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『鎌倉殿の13人』36話 畠山重忠(中川大志)と義時(小栗旬)のタイマン勝負!そして「オンベレブンビンバ」の謎

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』36話。追い詰められた畠山重忠(中川大志)の非業の最期が描かれ、北条義時(小栗旬)と政子(小池栄子)姉弟による政治が幕を開ける。「武士の鑑」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

「誰も手を出してはならぬ」

 畠山重忠が北条時政(坂東彌十郎)と対立の末、ついに討たれてしまった。かつて頼朝挙兵時に敵どうしとなりながら、その後は恩讐を越えて名コンビを組んできた和田義盛(横田栄司)との関係も今回で終わりを迎えた。

 自らの思いに反して時政の側についた義盛は、重忠との決戦を前に直接別れを告げに赴く。できることなら最後は腕相撲で決着をつけようと思っていた義盛だが、それを見透かした重忠に「腕相撲は、しない」ときっぱりと断られてしまうのが可笑しかった。義盛はさらに、いまの重忠は怒って視野が狭くなっていると見て、皆が正面から攻め寄せる隙に、自分は脇腹から攻めるという作戦に出るが、重忠にはこれまた最初から見破られており、逆に不意討ちされるはめとなる。そういったやりとりがいちいち2人のこれまでの関係を思い起こさせ、胸にグッとくるものがあった。

 それにしても、前週の予告で、今回久々に合戦シーンがあるとは知っていたが、まさか畠山重忠(中川大志)が義時(小栗旬)とタイマン勝負を行うとは、まったく斜め上を行く展開であった。

 初めこそ互いに馬に乗りながら刀を交えていた義時と重忠だが、義時の刀の先が折れたあと、両者ともかぶとを脱ぎ捨てると、真正面から激突する。このとき、義時がいきなり重忠に飛びかかるや馬から引きずり下ろした。それを見て、義時方の軍勢が押し寄せ、重忠を取り囲むも、三浦義村(山本耕史)が「誰も手を出してはならぬ」と止めた。義時も義村も、最後は大将どうし2人きりで決着をつけることで、わずかな兵で立ち向かってきた重忠に花を持たせようとしたのだろう。

 しかし、重忠はやはり強かった。義時はほぼ殴られる一方で、ついにはその場に倒されてしまう。どうにか地面に這いつくばって、そばに落ちていた刀を取ろうとするも、重忠に奪い取られる。それでも重忠が一瞬油断した隙を突き、足蹴にして引き倒したかと思うと、そのまま組み伏せて、取り戻した刀を喉元に突きつけた。しかし、すぐにひっくり返され、逆に組み伏せられる。

 重忠は義時の顔をしたたかに殴りつけ、ついにはとどめを刺すべく、再び奪った刀を振り下ろした。だが、刃先は義時からわずかにそれて地面に突き刺さる。結局、重忠は義時を殺せないまま、ふらふらになりながら馬に乗り、そのまま引き揚げていった。その後、重忠は愛甲季隆に矢で射止められ、その首は鎌倉に届けられた――。

戦って死ぬ覚悟を決めた

 ここで「つづく」となれば、今回は悲しくも爽やかな物語として終わっただろう。だが、そうはならず、後半はひたすらにドロドロとした義時の時政に対する謀略劇が描かれた。いや、振り返ってみると、じつは重忠との戦いもまた義時の策略の一部であったようにも思えてくる。

 そもそも畠山氏追討は、義時のあずかり知らぬところで時政が義村や和田義盛(横田栄司)、また亡き娘の夫である稲毛重成(村上誠基)を呼んで決めたものだ。話がまとまったあとで、義村は、弟・胤義(岸田タツヤ)から義時には伝えなくていいのかと訊かれるが、「板挟みになって苦しい思いをするだけだ」と言って取り合わない。

 やがて義時は弟の時房(瀬戸康史)から、時政が畠山追討を命じたと知らされ激怒する。とはいえ、すでに鎌倉殿の実朝(柿澤勇人)が下文に花押を書して(内容は知らなかったとはいえ)ゴーサインを出した以上、いまさら取り下げては実朝の威信に傷がつく。そこで義時は、畠山はけっして殺しはしないと実朝に誓った。

