信頼できる医師の見極め方|医師が明かす病院の本音とウソ
手術をして出世したい、早く帰りたい、高価な検査機器のモトを取りたい──。それが医者の本音かもしれない。
難関の試験をくぐり抜け、激務に追われながらも最新の治療法や薬についての勉強を欠かさない"お医者さま"も、同じ人間。患者の好き嫌いもあれば、「楽したい」「儲けたい」と考える時もある。ならば、どうふるまえば、最大限いいパフォーマンスを引き出せるのか。医師たちが明かす、“診察室では言えない話”を教えます。
「病院大国」日本の医者を信じてもいいのか
日本は世界有数の「病院大国」である。病院数も受診回数もトップクラスで、特に受診回数は日本人が年に12.9回であるのに対し、イギリスは5回、アメリカに至っては2回だという。先進国の平均値で見ても、日本の半分ほどの6.6回にとどまる。
海外からも“医療ツアー客”が訪れるほど充実し、「異変があったら、すぐお医者さんに相談」が当たり前のわが国の医療。しかし、一方で相次ぐ検診での見落としや手術の失敗による医療事故が連日報じられ、「医者を信じてはいけない」と嘆く声も少なくない。
ただ、医師の側にも言い分がある。心臓外科医で昭和大学横浜市北部病院の南淵明宏さんが言う。
「われわれ医師は、他のサービス業とは違い、たくさん手術したからといって、その分多くの給料がもらえるわけではありません。そしてもちろん、医師も感情を持った人間です。同じ症状でも、その患者さんとの相性や言動によって“できる限りの治療を”と味方したくなることがあれば、“うちでは手に負えません”と匙を投げたくなることもあることは事実です」
つまり、私たち患者の在り方次第で医師は「信じられない存在」にも「命を預けられるパートナー」にもなりうるのだ。
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初対面のときに自己紹介する医者かどうか
それではどうすれば、味方になってくれるのか。1つのポイントは、“医師の話をどう聞くか”にある。
医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さんはこんな指摘をする。
「医師があてずっぽうにウソをつくことは、さすがにまれでしょう。ただ、医師の膨大な知識や知見を、限られた時間の中で患者に伝えるのは難しい。だから悪意のある“ウソ”ではないながらも、一部の情報を伝えないことはある。たとえば、治療の最中で、副反応が起きているが、患者にその自覚がないときは言わないこともあるでしょう」
たとえば、放射線治療を受ける肺がん患者は、照射によって骨にひびが入ったり、折れたりすることがある。だが、痛みが少ないことも多い。自覚症状がない場合、わざわざ告げてしまうと急に痛み始めるケースさえあるという。
そうした優しさのある“ウソ”をつくか否かを含め、患者に何をどう伝えるのかはすべて医師の裁量にかかっている。ただ、配慮ができるいい医師かどうかを患者側が見破るのはなかなか難しい。
東京医療センター臨床研修科医長の尾藤誠司さんは、誰でも可能なこんな見分け方を提案する。
「初対面のとき、きちんと自己紹介をするかどうかをチェックしましょう。基本的なやりとりがないまま、いきなり問診を始める医師は、患者ではなく病気だけを診ているかもしれません」
検査理由をきちんと話せる医師は信頼できる
検診や検査で医師にかかったときはどうだろうか。東日本の総合病院に勤務する外科医が匿名を条件に明かす。
「同僚を見ていて思うのは、『とりあえずCTを撮りましょう』などと言う医師は、患者を納得させる自信がない表れだということ。まずは問診や触診などをしっかりした上で『呼吸音に異音がありますのでCTを撮りましょう』などと、その検査をする理由を説明するのが本来の姿です。
開業医の場合は、高価な検査機器を導入してしまったため、稼働を増やして減価償却したいというケースも、ままあるのが現状です」
検査にはもちろんお金がかかる上、CTスキャンには放射線被ばくがあるなどデメリットがある。必要ならばもちろん受けるべきだが、本来は不要なものまで病院の利益や医師の横着のために受けさせられるのは避けたい。
私たち患者にとっては“人生の一大事”である手術も、「とりあえず手術」という軽いノリで誘導する医師も存在する。
「医療においては“これをやれば100%”というものはありません。特に、腰痛など整形外科系の手術は再発が多く、術後に悪化する可能性もある。にもかかわらず“手術しかない”と断定的な言い方をする医師がいます。そんな発言が出てくるのは、患者を利益の道具としか見ていない証拠です」(前出・外科医)
