排泄ケアに積極的に取り組んでいる特別養護老人ホームと介護付有料老人ホーム【まとめ】
オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
高齢者向けの施設への入居を検討する際にチェックしておきたいのが、生活の質を大きく左右する排泄のケア。どのようなケアが施設で行われているのかは気になるところだが、積極的に情報を発信しているところは少ないようだ。そこで今回は排泄のケアに真正面から向き合い、工夫をしている特別養護老人ホームと介護付有料老人ホームを紹介する。
おむつゼロ!自立支援介護に取り組む特別養護老人ホーム「杜の風・上原」
「おむつは買っていません」。そう語るのは、特別養護老人ホーム「杜の風・上原」施設長の齊藤貴也さん。なんと、ここでは入所したその日から全員、おむつを外すのだという。
杜の風・上原を運営する社会福祉法人「正吉福祉会」は都内を中心に8つの拠点を持ち、特別養護老人ホームやデイサービス、居宅介護支援センターなど104の事業を展開。杜の風・上原は2013年の開設当初からおむつを買わず、おむつゼロを目指してきたという。その結果、わずか半年で「常時の便失禁あり」33%が1.1%に減少、「常時の便失禁なし」が67%から98.9%に増加という劇的な変化が。おむつの必要がなくなり、おむつゼロを続けているという。
では、なぜおむつをゼロにすることができたのだろうか。「おむつを望んでいる利用者はいない」「排泄の失敗が自信を喪失させ、自立に対する意欲をなくしている」との考えが施設全体に浸透しており、職員が一丸となっておむつゼロの目標に取り組んでいるという。そして、おむつをすることになる原因である便失禁を防ぐために、「下剤の廃止」「規則正しい生活」「規則正しい食生活と常食」「水分摂取」「起床時冷水」「食物繊維(ファイバー)」「運動(歩行能力の回復)」「決まった時間の排便」「座位(トイレ等)での排便」など数々の施策を実施。これらを実施することで、生理的で規則的なトイレでの排便が実現できるようになるそうだ。
「今までおむつが外れなかった人はいません。もちろん、最初は失敗しますが、できるだけ短い期間で成功まで持っていく理論や実践するための方法があります。例えば、水分を1500cc摂るために50種類の飲み物を用意し、液体で飲めない方はゼリーにするなどの工夫をしています。入所時は便失禁している方が多いですが、それは腸の機能が低下していて便が作れなくなっているから。うちでは下剤をなくして、ヨーグルトや食物繊維、オリゴ糖を摂ってもらい、腸の機能改善を図ります」(齊藤さん 以下「」は同)
おむつを使わない介護の背景にあるのは、自立支援介護の介護の考え方だ。水分、食事、運動、排泄のケアを行い、目に見える結果としておむつゼロを実現している。自立するため、そしておむつを外すために重要なポイントは歩けるようになること。90歳を超えると足の筋力が衰え、車椅子になっても仕方がないというイメージを持っている人も多いと思うが、齊藤さんはそれを否定する。
「今までは、車椅子の方たちを改善できなかった理由を、筋力の衰えのせいにしていたんです。しかし、そうではなくて、長期間歩かなくなったことによって、歩き方自体を忘れてしまっていることが原因であることが多いのです。こちらでは5秒立てるようになれば、すぐに歩く練習を開始します。トイレの時に立つ練習をしていると、立位が安定してきます。立位が安定すれば、歩行器を使って歩く練習を始めます」
おむつゼロを実現し続けている杜の風・上原の取り組みは日本全国のみならず、世界中から注目されている。多くの人が視察に訪れており、齊藤さんの説明資料は英語に加えて中国版まである。取材で訪れてから帰るまで、多くの介護施設が悩んでいる便のにおいが、おむつゼロの効果で全くしなかったことも付け加えておきたい。
→おむつゼロ!自立支援介護に取り組む特別養護老人ホーム<前編>
→「在宅・入所相互利用」を導入!おむつを外して在宅復帰できる特別養護老人ホーム<後編>
要介護度改善を目標にして自立支援介護に取り組む「ウェルケアガーデン馬事公苑」
高齢者の介護を考える際、できなくなってしまったことをいかにして補うかを考えることが多い。「トイレに行けなくなったのでオムツをする」「自立して移動ができなくなったので介助する」といった形だ。しかし、高齢になったからといって失われた機能がそのまま回復しないとは限らない。ウェルケアガーデン馬事公苑では、できなくなった理由を探し、それを取り除くことによって、再びできるようになることもあるという視点で介護を行っているという。
