異常行動を起こす「肝性脳症」は認知症と間違えやすく要注意
時間や場所がわからなくなる、家族を認識できず、殴るなどの異常行動に対しては認知症が疑われる。ところが、認知症の治療をしても、症状が全く改善しない症例もあり、原因が肝不全による意識障害(肝性脳症・かんせいのうしょう)だったという例が珍しくない。
肝臓機能低下や門脈圧亢進(もんみゃくあつこうしん)で、腸管からの血液が肝臓を経由せずにアンモニアなどが全身に回り、脳神経障害を起こす。適切な診断と治療が必要だ。
5段階ある「肝性脳症」の症状
ウイルス性肝炎の患者は日本全国に200〜300万人いるといわれている。近年はアルコール性肝障害や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も加わり、肝硬変をはじめとする肝不全の患者数は増加中だ。初期の肝硬変は無症状が多く、進行すると消化管出血や黄疸、腹水、感染症、意識障害(肝性脳症)などが起きる。
肝性脳症の症状は1〜5段階に分けられる。1段階目では、なんとなく“ボー”としている程度で、周囲に気付かれないことも多い。2段階目になると時間や場所がわからなくなる、モノを取り違える、家族を認識できなくなる、お金を撒くなどの異常行動を起こす。3段階目では突然昏睡が起き4段階目、5段階目と進むにつれ、痛みを感じないほどの深昏睡状態になる。
日本大学医学部附属板橋病院消化器・肝臓内科の神田達郎准教授に話を聞いた。
「肝性脳症が起きるメカニズムには大きく分けて2つあります。1つは肝臓そのものの機能低下により、血中のアミノ酸バランスが崩れ、神経伝達を阻害するようになること。2つ目は肝臓や、その周辺に側副血行路という新生血管ができ、本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの有害物質が側副血行路を介し、体中に循環することで脳神経細胞機能が障害されるのです」
肝性脳症は肝硬変だけでなく、原発性胆汁性胆管炎や急性肝不全(劇症肝炎)などでも発症することがある。他にも肝機能の数値はほぼ正常なのに、側副血行路が発達したせいで、比較的若い年代でも症状が起きる場合もあり、注意が必要だ。
「羽ばたき振戦」の有無、ナンバー・コネクション・テストなどでチェックも
診断は血液肝機能検査と血中アンモニア値の測定、腹部画像診断や脳波検査などを組み合わせて行なう。両手を前に伸ばし、手のひらを上下に細かく動かす羽ばたき振戦の有無も診断の目安となる。
症状が軽く、通常の検査では診断がつきにくい潜在性肝性脳症も多いため、セブン・シリーズ・テストやナンバー・コネクション・テストなどの認知機能検査も行なわれる。セブン・シリーズ・テストとは100から7を繰り返し引いていくもので、肝性脳症患者は1回引いて93と答えられるが、それ以上の引き算ができない。
「肝性脳症は肝機能低下に加え誘因があり、便秘になるとアンモニアが増加しやすく、発症することがあります。アンモニアはたんぱく質に含まれる窒素の最終代謝物で、食道静脈瘤破裂など大量消化管出血があると血液の分解再吸収で血中アンモニアが増加し、発症原因となります。牛・豚肉などのたんぱく質の過剰摂取で起こることもあります」(神田准教授)
治療は筋肉でのアンモニア代謝を促進し、血中アミノ酸バランスを整えるBCAA(分岐鎖アミノ酸)の点滴や内服、アンモニアの産生を抑え、便秘を改善する合成二糖類を服薬する。一昨年には腸管内のアンモニア発生を阻止する抗菌剤が保険承認された。
肝性脳症が発症するしくみ
以下、誘因一例
・消化管出血
・高たんぱく食
・便秘
・感染症
・利尿剤の過量
・脱水など
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2018年10月5日号