認知症の薬、種類と使い分け|「性格の傾向」で薬を替える検討も必要
患者数は年々増え、2025年には730万人を超えるとみられる現代の国民病「認知症」。
一言で「認知症」といっても、その原因によって数種類に分けられる。全体の6割を占める「アルツハイマー型」のほか、「血管性」などもある。
血管性の場合、脳梗塞や脳出血が主な原因で、手術による治療が中心となっている。一方で「アミロイドβ」という成分が脳に蓄積し、神経細胞が死滅することで脳が萎縮する「アルツハイマー型」は薬物治療が積極的に行われている。
認知症の薬、根治するものはないが、症状の進行を遅らせる効果は期待できる
シニアメンタルクリニック日本橋人形町の院長、井関栄三さんが解説する。
「アルツハイマー型認知症の薬は『コリンエステラーゼ阻害薬』と『NMDA受容体拮抗薬』の2種類です。いずれも、残念ながら病気を根治したり、完全に進行を止めたりすることはできませんが、症状の進行を遅らせる効果が期待できます」
コリンエステラーゼ阻害薬は、脳内の重要な神経伝達物質である「アセチルコリン」を分解する酵素の働きを抑制することで神経細胞間の伝達を活発にさせる。現在主に処方されているコリンエステラーゼ阻害薬はのみ薬である「ドネペジル」「ガランタミン」と、貼り薬の「リバスチグミン」の3種類。
「ドネペジルは最もよく使われる薬で、認知症の進行を抑制する以外に、低下した意欲を高める効果がみられます。その半面、もともと怒りっぽい人であれば薬の作用で激高してしまうこともある。逆にガランタミンは感情を抑える方向に働きやすい。リバスチグミンはドネペジルとガランタミンの中間のような薬です。薬ののみ忘れが懸念される場合、リバスチグミンに替えることもあります」(井関さん)
認知症薬「ドネペジル」「ガランタミン」「リパスチグミン」「NMDA受容体拮抗薬」それぞれの特性
・「ドネペジル」
一般的に処方される機会が多く、意欲的になったり注意力が高まったりする。
・「ガランタミン」
怒りっぽさを抑える働きがある。
・「リバスチグミン」
上記2つの中間に位置する。貼り薬のためのみ忘れる心配がない。
それらは認知症の初期にのむ薬であり、もう1つの「NMDA受容体拮抗薬」はさらに進行したときに用いられる。
「病気が進行し、神経の高ぶりに伴う攻撃性など、認知機能の低下以外の症状を抑える効果が期待できます」(井関さん)
・「NMDA受容体拮抗薬」
認知症の中期から後期にかけて、認知機能の問題以外の「神経の高ぶりに伴う攻撃性」などを抑えるための薬。錠剤、シロップの2種類が基本。
どれを処方されるかにより、患者の感情に大きな変化が起こりうることも、認知症薬の特性だ。
「ドネペジルを長期に服用して家族に感情的に当たるようになった人の薬を、貼り薬のリバスチグミンに替えたところ、穏やかになったうえ、今までやらなかった昔の趣味などを再び始めるなど意欲的になったケースもあります」(井関さん)
どのタイプの薬が効くのかは、人それぞれみんな違う。効き目がない、体質に合わない、副作用がしんどい――。そんなときは、思い切って薬を替えてみるという選択があるかもしれない。
※女性セブン2019年6月6日号
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