免疫グロブリンIgG4の関連疾患|臓器に腫瘤など症状、診療ガイドライン、治療法
IgG4関連疾患は血液中の免疫グロブリン(IgG=抗体成分)の一つである、IgG4が増加し、全身の臓器にリンパ球と形質細胞が浸潤して腫瘤(腫れ)を生じる病気だ。閉塞性黄疸、腹痛、唾液腺や涙腺の腫脹、水腎症など様々な症状が起こる。これらを総称してIgG4関連疾患といい、概念は日本から発信された。この疾患はステロイド治療で症状が軽減する。
免疫グロブリンの種類。IgGは1~4のタイプがある
IgG4は体内に侵入した病原菌などをやっつける、抗体成分の免疫グロブリンの一種だ。免疫グロブリンにはIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があり、血中に最も多く含まれているのがIgGである。1〜4のタイプがあってIgG4は血中で一番量が少なく、その働きもよくわかっていない。
IgG4関連疾患はIgG4が血液中に増加、リンパ球とIgG4を作り出す形質細胞が全身の臓器に浸潤し、線維化を伴い腫瘤となり、その腫瘤が臓器を圧迫するため、様々な症状が起きる。
IgG4関連疾患の概念を提唱した、がん・感染症センター都立駒込病院の神澤輝実院長に話を聞いた。
IgG4陽性細胞が全身の臓器に増加する
「膵がんと診断、手術された臓器を検査したら、がん細胞はなく、特殊な膵臓の炎症だったとの報告がありました。その後、一部の膵炎患者にステロイドが効く自己免疫性膵炎が報告され、血中のIgG4が高くなっていることが判明。私はその理由を調べるためにIgG4抗体で、がんとの鑑別が困難な切除された数例の膵臓を染色した結果、IgG4に陽性を示す細胞が大量にあったのです。しかも、唾液腺やリンパ節、消化管、骨髄など全身のあらゆる臓器にIgG4陽性細胞が増加していました。これは単なる膵炎ではなく、IgG4関連の全身性疾患だと考え、2003年に論文を発表したのです」
左右両方の唾液腺や涙腺に痛みのない、しこりができるミクリッツ病と呼ばれていた病気や自己免疫性膵炎は現在、IgG4関連疾患とされている。自己免疫性下垂体炎、間質性腎炎、後腹膜線維症、大動脈周囲炎などと呼ばれる疾患の一部も、IgG4関連疾患であることがわかっている。
どの臓器に病気が起こるかは人により違うので、すべてに共通する症状はないが、膵臓と唾液腺・涙腺で腫瘤が発生する症例が多い。50歳代から発症が増え、65歳でピークを迎える。涙腺・唾液腺では男女比がほぼ同じだが、それ以外の疾患は3対1で男性の発症が多い。1か所だけの場合と複数同時に発症することもあるが、数年を経て別の場所に発生するケースもある。
「正常な人のIgG4は血液中に3%程度しかなく、悪さをしません。なぜIgG4が増えるのか原因はわかっていません。最近、京都大学より自己免疫性膵炎患者が持つ自己抗体が膵臓の中のラミニンという物質を攻撃、自己免疫性膵炎を起こすといった説が発表されました」(神澤院長)
2011年に全身疾患としてのIgG4関連疾患の包括診断基準が策定された。
・1つ、もしくは複数の臓器で腫れた部分がある。
・血液検査で血中IgG4の値が135mg/dl以上である。
・病気の起きている臓器の一部を針で刺したり、手術で取り出し、顕微鏡で特徴的な所見(IgG4陽性の形質細胞)が増えているのが確認できた―。
これら3つすべてを満たす場合を確定例と判断する。
誤診手術が行われやすい「IgG4関連効果性胆管炎」
IgG4関連疾患という新しい病気の中でも、胆管がん誤診手術の可能性がある、IgG4関連硬化性胆管炎に対し、世界で初の診療ガイドラインが策定された。細胞を採取して組織を調べるのが難しいため、画像など総合的に胆管がんと鑑別する。IgG4関連疾患はステロイド治療で奏効するが、途中で止めると再燃もあり、コントロールが必要だ。
IgG4関連疾患の自己免疫性膵炎は、膵臓の中に硬い塊が出現するため、悪性腫瘍が疑われる。中には誤診手術が行なわれ、切除した細胞を検査したところ、がんではなく、炎症性腫瘤と判明した例もある。膵がんに対する自己免疫性膵炎の頻度は10対1程度だ。
現在、自己免疫性膵炎に対しては超音波内視鏡での吸引細胞診が実施されている。これは内視鏡を胃に挿入し、胃壁を通して膵臓に超音波を発して検査する。さらに胃の壁から膵臓に針を刺し、吸引で組織を採取して細胞を調べることで、がんか炎症かを診断する。これで誤診手術のケースが、かなり減少した。
「自己免疫性膵炎の診療ガイドラインは3回目の改訂予定で、診察の精度は上がっています。その一方、難しいのはIgG4関連硬化性胆管炎です。胆管の一部は肝臓の中にあり、また管の直径が約6ミリとすごく細いので、超音波内視鏡での吸引細胞診ができません。内視鏡でアプローチし、胆管壁から鉗子で組織を十分に取るのも難しい状況です。胆管がんだと思い手術したら、実はIgG4関連硬化性胆管炎だった、という誤診手術が起こることもあります」
診断は血液検査と画像診断などを組み合わせて実施、近年は管腔内超音波検査も併せて行なわれるようになっている。これは内視鏡的逆行性胆管造影下で、胆管に細長い管状の超音波発生器具を入れ、精密な超音波画像を撮る。
ステロイドで症状が軽減する 「IgG4関連硬化性胆管炎」
胆管に、がんが生じている場合は胆管の内側がモヤモヤして狭くなっている。この狭くなっている部分だけに、がんがある。対してIgG4関連硬化性胆管炎は胆管内部の狭くなっている場所だけではなく、その周囲の壁も厚くなっている。それでも、がんかどうかの判断がつかない場合、この病気はステロイドがよく効くので、それを用いた診断的治療を実施する。
2週間程度ステロイドを服用し、画像所見や症状が軽減するようなら、IgG4関連硬化性胆管炎と診断。これらをまとめたIgG4関連硬化性胆管炎の初の診療ガイドラインが策定された。
「治療はステロイド(プレドニゾロン)を体重1kgあたり、0.6mg程度の量(1日30〜40mg)を初期量として2〜4週間継続します。その後、徐々に量を減らし、3か月をめどに1日1錠(5mg)まで減らします。そこで投薬を止めると2人に1人は再燃するという報告もあるので、その後も少量でも2年程度服用を継続します。ただし、ステロイドは糖尿病の悪化や骨粗しょう症の進行などの副作用もあり、注意が必要となります」(神澤院長)
多くの患者はステロイド療法で症状が軽減するが、中には十分な効果が得られない症例もある。そういう場合、日本では保険で認められていないが、海外では抗がん剤の一種の分子標的薬リツキシマブ使用が認可された国もあり、その効果が確認されている。
※週刊ポスト2019年6月14日号・6月21日号