 だが、そのそばから重忠の息子・重保(杉田雷麟)が、謀反人を討つため出兵するようにと重成から伝言を受け、由比ガ浜に来たところを殺されてしまう。当初の計画では、重保は、所領に戻っていた重忠をおびき出すため、人質に取られるはずだった。だが、重保が策略に気づき刀を抜いたため、義村たちに殺されてしまったのだ。時政はこれを聞いて怒るが、もはや後の祭り。

 その間にも重忠は、妻で時政の娘であるちえ(福田愛依)に別れを告げると、わずかな手勢を従え鎌倉に向かっていた。しかし、鎌倉に入る手前、二俣川の向こう岸で一旦とどまる。おそらくそこで重保が殺されたと知り、いまいちど所領に引き返して兵を調えるかどうか思案したのだろう。もし重忠が所領に戻るのなら戦に応じるつもりだろうし、そのまま鎌倉に進めばその意志はないことになる。そう考えた義時はしばらく様子を見るよう訴えた。義村たちもそれに同調するが、その場に居合わせた時政の妻・りく(宮沢りえ)が、いますぐ兵を出すよう口を挟む。りくは平賀朝雅に吹き込まれ、すっかり息子・政範を殺したのは畠山だと思い込んでいたのだ。たまりかねた時房が諫めるが、まったく聞き入れられない。

 そこへ重忠が動き出したと、泰時(坂口健太郎)が知らせに来る。何と、二俣川を渡って鶴ヶ峰に陣を敷いたというのだ。それは重忠が戦って死ぬ覚悟を決めたことを意味した。そう察した義時たちが嘆息すると、りくが「だったら(重忠の)望みをかなえてあげましょう」と言い募る。これにはいつもは彼女に甘い時政も思わず、「それ以上、口を挟むな!」「腹をくくった兵がどれだけ強いか、おまえは知らんのだ」と怒鳴りつけ、だまらせた(とはいえ、あとで2人きりになると、彼女に謝っていたのが時政らしい)。

姉弟による政治へ

 出陣にあたり義時は自ら大将を買って出た。その真意は何だったのか? 重忠に対し時政の思うようにはさせないと約束しながら、結果的にそれを破ってしまったことへの罪滅ぼしのつもりだったのか。それとも、このあとの時政に対する謀略への布石であったのか。そのどちらでもあったように筆者には思える。

 タイマンでは決着がつかなかったとはいえ、結局、重忠は首をとられた。ここでいよいよ義時の時政への反撃が開始される。彼いわく、重忠は逃げることも、所領に戻って兵を調えることもしなかった。なぜか? それは彼には逃げる理由も、戦う理由もなかったからだ。「次郎(重忠)がしたのは、ただ、己の誇りを守ることのみ」。義時はそう言って涙ながらに首桶を時政に突きつけ、この先も執権を続けるつもりなら自らその首を見るべきだと迫った。

 御家人たちのあいだでも、重忠に謀反の意志がなかったのはもはや自明の事実であり、それにもかかわらず追討を命じた時政に対し反発が強まる。大江広元(栗原英雄)は、重忠を惜しむ者たちの怒りを時政からそらすべく、誰かほかの者に罪を押しつけてはどうかと、義時に提案した。

 そこでスケープゴートに選ばれたのが稲毛重成だった。義時の申し出に時政は渋るが、執権殿をお守りするためにそうするのだと説得され、「しょうがねえ……死んでもらうか」と承諾してしまう。当の重成としては、畠山重保を呼び出したのは時政に命じられてそうしたにすぎなかったが、畠山氏に代わって自身が武蔵国の惣検校職に就こうと企んでそうしたのだとの濡れ衣を着せられる。捕縛された重成は当然ながら無実を訴え、時政を呼んでくれと懇願するが、それもむなしく、そのまま三浦義村に処刑される。このとき時政が現れないので、「時政は重成を見殺しにした」と見なされ、御家人たちの反発は収まるどころかますます燃え盛った。それこそが義時の本当の狙いであった。

