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『鎌倉殿の13人』44話 週またぎの悲劇!白い犬の意味するものは?実朝が謝っても公暁の恨みは消えず

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』44話。実朝(柿澤勇人)は、自分の兄であり、公暁(寛一郎)の父でもある頼家の死の真相を知る。だが、複数の謀略がはりめぐらされた拝賀式を止めることはできない……。惨劇を明日放送の45話に持ち越した「審判の日」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

運命の日

 前回のラストは、いまにも惨劇が起こるかのような雰囲気だったが、今回の冒頭ではいきなり白い犬が現れ、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 その犬は、義時(小栗旬)の夢に出てきたものらしい。彼はその夢が妙に引っかかり、鎌倉に大倉薬師堂を建てた。もっとも、彼に言わせると、薬師堂を建てる計画は以前からあり、夢を見たあとで、早く進めるよう促したにすぎないようだが。そもそも政子(小池栄子)や実衣(宮澤エマ)からも言われていたように、いままでたいして信心深くもなかった義時が薬師堂を建てるなんて、何か心境の変化でもあったのだろうか。

 思えば、晩年の頼朝も、自分が死ぬ夢を毎晩見てはうなされ、まじないなどにすがりついていた。義時は今回描かれた建保7年(1219)の時点で57歳(数え年)と、すでに頼朝が死んだ年齢(53歳)を超えている。人生にもそろそろ先が見え、これまでの己の所業を振り返れば、頼朝と同様、いやそれ以上に罪深さを感じていたはずである。ここへ来て嫡男の泰時(坂口健太郎)に「おまえなら私が目指していてなれなかったものになれる」と言い出したり、あるいは今回、薬師堂に祀る十二神将像の造立を依頼した仏師・運慶(相島一之)に、昔「悪い顔になった」と言われたのを思い出し、いまはどうかと訊ねていたのも、そんな心情の表れだろう。

 運慶は上記の義時の問いに対し、苦笑しながら「あんまり(顔が)ひどいときは言わないようにしている。気の毒が先に立ってな」と返していた。しかし、義時はそう言われてもなお、悪い顔になる道を選ぶ。じつはこのとき、彼はある決意を抱き、弟の時房(瀬戸康史)と二人だけになると「ここからは修羅の道だ。つきあってくれるな?」と告げたのだった。

 というわけで今回は、建保7年(1219)1月27日の一日が描かれた。鎌倉殿の実朝(柿澤勇人)にとっては運命の日となるその日だが、当人も義時もまさかそんなことになろうとは朝の時点でも想像だにしなかった。知っているのは、実朝と北条に恨みを抱く公暁(寛一郎)とその後ろ盾となる義村(山本耕史)ら三浦の一党だけであった。

『吾妻鏡』によれば、義時が犬の夢を見て薬師堂の建立を思い立ったのは、前年の7月8日、左大将となった実朝の直衣始が鶴岡八幡宮で執り行われたその晩のことであった。それから5カ月後の12月2日には、薬師堂に運慶(同書では「雲慶」と表記)が造り奉った薬師如来像(十二神将像ではない)が安置され、供養が行われる。ちょうど同日には実朝が右大臣に任じられ、12月20日の政所始を皮切りに、年をまたいで一連の儀式が続く。1月27日の八幡宮への拝賀(任官・叙位を受けた者が朝廷や神仏などに礼を申し述べること)はその締めくくりであり、京からも公卿や殿上人が参列することになっていた。

 異変にいち早く気づいたのは泰時だった。拝賀式の準備にぎりぎりまで追われるなか、公暁のもとへ世話役が蓑を運び込んだと、平盛綱(きづき)から知らされる。たしかに今夜は雪が降りそうだったとはいえ、公暁は参籠の最中で外に出られないはずなのに、なぜ蓑が必要なのか? さらにいえば公暁の世話役の駒若丸(のちの三浦光村/込江大牙)は、義村の息子であった。

 この知らせに胸騒ぎを覚えた泰時は、すぐさま義時に伝え、「きょうの拝賀式はとりやめたほうがいいかもしれません」と進言した。義時もさすがに気になって、公暁の乳母夫である義村に問いただしたところ、若君に謀反の意志はないと断言される。ただ、このとき義村が無意識のうちに襟をただすのを義時は見逃さなかった。言葉と思いが違うとき義村は必ずそうすると、長いつきあいである義時は知っていた。

 公暁と三浦が組んで実朝を襲う企てありと判断した義時は、実朝に直接、拝賀式の中止を訴え、それが無理ならせめて警固の数を増やすよう進言する。しかし、実朝にはよもや公暁が自分を恨んでいるとは信じられなかった。側近の源仲章(生田斗真)も、式については自分にすべて任されていると、義時が口を挟むのを強く拒んだ。

