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暮らし

元ヤングケアラーが明かす障がいのある母の「老い」への向き合い方 通院で発覚した3つのこと

 高次脳機能障害の母を幼いころからケアしてきたたろべえさんこと高橋唯さん。障害福祉サービスの認定調査を終え、施設介護についても考え始めたところだったが、54才となった母に起こるさまざまな症状が気になってきたため、いくつかの病院で検査を受けることに――。元ヤングケアラーが明かす親の「老い」との向き合い方とは。

1.整形外科「母の老い」

 6月は母を3か所の病院へ連れて行った。通院を通して、これからは「障害者」の母が「高齢者」になっていくことを意識しなくてはならないと感じた。

 母は交通事故の後遺症で右腕に麻痺があり、主に左腕だけを使って生活してきた。ところが、昨年からたびたび左肩を痛がるようになった。

 以前にも病院へ行ったことがあったが、病院へ行くとそれだけでよくなった気がするのか、「もう痛くない!大丈夫!」と言って、いつも通りに過ごしていた。

 ところが、5月頃からまた左肩が痛いと言いだし、高いところの物が取れなくなったり、着替えができなくなったりした。一度小さな病院で痛み止めの注射をしてもらったが変化がないようなので、また別の病院に行ってみることにした。

 ついでに、以前から気になっていた左手の変形も診てもらった。リウマチなのではないかと思い、痛み止めを打ってもらった病院で血液検査をしたが、違うとのことだった。

 診断結果としては、左肩は関節炎、左手の変形は関節の亜脱臼とのこと。

 医師からは、左肩も左手も、右腕が麻痺している分を補って使っているうちにこうなってしまったのだろうとの説明があった。痛み止めを塗りながら、無理せず生活するしかないそうだ。

 左手に関してはサポーターをつけて固定する治療もあるが、動きの制限があると生活しにくいだろうとのことで、そのまま様子を見ることになった。

 父も約30年前に事故で左腕を失ったので、片腕に負担が偏るという点では母と同じだが、肩が上がらなくなるようなことはない。父は自分で残っている方の腕の使い方を工夫することができているが、母は高次脳機能障害によって、それが難しかったのではないかと思う。

 扉や蓋の開け閉めも、少し向きを変えればいいのに、それができずに力一杯動かして壊してしまうということも多い。

 母のリハビリのためと思い、自分でできる身の回りのことは手伝わずにここまでやってきたが、今思えば、少しでも母の左腕への負担を少なくしておいた方がよかったのかもしれない。左腕が使えないことで、今までできていたことができなくなる母を見て、なんだか「老い」を感じた。

→認定調査で判明した母の様子にショック!元ヤングケアラーが感じた在宅介護の限界

2.眼科「白内障はすでに始まっていた」

 昨年、障害者年金の「眼の障害」の認定基準が変更されたことを知った※。

 母は事故の影響で両眼の右半分が見えていないらしいということは聞いていたが、実際にどのくらい見えていないのかは調べたことがなかったので、眼科に行って検査をしてきた。

 結果的には、障害者年金の基準に該当するほどの視野障害はなかった。

※日本年金機構「令和4年1月1日から「眼の障害」の障害認定基準が一部改正されます」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2021/202111/shougainintei.html

 両眼の右半分の上下は見えていないが、中央は見えており、生活する上で大きな支障はないだろうとのことだった。しかし、白内障はもう始まっているとのことで、ここでもやはり「老い」を感じた。

 母は転びやすいのに自分で気をつけて行動することができず、障害物を避けずに通ろうとすることや、足下に物をいっぱいに置いてしまうことがある。これから視力が落ちたら、見えないことへの不安から転倒に気をつけることができるようになるものなのだろうか。

ヤングケアラーの実体験 障害のある母と歩むたろべえさんが公的サービスに辿り着くまで

3.物忘れ外来「気になることが増えてきて…」

 物忘れ外来を受診しようと思ったのはふたつの理由がある。

 ひとつは、ここ数年、なんとなく「高次脳機能障害が悪化した」と思うことが増えていたからだ。

 厳密に言えば、高次脳機能障害が悪化することはないとされている。しかし「以前はこうだったことが、今はこうなった」と、はっきり言えるわけではないのだが、家族からすると、母の行動は「ここまで頓珍漢ではなかったような」と思うことが増えた。

