小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第235回 在宅介護の醍醐味】

 若年性認知症の兄の特別養護老人ホーム入所は未遂に終わり、これまでの日常が戻ってきたツガエ家です。兄をサポートする妹のツガエマナミコさんは、もうしばらく在宅介護をする覚悟を決めたものの、排泄のトラブルは変わらぬまま。加えて新たなな悩みも発生の兆し。かつて食事することを忘れてしまい食欲がなくなった兄に、別の変化が起きているようです。

 * * *

食欲不振から一転、よく食べるようになったものの…

 先日テレビで「“風邪予防にはビタミンC”はもう古い。実際はビタミンCを摂っても風邪の予防効果はそれほどない」と流れているのを聞き、まさに風邪予防のためにと箱で買い込んだミカンを眺めてガッカリしたツガエでございます。

 ほかにも、我々世代が学校で学んだことが、今や変化していることを知り、60年も生きてくると、間違っていることをいっぱい頭に詰め込んでいるのだな、としみじみ感じ入りました。でも次の世代ではまた逆転して“やっぱり風邪予防にはビタミンC”となるかもしれないですもの。実際、20年以上風邪で寝込んだことのないわたくし。それはビタミンCのおかげだと思い続けていきます。

 さて、兄は相変わらず穏やかで、毎日テレビの前に座ってコックリコックリしております。

 最近気になるのは、認知症にありがちな”際限ない食欲”の序章でございます。昨年の春夏の食欲不振から一転、よく食べてくれるようになったのはいいことなのですが、近頃やたらとキッチンにやって来て、わたくしの様子を見ているのでございます。まるで食事を催促するかのように…。

→兄が食欲不振になった頃のエピソードを読む

「狭いし、危ないから入ってこないでよ」と言っても何度もやって来ては、隣に並ぶ勢いで近づいてまいります。たぶん、キッチンのどこかにパンやお菓子があると思っているのでございましょう。

 わたくしが部屋で仕事をしていると、キッチンでガサゴソと物色している音が聞こえます。置きっぱなしの即席ラーメンの袋の中身を出して散らかしていたり、流しの隅に置いたミカンの皮やリンゴの皮を食べている場面も目撃いたしました。

 もちろん、3食提供しております。おやつも毎日お出ししておりますし、物足りなさそうなときは、わたくしの分も差し出しております。ああ、それなのに、きっとすぐに食べたことを忘れてしまうのでしょうね。おかげさまで、表に出していたものは見えないところに片付けるようになり、みるみるキッチンがすっきりしてまいりました。

 朝の尿漏れは、毎日のルーチンになり「これが我が家の朝だな」と腹をくくるようになりました。入所させることばかり考えておりましたが、読者の方に、「預けっぱなしにするよりも、たまにショートステイなどに預けることでありがたみを味わえる…」と、在宅介護の醍醐味を教えていただきました。その通りでございます。人のありがたさを忘れないためにも、もう少し在宅でいきたいと思います。

 ただ、部屋でのお尿さま攻撃もなくなりませんし、排泄問題には泣かされ続けております。デイケアの連絡ノートに「尿漏れ困ってます」と書いたところ、大きさの違う尿取りパッドのサンプルを2種類いただき、それでもダメなら…と紙おむつ(パンツタイプではなくテープ止めるタイプ)のサンプルもいただきました。

 紙おむつは、寝たきりの母の介護でさんざん取り換えてきましたから、やり方はわかりますが、兄にそれをすると考えるだけで心が萎えます。自分でテープを剥がしてしまうかもしれませんし、まだ自立歩行できるので、さすがに紙おむつには早すぎます。

 結局、尿漏れには目をつぶり、毎日シーツからシャツまでがっつりお洗濯するのを「これが我が家の朝」と自分に言い聞かせるほかございません。

 ただ、元旦に起こった被災地をテレビで観るにつけ、大震災がここで起きたら、いったい兄をどうしたらいいのか、と不安な気持ちになります。マンションで雨露がしのげるならいいですが、避難所での集団生活はとても無理。被災地の認知症とその家族の方々はどうなさっているのでございましょう。高齢者施設の職員の方々も全員被災者という中で、事態が飲み込めない認知症患者の介護をすることの精神的な厳しさはいかばかりか…。

 大地震はここにもきっと来るでしょうけれど、それまでは、やはり、ツガエ兄の介護程度で音を上げてはいけないと決意を新たにいたしました。

◀前の話を読む 次の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●大人用紙オムツ・紙パンツとの違い 種類や失敗しない使い方のポイントを専門家が徹底解説

●使用済み紙おむつは再生できる!<入れ歯・紙おむつ・薬シート>シニア世代に注目のSDGs リサイクル最新事例をレポート

●私の認知症体験記|風見しんごら語る認知症の親への感謝の思い

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • 2月

    お兄さんの容態がかなり悪くなっているようで心配です。 このまま家庭介護を続けるのもお辛いことでしょう。 出来るだけ他人の手を借りてくださいね。ホームヘルパーさんやボランティアさんなども利用できないのでしょうか。また、もし災害が起きた場合、福祉避難所の有無の確認や遠方への避難の検討など、難しい状態の家族をどう守るか頭の痛いことではあります。昨年、寝たきりの家族を家で看取りましたが、もし災害が起こっていたら、背負って逃げるのも難しく、置いて逃げるか共にあの世へ、だったと思っています。現在能登や、過去の大災害で実際に苦渋の決断をされた方もいらっしゃると思うと胸が潰れるような思いです。

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。