「スマートスピーカー」を認知症介護に活用するスゴ技とは
「AI」「IoT」…日進月歩で進化する情報通信技術。スマート家電など、便利だろうがなかなか自分の生活に取り入れるのは難しい――。そう思っている人も多いだろう。
しかし、本当に難しいのだろうか。
盛岡に住む認知症の母を、東京から遠距離で介護を続けている工藤広伸さんは、最新のスマートスピーカーの活用を始めたという。
「便利なツールや制度など、頼れるものはなんでも頼る」介護を実行し、それを書籍、ブログなどで広く公開している工藤さん。スマートスピーカーをどのように介護に使っているのだろうか?その方法などを教えてもらう。便利な世の中、介護でもその便利を利用しない手はない!?
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皆さんは、スマートスピーカーを利用したことはありますか?
わが家では、このスマートスピーカーを認知症介護に活用し始めました。今日はこの最新ツールを、どのように介護に応用しているかというお話です。
スマートスピーカーとは?
スマートスピーカーについて、IT系総合ニュースサイトである『Impress watch』より引用します。
『スマートスピーカーとは、対話型の音声操作に対応したAIアシスタントを利用可能なスピーカーで、AIスピーカーとも呼ばれます。現在、多くの人がインターネットを介して音楽鑑賞や調べ物、買い物といったサービスを利用していますが、スマートスピーカーでは、そうしたサービスを、PCやスマートフォンなどを介することなく、「音声」のみで操作できます』(引用元『Impress watch』:https://www.watch.impress.co.jp/smartspeaker/)
わたしは今日の天気を調べるとき、今まではスマートフォンかテレビで天気予報をチェックしていました。しかし、スマートスピーカーを導入してからは、「今日の天気は?」とスピーカーに話しかければ、音声で天気を回答してくれるので、着替えながらでも、顔を洗いながらでも、天気が分かるようになりました。
他にも、自分が乗る電車の路線の運行状況を、スマートスピーカーで確認することができますし、今日のニュースを聴いたり、ラジオを聴いたり、音楽を流したりすることもできます。
このスマートスピーカーの機能のひとつに、今日の予定や明日の予定を定刻に自動で知らせてくれる機能があることが分かりました。
わたしはこの機能を使って、認知症の母にデイサービスに行く日をお知らせしたり、ヘルパーさんが来てくれたりすることを、スピーカーの音声で知らせてみようと思ったのです。
わが家のスマートスピーカーは『Google Home Mini』
わが家で購入したスマートスピーカーは、『Google Home Mini』(Google)です。数あるスマートスピーカーの中でこの商品を選んだ理由は、特別価格2000円(通常価格は6480円)で販売していたからです。
母は、居間にある壁にかかったカレンダーを見て、その日の予定を把握しているのですが、カレンダーだけでは、今日が何日で何曜日かを理解できません。そのため、カレンダーのすぐ下に日付や曜日が表示されるデジタル電波時計を設置し、カレンダーと見比べながら、その日の予定を確認しています。
ところが最近、母はデイサービスに行く日付を間違えて準備をしたり、カレンダーに予定が書いてあっても、わたしに明日の予定を何度も確認したりすることが増えてきました。
そこで、この『Google Home Mini』に、今日の予定や明日の予定を決まった時間に音声でお知らせしてもらい、カレンダーの補助的な役割を果たしてもらおうと考えました。
実際にスマートスピーカーを使ってみて分かったこと
毎日の予定をスマホのGoogleカレンダーに入力することで、Google Home Miniがその予定を読み上げるという仕組みなのですが、最初は「ヘルパー」「訪問リハビリ」といった、シンプルな言葉で予定を入力していました。
しかし母は「11時、ヘルパー」という音声だけでは、予定を理解できませんでした。そこで「A事業所から、ヘルパーさんが買い物に来てくれるよ」と、主語や目的まで含めた言葉で、予定を入力するようにしたことで、母はその日の予定を理解できるようになりました。
この機能だけでも十分満足しているのですが、在宅医療・介護に携わる訪問看護師さんや理学療法士さんと、このスマートスピーカーをもっと介護で活用できないかを話しあってみました。
ちなみにわが家はスマートスピーカーに加え、スマートリモコンも購入し、これらを連動させています。このリモコンがあると、エアコンの電源、温度調整、テレビの電源、チャンネル変更を音声で操作できるようになりますし、東京から盛岡の実家の家電を遠隔操作できるようになります。
医療・介護のプロと話し合ったスマート家電の可能性
訪問看護師さんは、「頭はしっかりしていて、声も出せる。だけど、体が思うように動かない人が、音声で家電を操作できたら、患者さんは喜ぶかもしれない」という意見でした。
この話を聞いて、わたしは亡くなった父がベッドで寝たきりの状態だったとき、音声で家電を操作できたら便利だったかもしれないと思いました。
また、お昼寝の時間が長いひとり暮らしの認知症の人に対して、決まった時間にスマートスピーカーから音楽を流すことで、昼寝の時間を減らすというアイデアもありました。そうすることで、認知症の人が夜に起きて行動することがなくなるかもしれません。
毎食後に「お薬は飲みましたか?」とスマートスピーカーから音声でお知らせすることもできますし、「ご飯は食べましたか?」と食事を促すこともできます。軽度の認知症の方なら、こういった音声のお知らせで自立した生活を支援できるかもしれません。
高額の個人向け介護ロボットを導入するよりも、まずは手頃な価格で購入できるスマートスピーカーを在宅介護に活用してみると面白いと思います。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)
●お知らせ
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