 ふたつ目に、この先、母が入居できる施設を探していく際、障害福祉サービスの施設だけではなく、介護保険制度の施設も探せた方がよいのではないかと思ったからだ。

 母は現在54才で、介護保険の第2号被保険者に該当する。

 第2号被保険者が要介護認定の申請をするためには、特定疾病と診断されていなければならない。

 現在の母の場合は病気ではなく事故が原因で要介護状態になっているので、特定疾病には当てはまらない。しかし、認知症と診断されれば、特定疾病に該当する。ちなみに手の変形も、リウマチによるものであれば特定疾病に該当していた。

 物忘れ外来では、まず認知機能検査を行った。精神保健福祉手帳の更新の際に行っている検査と同じで、結果もほとんど変わらなかった。

 次に脳のCTを撮影したところ、前頭葉の萎縮が認められるとのことだった。医師から、ひとまず脳の萎縮を遅らせる薬を飲む治療があるが、どうするかと聞かれた。

 実は、脳の萎縮を指摘されたのはこれが初めてではない。

 母は約10年前にアルコール依存症で通院していたことがあるが、その頃にはすでに脳の萎縮があると言われていた。

 それがアルコールの影響なのか、約40年前の事故の影響なのかはわからない。その後も何度も転倒して頭をぶつけているが、昔から一か所の病院で定期的に脳画像を撮っていたわけではないので、いつからどの程度の脳の萎縮があるのかはわからない。

 認知症と診断されたら介護保険が使えるのではと思って母を病院に連れてきておきながら、ここにきて、本当に脳の萎縮が進んでいるのか? 過去に起こったものではないのか?などと思い始めてしまい、「うーん…」と返事をできずにいた。

 すると医師から「まあでも54才にしては脳が萎縮していることは確かだし、うーんとか言っている間に薬を飲んで治療した方がいいですよ。そもそも、治療する意思がないなら、介護保険の申請書も書けませんから」と言われた。

 確かに、どのみちこれから老化によって脳の萎縮が進んでしまうなら、少しでも食い止めた方がよいのだろうと思い、「認知症」との診断を受けて治療を始めることにした。

 これで介護保険も申請できるようになった。

→母の「障害福祉サービス」区分変更調査に立ち会った元ヤングケアラーが戸惑いと罪悪感を感じた理由

編集部注:介護保険サービスの利用は65才以上からだが、特定疾病(末期がん、関節リウマチ、初老期における認知症など16種の病気が指定されている)による要介護と認定された場合、40才以上から利用できるようになる。

参考/厚生労働省「介護保険制度について」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf

***

 物忘れ外来の帰り道、母本人は「そんなに認知悪くなってないのね、よかった〜!」と言っていた。

「なんか、頭の検査って言うから、病院みたいなところに入れられちゃうかと思ったの」と母が言うので、

「今日行ったところは病院なんだけど…」と私が返すと、

「ちがうちがう、施設みたいなところに入れられちゃうと思った!それだけは嫌!」と母。

 まだ54才だし、本人も家での生活を続けたいと言うのなら、もっと頑張って欲しいという思いもあったが、実際にはもう無理に頑張る段階ではないのかもしれないと感じた。

 あるいは、もう少し早くから継続的な通院や適切なリハビリをしていれば、こんなに早く「老い」と向き合うことにはならなかったのではないかという後悔もある。

 ヤングケアラー時代の私は、母のケアより自分のことを優先してきた。その代償として母は人より早く、老いが始まってしまったのではないか。これからは、昔のツケを払って、母のケアと向き合っていこうと思う。

→たろべえさんのほかの記事を読む

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

・ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

・ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

・相談窓口

・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」

児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

文/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名でブログやSNSで情報を発信中。本名は、高橋唯。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。第57回「NHK障害福祉賞」でヤングケアラーについて綴った作文が優秀賞を受賞。
https://twitter.com/withkouzimam  https://ameblo.jp/tarobee1515/

●認定調査で判明した母の様子にショック!元ヤングケアラーが感じた在宅介護の限界

●母の「障害福祉サービス」区分変更調査に立ち会った元ヤングケアラーが戸惑いと罪悪感を感じた理由

●ヤングケアラーについて理解を深める 当事者も支援者にも共感が得られるおすすめ本3選

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