兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第257回 神経内科で詳しい検査】
すっかり立てない、歩けない状態になってしまった兄。氷のように冷たい主治医の財前先生(仮)の診察では、目立った異常はないとのことでしたが、お願いして、同じ病院の神経内科を受診することになりました。車いすもリクライニングができるタイプに変更。ケアマネさんやヘルパーさんの関わる機会も増え、兄の在宅介護体制も整ってきたようです。
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グレードアップ車いすで快適受診
神経内科を受診してまいりました!
広い廊下の両側に診察室の扉がいくつも並び、通路の真ん中にはソファがずらりと並んでいました。患者は各々の診察室の扉前のソファで待機しております。いつも通院している同じ病院なのに、精神科のやや閉鎖されたフロアとはまったく違い、人通りが多く賑わっている印象でございました。車いす用の場所も明示されていたので、戸惑うことなく待機できます。しかし診察室前で約2時間も待たされました。兄はリクライニングできる車いすでずり落ちることなくおとなしく座っていてくれましたが、そばにいた車いすのご老人は「まだかぁ? なんでこんなに遅いんだ? 順番が抜かされてるんじゃないのか?」と付き添いの息子さまらしき人に何度もこぼされており、わたくしも大きく共感いたしました。
一つ前の患者さまが診察室から出て来られて、「次だわ」と思ってから30分ほど経った頃にやっと兄の番号が表示されました。主治医である財前先生(仮)に情報を確認していたのだと思われます。 診察室に入ると開口一番「お待たせしてすみません」とおっしゃった神経内科の先生は、目元が俳優の柄本佑さま似。他はマスクで隠れているのでわかりませんが(笑)。前のめりで兄のことを診察してくださり、パソコンの前から決して離れようとしない財前先生(仮)とは大違いだと感じました。
でもそれが精神科と神経内科という専門の違いなのでございましょう。柄本佑さま似の先生が「両手をこうしてみて?」とヒラヒラさせてみせると、「左は動くけど右手が動かないね」とパソコンに何か打ち込みました。「足は動く?」と足に触ると「痛い」と兄が反応したので「左が痛いか…膝は伸ばせる?」と聞くものの、兄は無反応なので、わたくしがオムツ交換のときの様子をお話しました。「家では左脚がピンとまっすぐになっていることが多くて、オムツ交換のときに曲げようとするとすごく痛がります」と申し上げると、「ああ、いいこと教えてくださいました」とおっしゃり、またパソコンにメモを打ち込んでいらっしゃいました。
先生が「僕の顔を見て?」と言ったり、ペンを持って「これを見て?」とおっしゃっても兄が視線を動かさないので「指示はあまり入らないね」とおっしゃり、しばし兄をまじまじと観察されていました。 じっとしていると腕がピクンピクンと動くことをご覧になり、「認知症が進んでくると、てんかんの症状が出ることは珍しくありません。もう長いですもんね。こうしてピクピクしているところをみると、先日の痙攣はまずてんかんと見て間違いないでしょう」とおっしゃいました。
「歩けないのは、もしかすると頸椎や脊椎になにかあるかもしれませんからMRIを撮りましょう」とおっしゃり、脳波(てんかんの確定に欠かせない検査)とMRIが両方できる日を探してくださり、2週間後に検査することになりました。
「内臓から来る場合もあるので、今日はこのあと採血をして帰ってください」と言われました。「スタッフがご案内しますので診察室前でお待ちください」と至れり尽くせり。 診察室を出てしばらくすると、スタッフの方がやって来て、検査日の注意事項を説明してくださり、採血の窓口が23番であることを教えてくださいました。6本ほど血液を採ったのでいろいろな病気を調べていただけるのだと思います。
病院の広い廊下は、車いす運転初心者のわたくしでもストレスなく動かせました。なにより車いすから兄がずり落ちないことが幸せで、車いすを押しながらルンルンしておりました。車イスをグレードアップする際、試しに両方の車いすの乗り心地を自分で体験して初めて知ったのですが、直角に座った姿勢で座り続けることはなかなかの苦行。兄がずり落ちる理由がよくわかり、「もお!ちゃんと座っててよー」と憤慨していたことを謝りたい気持ちになりました。車いすはティルト(座面と背もたれが傾き、膝が少し上がる)とリクライニング(座面と背もたれの角度が広げられる)できるタイプがいい! ちょっとレンタル料は高くなってしまいますが、乗り心地を考えれば惜しくないと思います。
ちなみにこの日の介護タクシーは介護保険がきいて、往復5000円でおつりがくるくらいでございました。自費の半額以下。さすがに車は小さくてリフトのような機械はなく、アナログなスロープを手押しで昇るタイプでございました。でもグレードアップした車いすに乗っている限り何の問題もございません。兄は姿勢を崩すことなく、正しく乗り続けてくれました。
そしてこの翌日、嬉しいことに兄はショートステイ(3泊4日)に出発したのでございます!
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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