哲学者・土屋賢二さん、介護付き有料老人ホームに入居の決め手は「夫婦で入居」「子供の声が聞こえる」
哲学者でエッセイストの土屋賢二さん(79才)は約5年前に、介護付き有料老人ホームの入居を決めた。長年にわたって週刊誌で連載を持ち、「笑う哲学者」として知られる土屋さんがユーモアたっぷりに「終の棲家」探しの道程を教えてくれた。決め手となったのは、華やかな設備や景色などではなく、意外なポイントだったという。日常の暮らしを重要視する「新たな視点」は、これからの参考になるものばかりです。
教えてくれた人
土屋賢二さん/哲学者・エッセイスト
1944年岡山県出身。お茶の水女子大学名誉教授。研究・教育活動の傍ら、1997年から週刊文春でエッセイ『ツチヤの口車』を連載。「笑う哲学者」の異名を持つ。2023年、瑞宝中綬章受章。
“引っ越し”をきっかけに「介護付き有料老人ホーム」へ
《老人ホームというと、のんびり余生を送る場所と思っている人もいるが、わたしにはそんなつもりは毛頭ない》《これからひと花もふた花も咲かせるつもりだ》
お茶の水女子大学名誉教授の土屋賢二さん(79才)は2019年に『週刊文春』誌上で30年近く連載を続けてきたエッセイ『ツチヤの口車』でそう宣言し、長年連れ添った妻とふたり、兵庫県の介護付き有料老人ホームに入居した。
以来《入居者の九十過ぎの女性が「注射の箇所が痛い」と言うと、「免疫力が高いのね。若い証拠よ。うらやましい」との声が上がった》《ここでは副反応が出る方がうらやましがられるのだ。アナフィラキシーショックでも起そうものならヒーローだ》などと、元気なシニアが集まる老人ホームで「青二才」扱いされながら生活する様子をユーモラスに綴っている。
「入居のきっかけは、“引っ越し”。子供がいないのでいずれは施設に入るつもりでしたが、自分が老いていく実感がイマイチ持てなくて……(笑い)。まだずっと先と思っていました。でも、家を住み替えることになり転居先を探すうち『いつか入るなら、いまから入った方が楽ではないか』と思うようになったんです。それまで5回ほど引っ越しを経験してきたけれど、そのたびに体力を消耗する。いくら“おまかせパック”といったって、絶対に自分でやらなければならない作業が出てくるわけで、年を重ねるほどにきつくなる。だったらもう老人ホームでいいか、と思ったんです」(土屋さん・以下同)
『温泉』『海が見える眺望』ではなく利便性重視
だが、夫婦で始めた施設探しは困難を極めた。
「そもそも、ふたり一緒に入れるホームはそう多くありません。当初、いろいろ調べてようやく見つかったのは山奥にあり、一般棟と介護棟をバスで行き来しなければならない施設でした。将来どちらかが要介護状態になった場合、一緒に入居したのに離れて暮らすことになるため、断念せざるを得なかった」
その後も関東・関西エリアを問わず何か所も歩き回った末、ついに絶好の「終の住処」が見つかった。
「いま入居している神戸の施設は珍しく街中にあり、コンビニやスーパーも近くて利便性が高かった。
アクセスを重視したのは、以前、雑誌の取材で訪れた熱海の老人ホームが『温泉』や『海が見える眺望』を売りにしていたけど、実際には入居者は誰も海に目を向けず、温泉にも入っていなかったことが強く印象に残っていたからです。
しかも街に出るにはバスが必要で、自由に外出ができない。そのとき、老人ホームに必要なのは“特別感”ではなく、それまでの日常をそのまま続けられるような環境だと実感しました」
施設の周辺にはマンションも建ち並び、幅広い世代が行き来する。
「小さな子供が多いところにも惹かれました。ホームの中は老人ばかりだし、子供の声が聞こえると、うれしい気持ちになる。“もうひと花咲かせるぞ”と元気が出てきますね(笑い)」
文/池田道大 取材/小山内麗香、平田淳、伏見友里
※女性セブン2024年8月22日・29日号
https://josei7.com/
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