「70才で要支援1の父親が実の姉から施設の身元保証人を頼まれた」断ることはできるのか?【専門家解説】
多くの介護施設や老人ホームで入居時に求められる身元保証人。親族だからといって身元保証人を引き受けなくてはならないのか、断ることはできるのか。介護職員、ケアマネの経験を持つ中谷ミホさんに教えてもらいました。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
多くの介護施設で求められる身元保証人
老人ホームなどの高齢者施設へ入居する際には、多くの場合、身元保証人が必要になります。
入居者の家族や親族が担うのが一般的ですが、事情により親族が引き受けられない場合、断ることはできるのか。「高齢の父親が親族の身元保証人になるよう依頼された」という女性の実例をもとに対処法を解説します。
要支援1の父親に突然親族から身元保証人の依頼が
矢野雅子さん(仮名・53才・会社員)の父親(70才・要支援1)は、遠方に住む伯母(父親にとっては実の姉、72才)から「老人ホームの身元保証人になってほしい」と依頼されました。
叔母は、独身で長い間一人暮らしを続けていましたが、病気をきっかけに自立型老人ホームへの入居を決意しました。しかし、施設側から「入居するには身元保証人が必要」と言われたため、弟にお願いすることにしたのです。
これまでほとんど交流のなかった叔母からの突然の依頼に、矢野さん親子は困惑しています。さらに、父親自身も高齢で、要支援1の認定も受けているため、身元保証人を引き受けるのは現実的に難しい状況です。身内からの頼みを断ることに罪悪感を覚え、どうするべきか決めかねています。
身元保証人の役割と引き受けなくてはならないリスク
矢野さんの父親が身元保証人を引き受けた場合、どのような役割や責任を負うことになるのでしょうか?
【1】費用の支払い義務
契約者である叔母が入居費用を支払えなくなった場合に、その支払いを肩代わりする責任を負います。
【2】意思決定の責任者
認知症などにより、伯母の判断能力が低下した場合、医療や介護に関する意思決定を本人に代わって行う責任者となります。
【3】身柄や所持品の引受
伯母が亡くなった場合に身柄や所持品の引受人となります。その際の手続き、未払い分の精算も行います。
【4】緊急時の連絡窓口
施設との連絡窓口として、緊急時に対応する必要があります。
矢野さんの父親が身元保証を引き受けた場合、利用料の支払いが滞った際の支払い義務が生じるほか、病気やけがなどの緊急時の連絡先としての役割を担います。また、伯母の判断能力が低下した際には、矢野さんの父親が意思決定を代行する責任を負い、亡くなった場合には身柄や所持品を引き受ける役割も求められます。
このように、身元保証人は、精神的・経済的な責任を伴いますので、引き受ける場合にはリスクを十分に理解する必要があります。
親族でも身元保証人を断ることはできるのか
結論から言うと、身元保証人を断ることは可能です。
身元保証人になることは法律で義務付けられているものではなく、あくまで個人の意思に基づくものです。そのため、親族だからといって無理に引き受ける必要はありません。
断る際には、高齢で要介護認定を受けていることや遠方のために緊急時の対応が難しいといった事情を伝えると施設側に理解されやすいでしょう。
なお、身元保証人を断った場合でも、施設側に連絡先だけ伝えておいて、緊急時や逝去の際だけ連絡をもらうことも可能な場合もありますので相談してみてください。
成年後見人に連帯保証人や身元引受人を頼めるか?
親族が身元保証人を引き受けられないケースでは、成年後見人が選択肢に挙がることがあります。
成年後見人とは、入居者の財産や生活を適切に管理できなくなった人を保護するための制度で、後見人は基本的に家庭裁判所が指定します。多くの場合は弁護士や司法書士など専門家が指定されることが多いですが、弁護士や司法書士などの第三者が後見人である場合、身元保証人や身元引受人にはなれません。
これは、成年後見人の役割と身元保証人の役割が利益相反の関係にあるためです。成年後見人は被後見人の財産管理や法律行為を代行する立場にあり、被後見人の利益を守ることが求められます。
一方、身元保証人は、支払い債務の保証をする立場であり、これが利益相反を生む可能性があります。
→「成年後見制度の手続き|認知症になってからでは手遅れ!ボケる前にやるべきこと【役立ち記事再配信】」
身元保証人を断る場合の対応策
法律(※)では、病院や施設が身元保証人がいないことを理由に入院・入居を拒否することを認めていません。
介護施設については「入院・ 入所希望者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を 拒否する正当な理由には該当しない」と、国の見解が示されています。
しかし、実際には、料金の未払いや緊急時の連絡先がないことを懸念して、受け入れをためらう施設も少なくありません。
そのため、身元保証人になることを断る場合には、次のような対処法を提案すると良いでしょう。
※法律「医師法第19条1項」
→「法律上では、身元保証人等がいないことを理由に入院や入所を拒否できない」【弁護士解説】
<対処法>
【1】身元保証を代行する団体や代行サービスを利用して介護施設に入居する
【2】身元保証人が必要ない介護施設を探す(成年後見人がついていれば契約可能なところもある)
これにより、身元保証人がいない場合でも安心して暮らせる施設を見つけることができるでしょう。
まとめ
身元保証人を引き受けるのが難しい場合、断ることは可能です。断る際には、こちらの状況や理由を丁寧に説明して納得してもらいましょう。また、身元保証を行う団体や代行サービスや身元保証人が必要ない施設を探すなどの代替案を提案するのも一つの方法です。