血液がんの一種「多発性骨髄腫」新薬登場により治療成績向上
多発性骨髄腫は免疫機能を担うBリンパ球が分化(成長)した形質細胞が、がん化する病気だ。症状は多彩で、破骨細胞の活性化による骨粗しょう症や圧迫骨折、腎臓障害、貧血、ウイルスなどの外敵を攻撃する免疫能低下による感染などが起こる。
進行が遅く、通常は症状が出てきたら、治療を開始する。治癒の難しい疾患だが、現在は新薬が多数登場し、生存期間が大幅に延びている。
治療法が少なく生存期間3年程度だった血液のがん
多発性骨髄腫は血液のがんの一種で、免疫細胞の1つBリンパ球が分化した形質細胞が増殖する病気だ。10万人に2〜3人の頻度で発症し、発症平均年齢は66歳、高齢になるほどリスクが高まる。
形質細胞はIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つのクラスの免疫グロブリンというタンパク質を作る。これらは細菌やウイルスから身を守る免疫応答に重要な働きをする。しかし、多発性骨髄腫になると、どれか1種類しか作らなくなり、モノクローナル(単クローン)なMタンパクが出現して免疫のバランスが崩れてくる。
埼玉医科大学総合医療センター血液内科の木崎昌弘教授に話を聞いた。
「一般に多発性骨髄腫は進行がゆっくりしており、症状がなければ、治療の必要がないケースもあります。ただ骨髄で形質細胞が増えてくると、様々な臓器障害や合併症による症状が現われます。通常は症状が現われたら治療を開始しますが、1990年代までは治療の選択肢が少なく、生存期間も3年程度でした」
診断が難しく、骨折や貧血などつらい症状も
主な症状としては形質細胞の増加に伴い、破骨細胞という骨を壊す細胞が活性化するため、骨粗しょう症や病的な骨折を繰り返す。また通常の骨髄内には形質細胞が数%しか存在しないが、どんどん増えて正常な血液が作れなくなり、貧血になることもある。
さらにMタンパクは腎臓に障害を起こし、アミロイドーシスを合併する場合もある。アミロイドーシスは変性したタンパク質で、心臓や血管、神経などに付着して心不全や末梢神経障害を起こす。他にも血液の粘性が増し、目の血管が詰まり、視力が低下することも。症状が多様なため、整形外科や一般の内科などでは原因がわからず、専門の血液内科で、ようやく診断されるケースも多い。
確定診断は血液検査と骨髄検査、画像診断で行なう。骨髄の中に形質細胞が10%以上、血清Mタンパクが3g/dl以上が基本的な診断基準だ。
新薬で飛躍的に治療成績が向上
患者の中には健康診断の血液検査で、総タンパクの量が増えているのにアルブミン(細胞や組織に広くあるタンパク質の一種)の数値が下がっていることによって発見される症例もある。
「治療は1960年代から、メルファランという抗がん剤とステロイドを併用するMP療法が行なわれてきました。1990年頃、サリドマイドに効果があることがわかり、使用が開始され、2000年代には多くの分子標的薬が開発されて治療成績が向上しています。65歳以下であれば、薬物による寛解導入療法実施後に患者自身の末梢血幹細胞を採取しておき、強力な抗がん剤治療後に採取した自分の幹細胞を体内に戻す自家末梢血幹細胞移植を行ないます」(木崎教授)
現在は免疫調節系の薬とプロテアソーム阻害薬(異常細胞が生き延びるのに必要な働きを防ぐ薬)にステロイド薬を組み合わせるなど治療の選択肢も広がり、治療成績が大幅に向上している。
※週刊ポスト2019年3月8日号