初めてトラベルヘルパーを活用したヤングケアラーに密着!障害のある母といちご狩りへ「母の車いすを押してもらえた」戸惑いと喜び
ケアが必要な人の外出を支援する「トラベルヘルパー」というサービスをご存じだろうか?高次脳機能障害の母をもつヤングケアラーの高橋唯さんが、ヤングケアラー支援の活動の中で気になっていたトラベルヘルパー。制度を利用した親子に密着レポート!
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
外出支援の専門家「トラベルヘルパー」とは
ヤングケアラーにとって、ケアが必要な家族の外出は悩みの種のひとつだ。ケアを受ける家族にとっても、不慣れな場所に行くにあたっては心配なことも多いだろう。
そんな時に心強い味方になってくれるのが「トラベルヘルパー」だ。トラベルヘルパーとは、介護技術と旅の業務知識をそなえた外出支援の専門家。日本トラベルヘルパー協会が資格を認定している。
同協会に所属するトラベルヘルパーは、身近なおでかけから介護旅行まで、暮らしの外出に関わるすべての支援サービスを行っている。さらにはヘルパーの技術を活かして在宅介護や家事支援サービスも提供している。
障害のある母を連れて外出や遠出をする際に活用できるのではないかと以前から気になっていた。
トラベルヘルパーを利用していちご狩りへ!
筆者は、ケアラー支援団体「一般社団法人ケアラーワークス」に所属している。その活動の一環としてヤングケアラーにいちご狩りを楽しんでもらうイベントを計画した。ケアラーワークスでは、日本トラベルヘルパー協会と連携し、イベント時に無料でトラベルヘルパーを利用できる体制を整えている※。
そこで今回は、いちご狩りイベントの下見をするにあたり、ケアラーワークスのスタッフでヤングケアラーでもある友田智佳恵さん母娘が、トラベルヘルパーを利用してみた様子に密着した。
目的地は、東京・府中にある『空飛ぶいちご東京』だ。
※令和6年度東京都ヤングケアラー相談支援等補助事業の一環。
トラベルヘルパーさんと事前に打ち合わせ
トラベルヘルパーを利用するには、まず専用サイトにケアが必要なかたの情報や、どのようなサービスを利用したいかを登録する。その後、ヘルパーが決まったらサービス利用前に顔合わせをする(希望制)。
今回依頼したのは、ベテラントラベルヘルパーの岡安千絵さんだ。顔合わせでは、利用当日の経路やケア内容、見積もりについて丁寧に相談していく。顔合わせはオンラインでも実際に自宅へ訪問しての対応もどちらも可能とのこと。
智佳恵さんのお母さんは、くも膜下出血の後遺症で片麻痺・高次脳機能障害があり、普段は智佳恵さんとご家族がケアを担っている。
これまで智佳恵さんは、トラベルヘルパーに限らず、ヘルパーを利用した経験がないため、不安もあったそうだが、「事前に顔合わせができたことで、ヘルパーさんのお人柄もわかり、これなら利用できそうだと安心しました」と話す。
トラベルヘルパーさんが「母の車いすを押してくれた!」
当日、智佳恵さんとお母さんは、いちご農園へ向かう途中の駅まで自家用車で向かい、そこから岡安さんと合流した。自宅に迎えに来てもらったり、目的地で合流したり、どこからサービスを開始するかは利用者に合わせて決定される。
「お母さんと電車に乗るのは本当に久しぶり」と智佳恵さん。お母さんも心なしか緊張している様子だったが、岡安さんはさっと智佳恵さんに代わってお母さんの車いすを押しはじめた。
智佳恵さんは「自分以外の人がお母さんの車いすを押してくれて、自分は手ぶらなのはなんだか不思議な感覚です」と戸惑っていたが、岡安さんは、「私はそのために来ているんですよ。ケアが必要なかたはもちろんですが、いつもケアをしているかたにも、ケアをこちらに任せて楽しんでほしいんです」と笑いかけていた。
いちご農園で目を輝かせる母の姿
スムーズに電車に乗り込み、目的の駅に着くと、いちご農園までは徒歩で移動した。道中、下校する小学生たちと出会ったり、梅の花の香りを楽しんだりしながら難なくいちご農園に到着。
ビニールハウスに入ると、食べることが大好きだというお母さんの表情がパッと明るくなった。
当初、お母さんには椅子に座った状態でいちご狩りを楽しんでもらう予定だったが、いちご棚の前まで来ると、お母さんは目を輝かせて「いちご!大きい!」「赤いのがいい、これ!」と立ち上がった。岡安さんと智佳恵さんに身体を支えられながら、お母さんは自分の足でいちごの棚を1周し、収穫を楽しんだ。
智佳恵さんは「普段、お母さんはこんなに歩かないのでびっくりです」と驚いた。
行きでは緊張気味だった親子の表情も、帰りの道中では少し和らいでいたように感じられた。出発した駅まで戻り、智佳恵さん親子が車で自宅に帰る様子を見届けて、岡安さんのトラベルヘルパー業務は終了した。
トラベルヘルパーの利用料金は、今回は東京都の補助事業を活用した取り組みで無料だったが、一般利用の場合は1時間3000~5000円+交通費などの実費や宿泊を伴う場合は宿泊代などが必要となる。事前に見積もりをもらえるので料金に納得した上で利用するといいだろう。
ケアが必要な本人だけでなく、ケアラーも気軽に利用の検討を
今回はじめてヘルパーを利用した智佳恵さんは次のように振り返った。
「よかったこととしては 、はじめて外出というかたちで他人に協力をお願いし、人を頼る体験ができたことです。人に任せる経験は大きな収穫でした。やろうと思えばできるのか〜と。外出のプロがいてくれたことで初めての遠出も安心して挑戦できました。ただ、登録やヘルパーさんとの打ち合わせ、当日のスケジュール設計、下調べなどの事前準備は大変だと感じました」
岡安さんは「たしかに事前準備には課題の残る部分もあると感じています。ただ、こんなことできるのかな、頼んでいいのかな?と思うことはぜひ遠慮なくなんでも言ってみていただきたいんです。
ヘルパー利用を申し込んでくださるかたは、とても緊張されていることと思います。私たちもそのお気持ちを忘れないようにしていますが、どうかお気軽に利用していただきたいとも思っています。
短い時間からの利用もできますので、ぜひケアが必要なご本人もそうですが、ケアラーさんも人に頼ってみる選択肢のひとつとして、お試しいただきたいです」と話していた。
筆者自身も、日々のケアの中で「もうひとり人手がいたらありがたいのに!」と思うことがよくある。しかしながら、現状、ひとりでなんとか乗り切ってしまうので、なかなかヘルパーさんをお願いするという発想に至ることができなかった。
今回、智佳恵さんとお母さんの初挑戦にお供させていただいて、自分自身もいつ母をケアできなくなるかわからないし、自分がケアを受けることになるときのためにも、「人に任せる選択肢」を知っておくのは大事なことで、そのための練習としてトラベルヘルパーを利用するというのもアリなのだなと感じた。
現状、ヤングケアラーからのトラベルヘルパー利用申し込みは少ないそうだが、令和6年度は東京都からの助成を受けることで、都内のヤングケアラーは無料でヘルパーの利用が可能だった。今後もこのような工夫によって、ヤングケアラーも気軽に利用できるようなサービスになることを期待している。
■日本トラベルヘルパー協会 https://travelhelper.jp/yc/
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz