成年後見制度の手続き|認知症になってからでは手遅れ!ボケる前にやるべきこと【役立ち記事再配信】
家族が認知症になった時、大切な財産を管理するのは誰なのか。「身近な家族」が管理するのが当然と思うが、実態はそうなっていない。「第三者」の弁護士や司法書士が“財産保護“”を名目に介入し、家族が不幸に見舞われるケースが続出している―。
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夫のお金なのに、第三者が管理。妻は自由に使えない
「夫が働いて貯金してきたお金なのに、なぜ夫が好きな食事を自由に食べさせたり、服を着せてあげたりできないのか。夫のことをいちばん知っているのは、長年連れ添っている妻の私じゃないんですか! 理不尽でなりません」
そう憤るのは、埼玉県在住の67才主婦・吉田さんだ。一昨年、3才年上の夫が認知症と診断されたことが、ことの発端だった。
「最初は物忘れが少し目立つ程度でした。ところが、2年ほど前から一日中ぼんやりすることが増え、かと思えば辻褄の合わない話を延々と始めたり、別人のようになっていったんです。息子に手伝ってもらい、嫌がる夫を力づくで病院に連れて行きました。診断は、やや重度のアルツハイマー病。最初に聞いた時は、言葉を失いました…」
夫とふたり暮らしの吉田さんは、ひとまず介護保険の申請も兼ねて市役所へ。すると言われたのは、「成年後見制度を利用しましょう」という聞き慣れない言葉だった。介護問題に詳しい弁護士の外岡潤さんが話す。
「『成年後見制度』とは、認知症などで判断能力が衰えた時、本人が不利益を被らないよう、家族や第三者が『後見人』となり、本人(被後見人)に代わって財産管理や日常生活の支援をする制度のことです。後見人は、不動産や預金などを管理したり、介護サービス、施設への入所契約など、本人に代わってあらゆる行為が可能です」
家裁が後見人に選んだのは、“赤の他人”の弁護士
たしかに、認知症になったら、自分でお金の管理をすることも、介護の環境を選ぶことも難しい。普通に考えたら、本人の家族である配偶者や子供が成年後見人になって代わりにやるのがスムーズだろう。実際、吉田さんもそう考えていた。
「手続きは役所に紹介された弁護士に任せ、家庭裁判所で後見人の申し立てをしました。2か月後、届いた『審判書』を読むと、後見人は私ではなく弁護士が選ばれたと書かれてあったのです」 “赤の他人”の弁護士が後見人になったことで、吉田さんの生活は一変した。
「夫名義の銀行口座の通帳やキャッシュカード、印鑑はすべて後見人に取り上げられ、自由に使えなくなりました。毎月渡される生活費はたったの10万円。必要最低限以外のお金は基本的に渡さないというのです。正直、10万円の生活費では全く足りません。夫の食べたいもの、望むこと、介護に必要な補助用具まで購入を禁止されました。夫のお金なのになぜ夫に必要なものまで買えないのか」
外岡さんが話す。
「任意後見」と「法定後見」の違いは?
「成年後見制度は、大きく『任意後見』と『法定後見』の2つに分かれます。任意後見は、認知症を患った本人に判断能力のあるうちに、自分の意思で後見人を選ぶことで、法定後見は、すでに判断能力が衰えた状態になってから後見人を選ぶものです。後者の場合、後見人の選任権限は家庭裁判所にあるため、たとえ妻が希望しても、必ず後見人になれるわけではありません。後見人の主な役割は本人の財産を守ること。そのため後見人は、財産が減らないよう、極力支出を抑えようとします。残高も後見人だけが把握し、親族は家裁の許可を得ない限り知ることができません」
現状では、親族が後見人になるケースは全体の3割弱で、ほとんどは弁護士や司法書士など第三者が選任されている(下記グラフ参照)。
→関連記事:「成年後見」と「家族信託」の違い 図表でわかりやすく解説
親族がお金を使い込むケースが横行し、第三者が選任される傾向に
本人をいちばんよく知っているはずの親族はなぜ後見人になれないのか。制度に詳しいジャーナリストの長谷川学さんが話す。
「’00年の制度開始時は、全体の9割が親族後見人でした。しかしいずれ自分が相続するお金だという発想から、親族がお金を使い込むケースが横行。これを受け、家裁は親族後見人を避け、第三者を選任する傾向を強めたのです」
成年後見人として、親族が選ばれるか、第三者が選ばれるのかについては厳密な基準はなく、裁判官がケースバイケースで選ぶとされる。最近の傾向として、財産が多くて遺産分割が難しかったり、親族間で意見の対立があったりすると、専門職(第三者)が選ばれることが多いという。「財産が多い」といっても、1000万~1500万円以上の預金があれば、親族が選ばれにくいとされ、決して一部の資産家だけの話ではない。
「たとえば東京都の場合だと、預金が5000万円以上あったら、基本的に親族が後見人に選ばれることはありません」(長谷川さん)
法定後見人への報酬が高額になることも
申し立て時の書類の煩雑さや、後見人への高額な報酬も、この制度の難点だ。認知症の母親を介護したエッセイストの鳥居りんこさんが語る。
「家裁に提出する書類は、母の診断書や戸籍謄本などのほか、財産目録の作成や、年金、医療費などの収支をまとめた収支報告書の作成と、素人が簡単にできるものではありません。専門家に依頼するとしても最低10万円はかかります。加えて、年間数十万円もの後見人への報酬も、母が死ぬまで払い続けないといけません。母には、老人ホーム代や介護保険料、生活費などで月25万円程かかっていました。とても払えるとは思えず、制度の利用を止めました」
後見人への報酬は、本人の財産額で決まる。任意後見人は親族による「無償のボランティア」の場合が多いのに対し、法定後見人は月1万~6万円が相場だ(以下表参照)。
吉田さんが話す。「夫の預金や自宅を合わせた資産総額は約5000万円。相場からすると毎月5万円も後見人に払っていることになります。しかし、この3年、後見人が夫の様子を見に来たのは最初の1回だけ。毎月、年金の管理程度しかしてないのに、高額な報酬を払うのは納得いきません」
後見人の報酬額は家裁が決め、親族にその金額は公表されず、領収書も発行されない。また、親族が後見人を解任したくても、「後見人が夫のお金を横領でもしない限り、家裁が解任することはない」(長谷川さん)という。
判断能力のあるうち「任意後見契約」を交わすことが大切
どうすればいいのか。「そもそも、認知症になってからでは法定後見しか選べません。しかし法定後見は、本人が死ぬまで“赤の他人”が家の財布を握り、高い報酬も必要。一度申し立てると基本的に取り下げられないため、利用時は慎重に判断しなければなりません。大事なのは、本人の判断能力があるうちに『任意後見契約』を交わしておくこと。任意後見人にも、財産の使い道を見守る『監督人』が付き、報酬を払う必要もありますが、法定後見人の報酬と比べれば低く、普段は後見人が直接裁量権を持つため、自分でコントロールできます。また、認知症の兆候が見られてもすぐに諦めてはいけません。症状の程度が軽ければ、医師の診断次第では任意後見を選べることもあります。いきなり法定後見の手続きを取らず、まずは医師に相談しましょう」(外岡さん)
任意後見人になるには、本人と一緒に公証人役場で公正証書を作成し、「任意後見人に指名する」という契約を結んでおくだけ。本人の判断能力が低下したら家裁に申し立てることで、任意後見人制度がスタートする。
※女性セブン2019年3月21日号