 このとき、義時と仲章の対立はいよいよ決定的なものとなっていた。義時はこれより前、妻ののえ(菊地凛子)に仲章が接近を図っていることに遅まきながら気づき、彼女を叱責していた。もっとも、義時が懸念したのは妻の不貞などではなく、自分を追い落とすため、仲章がのえから秘密を聞き出したかどうかだった。

 義時が隠し通そうとした秘密とは、北条が先の鎌倉殿である源頼家(公暁の父)を追放したあげく殺害し、実朝をその後継に担ぎ上げたという事実である。それは言わば北条や実朝にとってパンドラの箱であり、その中身を知られたら最後、血の雨が降ることは避けられない。すでに公暁は前回、義村から強引にそのことを聞き出して知ってしまい、父の無念を晴らすべく実朝を討つ準備を進めていた。仲章も薄々この事実に感づき、これを材料に義時を追い落とそうと企む。驚くべきことに、北条に担ぎ上げられた当人である実朝はこの事実を知らなかった。おかげで話はさらにこじれることになる。

パンドラの箱を開けた実朝

 その実朝は、公暁の件は一旦措き、義時に話があると切り出すと、いずれ自分は京へ行き、将軍御所も移すつもりだと打ち明けた。義時からすれば寝耳に水であり、頼朝のつくった鎌倉を捨てるなど言語道断であった。無力感に陥った彼は、このあと大江広元(栗原英雄)を相手に「思えば、私が望んだ鎌倉は頼朝様が亡くなられたときに終わったのだ」と弱音を吐く。だが、それを聞いた広元は、義時が頼朝から鎌倉を託された以上放り出すことはできないと、「あなたの前に立ちはだかる者は皆、同じ道をたどる」「臆することはございません」と諭したうえ、「仲章には死んでもらいましょう」とささやいた。

 頼朝の代から鎌倉のため尽くしてきた広元の言葉とあって、義時も覚悟を決める。先述した義時が時房に対し「修羅の道」と言っていたのは、まさに仲章に死んでもらうことであった。すでに仲章のもとには刺客のトウ(山本千尋)を差し向けていた。そればかりではない。義時はこのまま公暁に計画を遂行させ、実朝を見殺しにするつもりであった。彼としてみれば、鎌倉を捨てようとする実朝に、もはや鎌倉殿を続けさせるわけにはいかなかったのである。

 これと前後して泰時は、実朝を救うべく、できるかぎりの策をとろうと奔走していた。義村には、前年の直衣始でのトラブルを表向きの理由として、きょうの儀式への三浦勢の参加をとりやめるよう告げた。そこで義村は計画が感づかれたと察し、きょうのところは断念し、公暁にもそう伝えるよう弟の胤義(岸田タツヤ)に命じる。それでも公暁は、仲間のわずかな僧兵だけでも今夜決行するつもりであった。それを見かねた母のつつじ(北香那)から説得され、一瞬心が揺れ動くも、ついに計画を翻すことはなかった。

 一方、泰時は、義時が心変わりしたとはつゆ知らず、警固の兵を増やすよう改めて求めるも、その必要はないと退けられる。そこで最後の手段として、実朝に直接、自己防衛のための鎧と短刀を渡すのだが、やはり拒まれてしまった。実朝にはなぜ公暁が自分を襲おうとしているのか、この期におよんでもその理由がわからなかったのである。しかし、三善康信(小林隆)から、とうとう兄・頼家の死の真相を聞き出し、公暁が自分のせいで苦しんできたことを知ってしまう。

 パンドラの箱を開けた実朝は、母の政子を問い詰め、次の鎌倉殿に親王を迎えると後鳥羽上皇と約束してしまったことを激しく後悔する。自責の念に駆られた彼は、さらに公暁を八幡宮の別当房(八幡宮を統括する別当職の住まい)に訪ねると、手をついて謝った。このとき実朝は、公暁と手を結んで北条を退けようとまで口にする。だが、公暁はそれにうなずきながらも、結局、実朝を信じることはできなかった。

 義時は拝賀式の直前、政子と会うと、「私たちは自分のしてきたことを背負って生きるしかないのです」と改めて告げる。政子はこれに「私たち? 決めてきたのはあなたでしょう」と突っぱねるが、義時はなおも続ける。

「正しいと思った道を選んでここまでやってきた。そうではないのですか」「いまさら誰に何を言われようとひるんではなりません」「私たちは正しかった。いつだって」

 政子を相手に語ってはいるが、義時は迷いを断ち切るべく自分に言い聞かせるため口にしたのだろう。彼はそのまま八幡宮に赴き、式に太刀持ちとして参列する。時房にはすでに、公暁が実朝を斬ったら、その場で自分が公暁を討ち取ると伝えていた。そこへ驚くべき事態が起こる。トウに始末させたはずの仲章が何事もなかったように目の前に現れたのだ。仲章は義時と顔を合わせると、自分を狙った雑色を捕えたと告げ、必ず真実を吐かせてみせるとほくそ笑みながら、右手を義時に差し出す。鎌倉時代には握手の習慣などなかっただろうし、果たしてその手にはどんな意味が……?

