兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第177回 リハビリパンツ問題】
若年性認知症を患う兄の排泄トラブルで頭を悩ましてきた妹でライターのツガエマナミコさん。「にぃさんぽ」(兄の予期せぬお出かけ)事件をきっかけに、兄はリハビリパンツを穿いてくれるようになり、少しお世話がラクになったのですが、また新たな悩みも生まれてきたようです。
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リハパンとゴミ処理問題
昨今の物価高は目を疑うばかりでございます。その上、この秋から兄のリハビリパンツ代がのしかかり、生活費が2割増しになって憤慨しているツガエでございます。
1パック20枚入りのリハビリパンツが税込み1500円ほど。1日1枚とは限らないのであっという間になくなり、いじましいわたくしは「これは年間いくらになるのか」と気になりました。
ざっくり計算してみると365日÷20枚=18.25パックなので、少し多めに見積もって20パック×1500円として3万円。年収は増えないのに、一気に3万円上乗せとなるこの現状には涙しか出てまいりません。
しかし、もうリハビリパンツのない生活は考えられない体になりました。兄はどうかわかりませんが、わたくしの心身が兄のリハパンを必要としているのです。その理由は、お布団に地図を描くことがなくなったことと、昼間でもお尿さまの心配がほぼないことへの安心感。これは月3万円をお支払いしても手に入れたいのでございます。つい先日までリハパンなしで生活していたのに、一度使ったらもうこの安心感を手放せなくなりました。
「安心のため」と言うと「なくてもいいもの」のように思われがちですけれども、通院の移動時に「もしお漏らししたらどうしよう」と必要以上に気にしなくてもいいのは想像以上に助かります。できればリハパンも保険適応で3割負担になったらいいのにと思ってしまいます。
ありがたいことに、兄はリハパンをすんなり受け入れ、嫌がることなく穿いてくれます。
ただ、朝、リハパンを穿き替える儀式をすると、たいてい穿き方がおかしなことになっておりまして、吸水パッドの部分が腰にあり、大事なところは守りが手薄になっているという大ボケスペシャルに思わず笑ってしまいます。「じゃ、そのパンツ穿き替えよう。脱いでくださいな」と言うと「これ? 脱ぐの? これ、きついんだよ」と言いながら腰をくねらせて脱いでくれます。「そりゃそうだろうよ」と心の中で思いながら「この向きで穿いてね」と新しいリハパンを広げて手渡すと、スルスルと穿いて「お、いい感じ」とご満悦になってくれます。しかし、明日になればまた穿き口が間違っているのです。
脱いだリハパンはちょい漏れを受け止めてくれていることが多いので、どこかのタイミングでそれを避けて穿いてしまうのかもしれません。いや、一般的には腰にそれが来る方が不快ですから、やっぱり何かを考えてしていることではないのでしょう。認知症の人の頭の中は「迷宮」でございます。まぁ今のところ大きな失敗はないので、機嫌よく穿いてくれることに感謝するばかりでございます。
とはいえ、すべての排泄問題が解決したわけではなく、朝、兄の部屋の換気をしに行くと、必ずごみ入れにお尿さまが入っており、たまにお便さまもあります。お便さまが入っている日は、シーツや掛け布団カバーに指先をぬぐったような汚れが付いておりまして「また洗濯かぁ」とため息が出るツガエでございます。
リハパンの捨て方にも若干の不安がございます。赤ちゃんのオムツ売り場にあった消臭袋に3~4個入れてぎゅっと結び、それが数個溜まったら燃えるゴミの日に捨てておりますが、これでいいのでしょうか? ただ、消臭袋が意外に高いので、冬の間は新聞紙でくるんで捨てようかと思案中でございます。
ゴミといえば「処分場が限界だ」という話を聞いたことがございます。ふと環境省のホームページを覗きに行くと、いろいろ興味深いことが書いてありました。例えば、「1日1人当たりの最終処分量(燃やして残る灰など)が82g」とか、「ゴミ処理事業にかかる経費は一人当たり年間1万6400円」など。こんな有意義な情報が発表されていることを知らなかったとは、まったく勉強不足でございました。気になっていた日本のゴミ最終処分場の残余年数(満杯になるまでの残り期間)の推計は「21.4年」(環境省・令和3年発表)だそうです。かなり差し迫った問題でございます。リハパンを捨て続ける身として、ほかのゴミを減らさなければと身が引き締まった年末でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