「要支援・要介護の人に再び健康な心と体を手に入れてもらい、いつまでも明るく、楽しく暮らしてもらうこと」。それがウェルケアガーデン馬事公苑の自立支援介護が目指す目標だという。そのために“身体的”、“精神的”、“社会的”なサポートの3つからなる「Value aging(バリューエイジング)」というコンセプトを掲げている。
コンセプトをもとにした自立支援介護では、水分、食事、運動、排泄の4つにポイントを置いているそうだ。入居者は、1日1500mlの水分摂取を目標としていて、食事や運動時などに飲んだ水分量をスタッフが正確に記録している。体内の水分量が不足すると、意識や覚醒の水準が落ちて、ぼんやりとしてきてしまうのだという。
「私たちはスタッフの都合ではなく、ご入居者目線で介護を行っています。寝たきりのままにするのでなく、スタッフ2人がかりになってもトイレまでお連れしています。お食事面でも、やっぱり胃ろうよりも口から食べていただきたいという気持ちで介助を考えます」(ウェルケアガーデン馬事公苑・総支配人の今村卓弥さん)
排泄には4つのポイントで挙げた水分や食事、運動も関連している。十分な水分を補給し、栄養バランスの良い食事をよく噛んで食べる。そして運動を習慣にし、体調を整えていくと体に自然なリズムが生まれてオムツのいらない生活が可能になっていくという。自分自身でトイレに行くことは自立につながり、外出ができるようになるなど行動範囲も広がっていくそうだ。
→胃ろうが外れた人も!「あきらめない」自立支援介護を実践する老人ホーム<前編>
→要介護度改善が目標の老人ホーム!実践する自立支援介護とは?<後編>
一人ひとりの希望を叶える個別ケアに取り組む介護付有料老人ホーム「アライブ代々木大山町」
アライブシリーズの12棟目、最も新しい施設としてオープンした「アライブ代々木大山町」には、アライブメディケアが18年かけて蓄積してきた経験が活かされている。その1つが「水分、食事、排泄、運動」の4つの基本ケアと「睡眠、減薬」から成り立っている自立支援ケアだ。
「水分量はきちんと記録し、実際の効果と比較しています。認知症による周辺症状への効果を目の当たりにすると、最初は半信半疑だったスタッフも熱心に取り組んでくれるようになります。水分量を増やしていった結果、表情が生き生きとしてきて、視線が定まるようになった方もいらっしゃいます。朝はコップ1杯のお水を飲んでいただきますが、スムーズな排泄にも効果があります」(アライブ代々木大山町・ホーム長の鈴木達哉さん 以下「」は同)
排泄はオムツやパットを使わずに、トイレで排便・排尿を済ませられるように取り組んでいるという。食事については、1日1500キロカロリー以上の常食を噛んで、飲み込むことを目指しているそうだ。歯ぐきで噛める軟菜食や舌で潰せるソフト食も用意されているので、段階を踏みながら職員と一緒に常食を目指せる。
「しっかりと噛むことが脳を刺激しますし、便秘を防ぐことにもなり、排泄にもプラスです。また、下剤を使わないことを目指して、食物繊維を1日15グラム摂っていただくことも始めました」
アライブ代々木大山町では、自立支援に関わる基本ケアの1つである運動量の確保にも力を入れている。そのために体操などの運動メニューが豊富に準備され、アクティビティや趣味の活動も活発に行われている。運動機能の維持・向上を図るだけではなく、入居者が理想とする生活を実現すること、自立心を向上させることまで目標にしているという。
また、暮らしの動作に直結することを重視し、生活リハビリにも力を入れているそうだ。介護スタッフがその意義を理解し、積極的に取り組んでいる。
「トイレで立ったり、座ったりする。ズボンや下着を自分で下ろす。それもリハビリです。部屋からリビングに移動する際に、今までは車椅子だったのを歩行器に変えることも生活の中でのリハビリです」
このような取り組みが成果をあげているのには理由がある。それは、介護福祉士の資格保有率の高さだ。アライブメディケア全体で、介護スタッフのうち、なんと71.1%(2019年4月時点)が介護福祉士の資格を持っているという。
→4つの基本ケアとリハビリで自立支援に取り組む介護付有料老人ホーム<前編>
→一人ひとりの希望を叶える個別ケアに取り組む介護付有料老人ホーム<後編>
いかがだっただろうか。生活の質を大きく左右する排泄のケア。根拠のある方法を実践し、オムツを外せるようになるなど、それぞれの施設での取り組みは大きな成果をあげている。このような施設は自立支援ケアに力を入れているので、排泄以外の生活の快適さも高めてくれる可能性が高そうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
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