転倒、物忘れ、尿漏れなどが症状「特発性正常圧水頭症」って?
全国で37万人の患者がいると推計される特発性正常圧水頭症。頭蓋内で産生された髄液が脳室に過剰に溜まり、歩行障害や認知機能の低下、尿漏れなどを起こす。
老化と間違いやすい「特発性正常圧水頭症」
治療は髄液を腹腔に流すシャント術で症状が改善する。背中と脇腹、お腹の3か所を小さく切開し、カテーテルを通すL-Pシャント術が普及しつつある。頭蓋骨に穴を開けない低侵襲な治療として期待されている。
脳脊髄液(髄液)は頭蓋内で産生され、脳と脊髄の表面を満たして脳自体を守ったりする働きをしている。水頭症とは過剰になった髄液が脳室に溜まり、脳を圧迫することで起きる病気だ。特発性正常圧水頭症は特に高齢者に多く、65歳以上の1.1%、約37万人の患者がいると推計され、高齢化とともに、その数は増えている。
東京共済病院脳神経外科の鮫島直之部長に話を聞いた。
「くも膜下出血や頭部外傷といった明らかな原因がないのにもかかわらず、脳室拡大が認められ、すり足での歩き、転倒しやすい歩行障害や物忘れなどの認知機能障害、尿漏れの症状などがみられるのが、特発性正常圧水頭症です。これらは高齢になると、よく起こるため、年のせいだと思われがちなので、治療しないままになっている方も、多くいると思われます」
特発性正常圧水頭症は過剰になった髄液を腹腔に流すことで症状は改善する。手術でよくなる歩行障害といえるが、認知機能低下は残る。
診断は歩行検査やCT等の画像検査などで総合判断
水頭症の歩行検査にはTUGを用いる。これは椅子から立ち上がり、3メートル歩き、そこで方向転換をして戻り、椅子に腰かけるまでの時間を計測するものだ。水頭症患者は椅子から立ち上がるのも時間が掛かるだけでなく、すり足で歩幅が狭いので早く歩けない。さらに方向転換しようとしてよろける、椅子にうまく座れないなどの症状もみられる。
診断にはタップテストを行なう。タップテストとは腰椎に針を刺し、髄液を30ミリリットル抜いてから、症状が改善するかどうかを見るもの。頭部CTやMRIの画像検査と合わせ、これらを総合的に診て確定診断をする。
頭蓋骨に穴を開けずに治療することも可能に
治療は髄液をカテーテルで腹腔に流し、吸収させるシャント術を行なう。従来はカテーテルを脳室から腹腔に通す「脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)」が広く行なわれてきたが、頭を開ける必要があった。
「私どもは腰椎付近から、カテーテルを入れ、腹腔に髄液を流す腰部くも膜下腔-腹腔(L-P)シャント術を主に行なっています。小さな傷が背部と脇腹、お腹の3か所だけで、約40分の短時間で終了。この治療を円滑に行なうために、ベッドを転回して行なう手術法、手術器具なども開発し、より安全確実なシャント術を実施しています」(鮫島部長)
カテーテルはシリコン製で、半永久的に使用可能。背部に細かく圧調節ができるバルブが付いており、体外から流れを調節する。身長と体重から計算して初期圧設定を行ない、流れる量の調整が可能だ。流れが足りないと症状は解消されず、流れすぎると低髄液圧となって頭痛などが起こる。
頸椎の変形や脊柱管狭窄症などがあるとL-Pシャント術は適応外、V-Pシャント術になることもあり、医師と相談することが重要だ。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト12月21日号
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