特に外科系の医師の世界では、携わった手術の症例数が“勲章”になる。自分の価値を上げるため、患者を手術へと誘導する医師もいるのだ。
「やたら手術をすすめる」「様子見」…には要注意
さらに、病院経営の問題もあると前出の外科医が続ける。
「少し前にひざの手術である人工関節置換術がブームになりましたが、あれは非常に儲かる手術。“ドル箱”と呼ばれ、病院を挙げて推進するところもあった」
前出の村上さんもこう言い添える。
「たしかに、最新技術を伴う手術や症例数の多さをウリにする病院には、技術を習得しようと全国から若い医師が集まってくるため、治療法の選択肢として手術を提案される可能性は高い。また、自治体病院の9割が赤字という現状においては、病院経営を考えて手術が選択されるケースがないとはいえない。患者がある程度入院した方が儲かるから、日帰りや通院が可能な治療法も選択できるのに、患者には入院が必要な手術しか提案されないケースもあります」
一方で、前出の心臓外科医、南淵さんは自身の経験をふまえ、こんな見方をする。
「手術を提案されるだけ幸運かもしれません。私のところに手術を受けに来る患者さんの中には前に診察した医師に“様子を見ましょう”と言われ続け、とうとう10年放置されたという人もいます。担当した医師が手術の腕に自信がなかったのでしょう。また、総合病院で内科にかかっている場合、内科の医師は自分で手術をしないので、手術の必要があれば患者さんを外科に紹介するわけですが、院内の人間関係などの問題でそれを億劫がり、“永遠に様子見”となった気の毒なケースもありました。その間にも病状は悪化していくため、非常に問題です」
「お守り代わりの薬」は必要か、不必要の見極め
治療には欠かせない薬の処方にも、患者には明かされないこんな事情が隠されていた。
医師で医療ジャーナリストの富家孝さんが指摘する。
「院内処方を行っているところでは、有効期限が切れそうな薬の在庫処分をするため〝お守り代わりに出しておきましょう”〟と、さして必要ではない薬を処方されることもあります」
この“お守り代わり”という言葉を添えられて出される薬には2パターンある。
「毎日のむタイプの薬でそう言われたら、副作用がない代わりにあまり効果も見込めない、ある意味“ムダな薬”であることを疑っていい。しかし、狭心症患者が常備するニトログリセリンのような、突発的に起きる症状に対応する薬であれば、本当に“お守り代わり”ですから、素直に従いましょう」(尾藤さん)
中には医師が大手製薬会社に“協力”するパターンも。
「特許切れの薬を安価で提供する『ジェネリック』を作っているのは中小の製薬会社、つまり一般的には知名度が低い会社が多い。一方で、先発薬を発売しているのは有名な大手企業です。“一流の会社が作っている薬です”と言ってあえて高い先発薬を指定して処方する医師も多い」(富家さん)
医師が忙しすぎる弊害も。診療終了間際の受診は避けるべき
話を診察室に戻そう。医師とのやりとりで、こんな言葉をかけられたことはないだろうか。
「医師から『年のせいですね』と言われることがあるかもしれませんが、ショックを受けないでほしい。患者さんは病名をつけてほしがりますが、単なる老化の場合も多い。医師の真意は『原因はわからないけれど深刻な病気ではありませんよ』という程度のものです」(尾藤さん)
また、勤務医の場合、周囲から与えられたプレッシャーが原因で説明が簡略化されてしまう現実もある。
「よく『こういう治療しか選択肢がありません』という断定的な文言をする医師がいますが、その背景には、忙しすぎる医師の“働き方問題”が潜んでいる場合もある。外来患者が列をなして待っている中、選択肢を1から順にすべて説明していたのでは時間も手間もかかる。自分の残業時間が延びるばかりか、他の先生にしわ寄せがいってしまったり、上司から“遅い!”と叱責されたりすることになるからです」(村上さん)
同様の理由から、診療終了直前に駆け込んで診てもらうのも避けるべき、と言うのは富家さん。
「医師も人間ですから、『もう今日は終わりだと思ったのに…』という気持ちから診療が雑になるのは否めない。簡単な診療で済ませられ、『経過を見ましょう。具合が悪くなったらまた来てください』と追い帰されるのが関の山です」
医師も生身の人間であり、病院もサービス業であることは忘れてはならない。
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※女性セブン2019年3月14日号