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考察『ゆりあ先生の赤い糸』5話「見られている」がキーワード 不倫するゆりあ(菅野美穂)、うなる夫(田中哲司)…何もかもを見ている姑(三田佳子)はどうでる?

 くも膜下出血で倒れて要介護5の状態になった夫の吾良(田中哲司)を自宅介護する決意をしたゆりあ(菅野美穂)は、便利屋の青年(木戸大聖)と恋に落ち、ふたりの逢瀬を夫が倒れたときに一緒にいた美青年(鈴鹿央士)に見られてしまう。そして、不倫をとがめるように、病床の吾良がうなり始める。ドラマに詳しいライター・近藤正高さんが『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 木曜よる9時〜)5話を振り返ります。

不倫を責めるかのように、うなり始めた夫

『ゆりあ先生の赤い糸』第5話のキーワードは「見られてますよ」とでもなるだろうか。もちろん、見られているのはゆりあ(菅野美穂)である。

 ゆりあは「伴ちゃん」こと便利屋の伴優弥(木戸大聖)といよいよ本気で恋に落ちることで、満ち足りた生活を送りつつあった。いまだ意識の戻らない夫・吾良(田中哲司)にも優しく接することができるようになったし、姑の節子(三田佳子)、同居人に迎えた稟久(鈴鹿央士)やみちる(松岡茉優)親子らとの関係も安定し、伊沢家に新たな秩序が生まれていた。そのなかでゆりあは、みちるの娘たちから「ゆりあママ」と呼ばれ始め(考えたら、この呼び方は吾良が「ゴロさんパパ」と呼ばれているのと対になってるわけだが)、稟久もひそかに彼女の人間としての大きさに信頼を寄せる。こうした家庭内の変化には、久々に来宅した小姑の志生里(宮澤エマ)が訝しむほどであった。

 しかし、その安定も揺らぎ始める。ゆりあが優弥と会っているところを稟久に見られてしまったのだ。これが第一の「見られてますよ」である。そりゃまあ、家の近くで会っていればいつかこんな日が来るだろうとは思っていたけれども……。当然ながら、稟久のなかで築かれていたゆりあへの信頼は一気に崩れ去る。家のなかでも、彼は口にこそしないものの、ゆりあへの当たりが再びキツくなった。しかし、当のゆりあはその真意にしばらく気づかない。

 吾良にも異変が現れる。まるでゆりあの不倫を責めるかのように、うなり始めたのである。しかし、往診に来てもらった主治医の有香(志田未来)の診断では、意識が戻ったわけではなかった。診察中、ゆりあが吾良に「これからお風呂だからね」と声をかけるが、彼はまたうなり、節子が吾良はいやがっていると言うので、この日は体を拭くだけということになる。

 このとき、有香が思いがけない言葉を口にする。帰り際、玄関で二人きりになったゆりあに「イラッとしますよね」と声をかけると、「厄介です。みなさん、それぞれ伊沢(吾良)さんのためと思ってのことですから」と彼女を慮ったのだ。さっきの節子とのやりとりや、節子に加え稟久とみちるが吾良を取り囲む様子に、有香は異様なものを感じたのだろう。いや、前々からどこか変だなとは薄々感じていたに違いない。つまり、ゆりあは有香からも、自分の置かれた境遇をしっかりと「見られていた」ことになる。

 このあと、ゆりあのスマホへ優弥から、息子の優里亜と動物園に行ってきたという写真が送られてきた。だが、そこに、彼と息子とともに見知らぬ女性が写っていることに気づいたゆりあは心を激しくかき乱される。そこへ来てその晩もうなるのをやめない吾良に、とうとう怒りを爆発させてしまう。「何が不服なの? 吾良が蒔いた種でこうなったんでしょ!」「私はもう……吾良を必要としてない。だって、好きな子ができたから。吾良よりずっと若くて、優しくていい子なの」と、優弥との関係を打ち明けると、彼の顔に自分の顔を近づけ、「あんたはもう要らないからっ!」と涙ながらに吐き捨てたのだ。そうやって思いの丈をぶつけてから、ふと後ろを振り向くと、何と、そこには節子の姿が。ゆりあの視線に気づいた節子はそのまま無言で立ち去る。

 何ということだろう、姑に一番見られてはならないところを見られてしまうなんて……いや、この場合、「聞かれてしまった」というほうが妥当か。ともあれ、息子に対し嫁のゆりあが罵詈雑言を吐く姿に、節子がいたたまれない気持ちになったであろうことは容易に想像がつく。これはつらい。

鬼気迫る菅野美穂の攻撃

 ゆりあはこのあと、バレエ教室に入会する。彼女は前回、みちるの長女・まに(白山乃愛)にバレエを習ってみたらと勧めた際、彼女があまり気乗りしないようなので、行きがかり上、自分が習うと言ってしまっていた。とはいえ、このタイミングで教室に入ったのは、心の置きどころがないまま、少しでも気をまぎらせようと思ったからだろう。バレエはもともと子供のころにやっていたので、いざ再開すればまた昔のように体は動くはずだと思い込んでいたが、甘かった。ブランクはいかんともしがたく、すっかり体が硬くなっていてまったく思うようにならない。そんな無様な姿を、ゆりあは誰かに見られていることに気づく。ほかでもない、まににである。

