかなかったのですが、足腰の動作性の向上を図る運動プログラムを実施しました。
このプログラムは、6種のマシンを使って行うのですが、中でも下肢の動作性を向上する運動を意識して日々、懸命に取り組まれていました。下肢の動作性を向上する運動は浴槽に入るときの“またぐ”動作をスムーズにする目的もあります。
クルージングも運動プログラムも休日が設けられているのですが、お休みのある日、船内を歩いていたら、Cさんがジャグジーを利用されているのを発見しました。
なんと浴槽につながる階段を以前よりもスムーズに昇り降りされ、ジャグジーの浴槽をしっかりまたいでいて、すごい!と感動しました。船上の生活を楽しまれているご様子で、私自身、とても嬉しかったのを覚えています」
海外ではハプニングもあるがそれも旅の醍醐味
クルーズ船は、アメリカやカナダ、アフリカ、ヨーロッパ、チリなどさまざまな国や地域に立ち寄る。村井さんら介護スタッフは、寄港地でのサポ-トも行っている(有料オプション)。
「寄港先の国では、海外のバリアフリー事情が気になることも多いですね。
海外の道は、段差や砂利道が多いですし、トイレ事情も困ることが多いですね。バリアフリーとは程遠い場所も多くて…。その場で工夫をしながら、なるべくご自身の足で歩けるようにとサポートさせていただくことを心がけているのですが、私たちもご利用者さまも驚くようなことも多いんです。
アフリカでは、サファリバスが来たとき、ステップが高くて乗れないという困った状況。私が利用者さんを肩車してバスに移っていただいたことも(笑い)。海外では思わぬことにも遭遇しますが、利用者さんに楽しんでいただくために工夫して乗り越えています。南極の美しい景色、そしてアフリカのレストランで食べた生牡蠣と白ワインは最高でした(笑い)」
船という非日常の空間でリラックスして過ごし、適度な運動を継続することで、心身ともにリフレッシュできると村井さんは続ける。
「我々が提供する運動プログラムは、なるべくご自身の力を使う、維持することで、自立支援を促す目的があります。3か月間、船旅を楽しみ運動を頑張られたかたたちは、筋力などの身体面と、やる気意欲といった精神面で、とてもいい成果が出ていると実感しています。
今まで諦めていた歩く力が、旅先でぐんぐん回復するケースを見てきました。ご本人が持つ力を引き出すのに、船旅がとても重要なきっかけになるんだと思います。船上という非日常の空間が、運動するモチベーションをアップさせるのかもしれませんね」
■ポラリス×クルーズ https://www.pbcruise.jp/polaris/
写真提供/ポラリス 取材・文/本上夕貴