「おむつの相談を気軽にできる場所を作りたい!」皮膚・排泄ケア特定認定看護師の想いと挑戦
「おむつの相談を気軽にできる場所を地域に作りたい」。長年抱えていた想いを形にすべく、皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美さんは、ビジネスコンテストに挑戦した。ビジネスプランの内容には、介護でおむつが必要な人にとって役立つヒントが――。
教えてくれた人
皮膚・排泄ケア特定認定看護師 浦田克美さん
東葛クリニック病院看護部主任。皮膚・排泄ケア特定認定看護師としてYouTube「チャンネルはぴなぴ」やセミナーで、健康や排泄についてやおむつの正しい使い方など介護に役立つ情報を発信中。看護師として、介護する人・される人に寄り添った活動を続けている。
共著に『褥瘡ケアのプロになる 看護の技とおむつケア』(医学と看護社)など。
皮膚・排泄ケア特定認定看護師の新たな挑戦
「おむつによる肌トラブルや排泄ケアの失敗は、正しい情報を知っていれば未然に防げるのではないか。困って病院にいらっしゃる前に解決できないものか…。おむつの相談を気軽にできる場所の必要性をずっと感じていました」
こう語るのは、千葉県松戸市の病院で皮膚・排泄ケア特定認定看護師として働く浦田克美さんだ。浦田さんはそんな想いから、「おむつの相談できる場所を地域に作る」という目標の実現のため、ある挑戦をした。
彼女が挑戦したのは、今年3月に開催された「第3回やさシティ、まつど。ビジネスプランコンテスト」。これは、千葉県松戸市が主催する地域の起業家を市民で応援することを目的とした地域密着型・市民参加型のビジネスコンテストだ。審査には、有識者を含む審査委員5名と観覧者を含む市民審査員76名が参加した。
「おむつの相談を気軽にできる場所を!」
「介護されているかたやケアするかたたちのお悩みの中でも、排泄やおむつに関することは多いのですが、それを相談する所が少ないのが現状です。
病院でも対応できるところもあるのですが、もっと日常的に気軽に相談できる場所を作りたいと思っていて」(浦田さん、以下同)
浦田さんの事業計画は、題して「ドラッグストアで健康維持!~メディカルナースのふっとおむつ相談~」。全国のドラッグストアや薬局で、一般の人たちが専門家に気軽に健康相談やおむつなどに関してのアドバイスを受けられる仕組みを作るというもの。
「ドラックストアから委託を受けて、おむつのアドバイスができる看護師(おむつアドバイザー)や臨床検査技師などの専門家を派遣し、排泄のお悩みや、おむつの相談を伺います。さらにニーズにあわせて、爪切りなどのフットケアなども提供するというものです。
また、検査技師がお腹のエコー検査も実施し、それに基づき適切な対処法をアドバイスします。
専門家が駐在できるドラックストアを増やし、自宅で自分らしく生活できる高齢者のかたを増やしたいというゴールを設定し、事業計画を立てました」
看護師として25年以上病院に勤務している浦田さんだが、ビジネスプランを立てるというのは、全く初めてのことで最初は戸惑ったという。
「看護の仕事や病院の中の世界しか知らなかったので、事業計画を立てるノウハウはまったくないところからスタートしました。看護師の職場は、ホスピタリティを求められるもので、ビジネスという考え方をこれまでしたことがなかったんです。
応募に際して、松戸市のご担当から事業計画の立て方のアドバイスをいただきながら、漠然と描いていた想いを具体的に計画書にまとめていきました。締め切りまで1週間しかなかったのですが、休日返上でなんとか頑張りました」
事業計画のポイントは「マネタイズ」
事業計画を立てる上で一番難しかったのが、マネタイズポイントというお金の収支計画を立てることだったと、浦田さんは語る。
「事業を起ち上げて3年先まで想定し収支計画を立てて、遅くとも3年後には売上がプラスであることが求められました。
ドラッグストアから委託費をいただいて、事業所を設立してから専門看護師を派遣しストアでお客様の相談にのるという流れを考えました。
さらに、看護師の配置は人件費がかかるので、看護師向けにおむつアドバイザーを学ぶ教育機関を設けてはどうか…と。看護師といっても全員が、排泄やおむつ関連に精通しているわけではないので、講習会やスクールを開講して、有料化して収益を生むプランを盛り込みました」
「ドラッグストアには、いろんな種類のおむつがたくさん売っているのに、詳しく聞けるスタッフがいない。何を買ったらいいのかわからないという現状を改善したい」と、浦田さんは熱く語る。
「おむつの相談できる場所」のニーズを確信
「おむつを利用されるかたの体形・要介護度・疾患などによる排泄の状況により、合うおむつがそれぞれ違います。
おむつ選びが間違っていると、漏れなど衛生面にも良くないですし、皮膚トラブルにもつながってしまいます。
介護で一番負担に感じると言われているのがおむつ交換ですが、正しい選び方や付け方を専門家にアドバイスしてもらえることで、肉体的にも精神的にも負担は減らせると思うんです。この事業計画を地域の薬局やドラッグストアでぜひ実現したいんです」
コンテストには17名が応募し、浦田さんは事業計画書審査・プレゼン審査を通過した7名のファイナリストに選ばれた。
最終プレゼンテーションでは、彼女の熱い想いに審査委員と観覧に訪れていた市民たちが熱心に耳を傾けていたという。そして浦田さんは、なんと「優秀賞」と「松戸市制施行80周年記念賞」をW受賞した。
「ファイナリストに選ばれただけでも嬉しかったのですが、2つも賞をいただけて光栄です。受賞できたということは、この事業計画はきっとニーズがある。そう確信に変わりました」
夢の実現のためにコミュニティ作りからスタート
受賞後まだ3か月だが、熱い想いを胸に浦田さんは動き始めている。
「いまネックになっているのが、おむつナースを実際に多くのドラッグストアさんの店舗に常駐してもらうためのコストの問題です。まずは、地域の薬局やドラッグストアさんにお声がけして、相談しながら進めていこうと思っています。
現時点では、松戸市や柏市を拠点とする『ハーブランド薬局』さんと具体的な話を進めています。
薬剤師会のかたに協力いただき、講習会などを実践して皆様に知っていただくことから地道に広げていこうと計画しています。
まずは、私自身がおむつアドバイザーとして、ハーブランド薬局の南柏店で講演会(相談会)を実施します。いきなりおむつの話ではなく、まずは排泄関連で一番お悩みが多い便秘をテーマにお話させていただき、少しずつおむつなどの情報も知っていただけたらと思っています。
普段利用している地域の薬局で、排泄ケア専門看護師の必要性を知っていただき、さらに人材の育成につなげていければと思います」
高齢化社会へと進む中、地域で気軽に専門家から健康アドバイスなどを受けられれば、日々の暮らしや介護生活への安心につながる。介護する人・される人に寄り添った浦田さんの熱い想いが、より多くの薬局やドラッグストアに届くことに期待したい。
取材・文/本上夕貴
●大人用おむつによる皮膚トラブル事例と対処法を排泄ケア専門の看護師が解説「拭き取りや肌ケアの注意ポイント」