 ただし、このときの「見られてますよ」はいい方向に転がる。ゆりあは、まにが本当はバレエを習いたいのに、こちらに配慮してか、自分の気持ちを取り繕っているのだと気づく。そこで帰宅して改めてまにと向き合って本心を聞き出すと、「バレエやりたい」との言葉をようやく引き出したのだった。

 このとき、取り繕っているのは自分も同じだと気づいたゆりあは、行動を起こす。吾良に昨夜のことを謝ると、それに続けて、優弥とはこのまま先の写真について返信しなければ関係は途絶えるとしながらも、「でもいまの状況はやっぱりいやだ。いまは何も取り繕いたくない」と宣言したのだ。そして意を決して、数日保留していた優弥への返信をようやく送る。それは、写真の女性にやきもちを妬いていたと自分の本心を率直に打ち明ける内容だった。これに対し、さっそく優弥から「会いたい」とのメッセージが返ってくる。こうなるともう止まらない。この日はゆりあが吾良の夜介護当番だったにもかかわらず、夜中に家を抜け出すと、優弥と落ち合うことに――。

 二人からすれば最高のひとときであったろうが(例の写真の女性の正体も、優弥の弟の妻とわかってひと安心)、見ているこちらは気が気ではない。案の定、ゆりあが予定していた以上に時間が過ぎてしまったことに気づき、急いで家に戻ると、ベッドに吾良の姿がない。見れば、床に転げ落ちているではないか。抱き上げようにも、ゆりあ一人ではとても無理である。そこへ幸か不幸か、稟久が現れた。

 おかげで吾良はどうにかベッドに戻すことができたが、当然ながら稟久はなぜこうなったのかとゆりあを追及する。ついには、あの便利屋の名前を出し、どういう関係なのかと問いただした。すっかり追い詰められたゆりあは、意外な態度に出る。あろうことか、稟久に向かって「そうだね、あなたが思ってるようなことだよ。あなたがやってたようなことだよ。私が知らないところであなたが吾良としてたようなこと」と開き直ったのだ。

 ここから今回のクライマックスである、修羅場が繰り広げられる。ゆりあは、稟久が吾良とお互いのことを本気で考えたように、自分もいま、好きな人とのことを本気で考えているとまで吐露するも、稟久はあざ笑うかのように「いいじゃないですか。僕もゆりさんも最低ってことで。別に悪いとは言ってないし、誰とでもやりまくればいいよ、気が済むまで」と吐き捨てた。これにゆりあはブチ切れる。というか、ほとんど逆ギレだが、稟久をクッションで叩きつけ、さらに部屋のあちこちの戸を閉めて誰も入れないようにすると、相手を羽交い締めにしたり蹴っ飛ばしたりと暴れまくる。このとき、菅野美穂が顔を真っ赤にして攻撃する姿には文字どおり鬼気迫るものがあった(このシーンと先ほどの優弥との密会シーンでは、カメラアングルが登場人物の動きに合わせて細かく変化していたのも面白かった)。

 それにしてもこの展開、一体どう収拾するの!? とドキドキしながら見ていたら、突然、吾良がむっくり起き上がったかと思うと、またしてもベッドから落ちそうになったところを、すんでのところで凛久が受け止める。ゆりあもすぐさま駆け寄り、吾良の手を握りしめると、かすかではあるが力を感じた。そのうちに、吾良が何か言いたげに声を発し、二人にこちらの言っていることを理解しているかもしれないと思わせる。彼が回復の兆しを見せているのはあきらかであった。

 ゆりあと凛久の喧嘩が吾良の意識を揺り動かしたのだとすれば、ケガの功名というべきか。ゆりあが第2話で稟久とみちるに同居を持ちかけた際、「この刺激が吾良を起こす最高の起爆剤になると思わない!?」と言っていたのが、半ば現実のものとなったのである。

 ただ、気になることが一つだけ。それは、ゆりあと凛久が言い争っているのを節子がこのときも目撃してしまい、うろたえていたことだ。吾良が回復しつつあるのはいいけれど、今後の伊沢家の行方が心配である。

 次回予告では新たな人物が登場……って、演じてるのは脚本家の宮藤官九郎!? 一体誰の役だろうか。あえて事前に調べず、次回を楽しみに待つことにしたい。

→「ゆりあ先生の赤い糸」のレビュー―を読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●考察『ゆりあ先生の赤い糸』4話。夫の介護のために同居する愛人や謎の親子と家族のような関係性が生まれる

●『華麗なる一族』は意外にホームドラマである。家庭持ち木村拓哉も珍しい

●田中裕子、森昌子、古手川祐子の魅力爆発『想い出づくり。』はその後の山田太一名ドラマへ繋がる大傑作

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