兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第215回「施設に入ってほしい」と告げた日】
ライターのツガエマナミコさんの家は、兄妹の2人暮らし。ずっとそれぞれ別の場所で生活していたのですが、数年前、父母の元に再集合したのです。その後、父母が旅立ち、今や若年性認知症を発症した兄の生活を支えることになったマナミコさん。この度、もともと別だった兄と世帯分離する手続きをしました。兄の施設入居に向けて準備を始めたのです。
* * *
掃除をしながら静かに申し上げました
日本の小学生は、ひらがな50文字、カタカナ50文字、漢字1026文字を学ばなければならないのに対して、米国の小学生はローマ字一択。大文字小文字で52文字。比べると日本の小学生の方が圧倒的に大変なことをしている――という話を最近聞いて「確かに~」と目から鱗でございました。単純に文字数だけで比較しても日本語は英語の約21倍。もっと言えば漢字には音読み、訓読みがありますので、学習量は膨大なのでございます。そのしわ寄せでほかの教科が手薄になるのはものの道理でございましょう。手薄な教科を埋められないまま大学まで行くことになるので、日本の大学は世界のトップクラスに入れないのではないでしょうか……。
ってなことを勝手に妄想したツガエでございます。だからといって平仮名だけにすればいいとは思っておりません。3種の文字を自在に使いこなし、読みこなせることは思えばすごいことですし、楽しいことでございます。
ここまできて、お気づきかもしれませんが、本日、わたくし機嫌がよろしゅうございます。と申しますのも、先日申請した介護保険負担限度額認定証が、先ほど書留で届いたからでございます。
認定内容は「第2段階」(※1)。パンパカパーン!
なんと生活保護の方の次にお安い負担額でございます! パチパチー!
この一つ上、「第3段階(1)」になると部屋代も食事代も負担限度額が大きく跳ね上がるので、第2でとどまってくれたのはありがたい限り。兄が入所する施設(※2)を想定して、早速計算してみますとユニット型個室でもお部屋代とお食事代を合わせて1か月4万円以下。もちろん、こまごました消耗費や要介護3の介護費用は別途必要ですが、ひと月6万円台の年金でもほとんどを賄えそうでございます。その分、お国にご負担していただくわけでございますが…。
なにはともあれ世帯分離(※2)がスムーズにできたお陰で、肩の荷がだいぶ軽くなりました。
将来的には、わたくしが兄より先にポックリ逝った場合どうするのか?と言った問題はありますが、当面お金についての大きな心配は必要なさそうでございます。
国民健康保険もだいぶ安くなります。わたくしの分としては変わりませんが、兄が世帯主になったことで兄が納める国民健康保険料は、わたくしが世帯主だった時の兄分の保険料よりも格段にお安くなりました。ありがたいことでございます。
しかしながら、まだ施設見学の段階には至っておらず、もたもたしておりましたら、お仕事が詰まってきてしまいまして、しばらく見学に行くどころではない状況になりました。申し込んですぐに入れるものではないのですから、一刻も早く申し込むところまで済ませたいのに、どうしてそんなときに限って、お仕事が集中するのでございましょうか。
そして、わたくしが兄を無視して仕事に夢中になっていると、リビングで「チョロチョロ・・・」と嫌な音がしたのでございます。
ふと見ると、リビングの隅でお尿さまです。ズボンを下ろし、パンツの横っちょからやっているではありませんか。「お兄ちゃん、昨日も言ったじゃん。そこでオシッコしちゃだめなの!」と申し上げたわたくしを振り返り、「何が?どうしたの?」とズボンを上げながらおっしゃる兄。わたくしはどんな顔をすればよかったのでございましょうか。思わず「自分で掃除してよ」と怒ったわたくしに、兄は「ボクが?なんで?」と火に油発言。そしてわたくしはお掃除をしながら静かに申し上げました。「もう、お兄ちゃんは普通の家では暮らせないから、施設に入ってくれるかな」と。
こんな形ではありましたが、初めて兄に施設に入ってほしいことを言えました。兄は「ふんふん」と、どうでもいいような相槌をしておりました。兄が理解しようとしまいと、覚えていよう、忘れようと、何も知らせずに施設入居させる罪悪感からは一旦回避した気持ちになっております。
「もうすぐ終わる」と思えば、多くのことを耐えることができます。もう少しの我慢。解放の日は近い。一人暮らしになった初日は何をする? そんなことを考えながらもう少し介護生活を楽しもうと思っているツガエでございます。
※編集部註1:介護保険負担限度額認定証の区分については以下をご参照ください。
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
※編集部註2:負担限度額認定証が適用される対象施設は以下の通りです。有料老人ホームなど、民間運営の介護施設は対象ではありませんので注意してください。
特養(特別養護老人ホーム)
老健(介護老人保健施設)
介護医療院
介護療養型医療施設
短期入所生活介護
短期入所療養介護
地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養)
※編集部註3:世帯分離については、以下の記事もご参照ください。
→介護保険料を安くする裏技「世帯分離」のメリット・デメリット
→「世帯」を分ければ介護費用が減る!手続き5分の簡単裏ワザ【役立ち情報再掲載】
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