「日本人は塩分を悪者扱いしすぎ」と和田秀樹医師が警鐘 「1日あたり10~15gの塩分摂取が健康的で夏場の熱中症対策にも効果的」
健康にまつわる情報のなかで、「老化を防ぐ」食事や運動、生活習慣の話ほど、間違いが多いものはない。最新の研究ではすでに否定されているにもかかわらず、いまだに推奨されている例もある。今回は、健康と塩分の関係性について専門家に聞いた。
教えてくれた人
和田秀樹さん/精神科医
秋津壽男さん/総合内科専門医・秋津医院院長
【旧】塩分は摂らないほうがいい→【新】過度な減塩で死亡率が上昇
健康のために「減塩」を意識している人は多いが、減塩で死亡率が上がるというデータがある。
米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』(2014年8月14日号)に掲載されたカナダ・マックマスター大学の研究では、尿から排出されたナトリウムの量と死亡率の関係を解析。その結果、最も死亡率が低いのは、尿中のナトリウム量が1日4~6gの人だと示された。
『「健康常識」という大嘘』の著書がある精神科医の和田秀樹医師が解説する。
「尿中のナトリウム量の2.5倍が摂取した食塩の量に相当します。この論文によれば、最も死亡リスクが低くなる食塩の摂取量は1日あたり10~15gとなります」
ところが、厚労省が1日あたりの塩分摂取の目標として示しているのは、男性7.5g未満、女性6.5g未満。ほかにも日本高血圧学会は、高血圧の人の1日の摂取目標を6g未満としている。
和田医師が指摘する。
「日本人の平均塩分摂取量は男性で1日あたり11g程度。本来は死亡率を最も下げる摂取量ですが、厚労省や日本高血圧学会が示す目標値に従い、主治医から『減塩すべき』と指導されている人が少なくない。
そもそも、厚労省や日本高血圧学会の目標値はあまりに低すぎます。たしかに過剰な塩分摂取は血圧の上昇や腎臓に負担をかけるリスクもありますが、マックマスター大の研究で興味深いのは、尿中ナトリウムが4~6g、すなわち1日の食塩摂取量が10~15gよりも多い人の死亡率に比べて、塩分摂取量が少ない人のほうが死亡率が上昇したことです」
論文が示したデータについて、和田医師はこう考察する。
「日本人は塩分を悪者扱いしがちですが、本来、塩分は人間に必須のミネラルでもあります。その塩分が不足すると、めまいや頭痛、疲労感などの症状を特徴とする『低ナトリウム血症』のリスクが高まります。
低ナトリウム血症のリスクは高齢者で高く、重症になると痙攣を引き起こしたり、昏睡に陥ったりすることがあります。夏場の熱中症も、低ナトリウム血症に起因する場合が多いのです」
塩分を控えても血圧が下がらない人もいる
減塩すると「血圧が下がる」として塩分を控えてきた人も多い。
しかし、近年の研究では「減塩しても血圧が下がりにくい人」がいることが判明している。
食塩が血圧の上昇にかかわる「食塩感受性」と、関係しない「食塩非感受性(抵抗性)」という分類があり、東京大学先端科学技術センターなどにより研究が進められている。
秋津医院院長の秋津壽男医師(総合内科専門医)が解説する。
「塩分の摂取によって血圧が上がる『食塩感受性高血圧』と、ほかの原因で血圧が上がる『食塩非感受性高血圧』があり、日本人の場合、食塩の摂取量を原因としない後者の高血圧は3 ~4割程度いるとわかってきています。後者のタイプは減塩しても血圧はほとんど下がらず、血圧を下げるためには肥満やストレス、睡眠不足などを解消することのほうが重要になります」
高血圧の人は、「塩分の多い食事と少ない食事を、1週間ずつ交互に摂って血圧を測定することで、自分がどちらのタイプかの目安になる。食塩感受性の人は、上下ともに10~15程度、数値の変化がみられる」(同前)という。
適度な塩分摂取が健康長寿に欠かせない。
※週刊ポスト2024年7月12日号
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