 実朝は実朝で、八幡宮へ向かう前に、妻の千世(加藤小夏)に「私は上皇様に二つ感謝しなければいけない。このような過分な官位をくださったことと、おまえを引き合わせてくれたことを」と伝えていた。まるで別れを告げるかのような物言いだ。そのころ、参列を自粛させられた義村は、弟の胤義から我らも八幡宮に向かいましょうと言われるも、それを制止する。公暁が本懐を遂げるまでは動いてはいけないというのだ。

まさかの週またぎ

 もはや、公暁の恨みは大きなうねりとなり、誰にも止められない状態となっていた。というより、誰もが(命を狙われた当人である実朝も含め)このあとに起こることを知りながら、止めようとしなかったというほうが正しいだろう。

 いや、ひとりだけ、止めようとする者がいた。泰時である。八幡宮で警固にあたっていた彼は、偵察から戻った盛綱に、公暁はすでに別当房にはいないと知らされたうえ、そこに残されていたという図面を見せられる。今夜の計画のため描かれたと思しきその図面には、実朝とともに義時も狙われていることが示されていた。どうやら公暁は、本宮での拝賀を終えた実朝が義時を付き従えて石段を降りてきたところを襲撃しようとしているらしい。実際、彼は実朝が本宮に入ったときから、石段脇の大銀杏の木陰で待機していた。泰時は頼家の殺害時に続き、またしても人の運命を左右する局面に立たされたことになる。しかも今回は父までも狙われている。果たしてどう動くのか。

 拝賀式が行われるなか、粉雪は戌の刻(夜7~9時)をすぎたあたりから牡丹雪となったとのナレーションが入り、いよいよあの場面が……! と思っていたら、今回はここまで。まさかの週またぎとなった。そういえば、頼朝が死んだときも、落馬したところでおしまいかと思ったら、臨終シーンは次の回まで持ち越されたことを思い出した。

 今回の冒頭に出てきた大倉薬師堂(現在の覚園寺の前身)は、北条氏が鎌倉に建立した最初の寺院であり、その建立をもって北条氏は本拠地を伊豆から鎌倉に移したことを示したという点で重要な意味をもった。その場所に大倉郷が選ばれたのは、かつて頼朝が居を構え、幕府が置かれ、頼朝の墳墓堂である法華堂が建つ地域だったからで、そこに寺院を建てることは北条氏が幕府の主導権を握ったという宣言でもあった(塩澤寛樹『大仏師運慶』講談社選書メチエ)。

 先述のとおり『吾妻鏡』には、薬師堂は、義時の夢のなかに十二神将のうち戌の神が出てきたのを受けて建立したものと記されている。ドラマではさほど信心深くはなかったとされていた義時だが、『吾妻鏡』では、壮年の初めから薬師十二神将への祈願を続けてきたとある。十二神将とは薬師如来に属し、行者(仏道を修業する人)を守護する神々で、それぞれ十二支と結びつけられている。戌神はそのひとつというわけだ。ただし、『吾妻鏡』では、運慶が大倉薬師寺のため造立したと記されているのは薬師如来像だけで、十二神将像は出てこない。

 それ以上に気になるのは、義時が夢のなかで戌神から聞いたとされるお告げである。そのお告げとは「今年の神拝(実朝の左大将就任にあたっての拝賀)では何事もなかったが、来年の拝賀にはお供をしないように」というものであったが、『鎌倉殿』では触れられていなかった。ドラマのなかの義時は拝賀式に出席するので、あえてカットしたとも考えられるものの、公暁に狙われた義時が命拾いすることを思えば、次回また戌神が絡んでくるような気もする。

『鎌倉殿』の脚本をすでに書き終えた三谷幸喜は、昨日(11月25日)から作・演出を担当する舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』の東京公演が始まったところである。同作は、主人公の舞台監督(今回、鈴木京香が演じる)が、とある芝居の上演中、次々とトラブルに見舞われながらも、けっして幕を途中で下ろすまいと、舞台裏に集まった人たちと手を携えてピンチを乗り越えていくという喜劇だ。片や『鎌倉殿』では、もはや惨劇の幕は開けたとばかり、登場人物たちはそれぞれの思惑から何もしないまま、やり過ごそうとしている。『ショウ・マスト~』とはえらい違いである。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

 

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