「九州出身の私は東北出身の妻と味噌の好みが合わない」と嘆く夫に毒蝮三太夫がズバリ「本当に問題なのは味噌じゃない」|「マムちゃんの毒入り相談室」第55回
夫婦にとって食べものの好みの違いは、けっこう深刻な問題である。夫は九州風の麦味噌で作った味噌汁が飲みたいと願っているが、東北の米味噌が好きな妻に聞き入れてもらえないという。これからの長い老後を考えると「味噌のことが最大の気がかり」だと苦悩する相談者に、マムシさんが具体的な作戦を伝授しつつ、奮起を促す。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「麦味噌の味噌汁を飲みたいが米味噌派の妻に拒否される」
このあいだTBSラジオのミュージックプレゼントで、久しぶりに巣鴨地蔵通り商店街に行ってきた。とげぬき地蔵尊高岩寺の向かいにある「アルプスシューズ」っていう靴屋から放送したんだけど、そこのオヤジがオレと同い年で今年88歳なんだ。
この商店街は、今は「おばあちゃんの原宿」として大人気だけど、店ができた50年ぐらい前はまだ地味な場所で、通りだって砂利道だった。雨が降るとぬかるんで客なんて来ないから、みんな店を閉めちゃったらしい。オヤジは木曽の出身だから、自分の店に「アルプス」って付けたんだってさ。話を聞くと面白いよね。街にも人にも店にも歴史ありだ。
今回は、奥さんとの味噌の好みの違いに悩んでいる58歳の会社員の男性からの相談だ。
「妻と結婚して25年。円満にやっていますが、ひとつだけ不満があります。私は九州の出身で妻は東北出身なのですが、味噌の好みが合いません。私は甘口の麦味噌が好きなのに、妻は辛口の米味噌以外は絶対に嫌だと言います。
結婚以来、ずっと物足りなさを覚えながら、毎朝の味噌汁を飲んできました。ある程度は慣れましたが、いまだに『やっぱり九州風の味噌汁が飲みたい』という思いがあります。2種類作ってくれとは言えないし、だいぶ前に「自分で作るから」と提案したら『私の料理が気に入らないの!』と怒られました。
これからの長い老後を妻と一緒に過ごしていく上で、味噌のことが最大の気がかりです。どう説得すればいいでしょうか。諦めたほうがいいんでしょうか」
回答:「あなたはやさしい人だね。でも、本当に問題なのは、味噌の好みじゃない。それは…」
結婚してから25年、ずっと不満を抱き続けているわけか。あなたはやさしい人なんだな。俺だったら、25年どころか3日目ぐらいに「亭主を大事に思ってるなら、俺の好きな味噌を使ってくれてもいいだろ。それが愛情ってもんじゃないのか!」と言っちゃいそうだ。
強く言えないから円満にやれているのかもしれないけど、このまま「自分は九州風の味噌汁が飲みたいのに……」と不満を溜め続けるのはよくないな。無理に諦めるのも危険だ。いきなり大爆発したり、奥さんへの恨みが募って嫌いになっちゃうかもしれない。そうならないように、きちんと作戦を立てて奥さんを説得しよう。
まずは夫婦でおいしい九州料理の店に行くことを勧めたいね。奥さんに九州の味噌汁を味わってもらって、「どうだ美味しいだろ。週に何回かはこっちの味噌にしてみないか」と提案する。地域で長く親しまれてるんだから、美味しくないわけがない。新しい味を知るっているのは、それだけ人生が広がるってことだ。奥さんに我慢を強いるわけじゃないんだから、「好みじゃない味噌汁を飲ませるのは悪いかなあ」なんて遠慮する必要はない。
もしかしたらこれまでは、あなたがモゴモゴ言ってるだけだから、奥さんもたいしたことじゃないと思ってきたんじゃないか。目を見て真剣な顔で「俺にとっては大事な問題なんだよ。このまま一生、家で九州風の味噌汁が飲めなかったら、人生に大きな悔いが残ってしまうんだ」と訴えてみよう。そこまで言えば、奥さんだってわかってくれるはずだ。
日本は細長い国だから、地域ごとにいろんな味がある。九州と東北の味噌に限らず、三河の八丁味噌とか信州の味噌とか、いろんな味噌を試してみるのも楽しいんじゃないか。ふたりで味噌売り場に行って、「今度はどの味噌にしようか」なんて言い合ったりしてね。
あなたにとって本当に問題なのは、奥さんと味噌の好みが合わないことじゃない。自分の気持ちや希望を奥さんにハッキリと伝えられないことが、いちばんの問題だ。そこを解決しないと、たとえ表面上は円満だったとしても、これからの人生を「ふたりで生きて行きたい」「この人と一緒で幸せだ」という夫婦の絆を感じることはできない。
まずは、ずっと抱えてきた味噌の不満を伝えることから始めてみよう。あなたたち夫婦の未来は、味噌をどうするかがミソだ。それに、味噌汁はフーフーしながら飲むもんだから、夫婦円満にとって大事なんだよ。夫婦の幸せっていうのは、お互いにニッコリ笑って「おいしいね」と言い合いながらメシを食うことだと言ってもいい。
それにしても、あなたたち夫婦は幸せだよ。いちばんの不満が味噌汁のことで、ほかに大きな不満がないわけだから。やさしい旦那とできたカミさんなんだろうね。奥さんに感謝して、奥さんにもあなたのありがたみをわかってもらって、末永く仲よくやってくれ。
いちばん避けたいのは、いまわの際に「ああ、一度は九州の麦味噌の味噌汁を飲みたかったなあ」と思うことだよ。これは奥さんにとっても、悔いが残るからね。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。