 義時はさらに政子(小池栄子)に働きかけ、畠山追討に対する御家人への恩賞は時政に代わって尼御台の政子が行うように仕組む。ここへ来てようやく時政は義時にはめられたと気づくが、ときすでに遅し。義時は、時政に御家人たちからの訴状を突きつけると、これをなかったことにする代わりに、しばらく謹慎するよう告げた。それを聞いて時政は高笑いして「やりおったな」と言うと、すぐに真顔に戻り「見事じゃ」と口にしてその場を立ち去る。

 元久2年(1205)7月8日、政子の計らいにより勲功のあった御家人たちによって恩賞が与えられた。こうして実質的に、政子が執権の代わりを担い、義時がそれを支えるという姉弟による政治が幕を開ける。もちろん、時政とりくがそれを黙って認めるわけがない。父子の対決のゆくえはいかに。次回のサブタイトルは「オンベレブンビンバ」……って、何だそれは!? 政子の亡き娘・大姫が、かつて時政に元気を出してもらうためのまじないとして唱えていた「おんたらくそわか」にも何となく似ているが。正解を楽しみに待ちたい。

時系列を並べ替えた?

 畠山重忠が討ち死にするまでの経緯は、『吾妻鏡』の記述でもおおむね、今回ドラマで描かれたとおりである。元久2年(1205)6月22日条によれば、重忠は、鶴ヶ峰の陣で家臣より重保の死を知らされ、一旦所領に戻るよう促されるが、「それでは命を惜しむようであり、またあらかじめ謀反を企てていたように思われてしまう」と言って、そのまま戦にのぞんだという。

 ただ、前回からのドラマにおける物語の進行にはやや違和感も覚えた。改めて確認すると、時政とりくの息子・政範が京都滞在中に亡くなったのと、彼に同行していた畠山重保が平賀朝雅と言い争いになったのは元久元年(1204)11月。劇中ではこの翌月、京から鎌倉に戻った朝雅が、りくに政範を殺したのは重保だと吹き込む。これを受けてりくは時政に畠山を討つようけしかけ、時政も義時や時房の反対を受けながらも、実朝からこっそり畠山追討の下文に花押をもらう。しかし、畠山追討が敢行されたのは年をまたいで元久2年6月である(劇中でもその季節に合わせて蝉が鳴いていた)。となると、下文は半年以上もそのままにされていたことになるが、それはちょっと不自然ではないか。

 こうなったのはおそらく、りくが朝雅からの讒言を受け、畠山を討つよう時政に申し出た時期を変更したからだろう。『吾妻鏡』では、りく(ここでの呼称は牧の方)が畠山父子の誅殺を時政に申し出たのは元久2年6月21日で、その翌日には実行にいたる。ただ、これをそのままドラマにするとあまりにも展開が速すぎて、かえってウソっぽくなると判断して、作者の三谷幸喜はあえて時系列を並べ替えたのではないか。

 もちろん、史実のりく=牧の方にも、息子の政範が死んで以来、ずっと思うところがあっただろう。ちょうど時政と重忠のあいだには武蔵国をめぐる覇権争いが起こっていた。そのことが彼女のなかで政範の死と結びつけられ、しだいに畠山氏に対し恨みが募り、それがついには時政への進言となったのだろう。ある研究者は、《牧方は、自らの妄想から時政を暴走させてしまった》と見立てている(永井晋『鎌倉幕府の転換点――『吾妻鏡』を読みなおす』吉川弘文館)。

 さて、ドラマが始まって9ヵ月経って、義時が自らの意志で動くケースががぜん増え、ようやく主人公らしくなってきた。今回、重忠との戦いと、時政への謀略が一気にまとめて描かれたのは、冷酷ながらも筋を通そうとする彼を印象づけるためであったように思われる。政子も、前回、大江広元が彼女に好意を寄せているかのような素振りを見せたかと思えば、今回は、足立遠元(大野泰広)から相談を受けたりと、周囲から慕われる存在となってきて頼もしい。

 そういえば、北条家ではもうひとつ別の問題が持ち上がっていた。のえ(菊地凛子)の本性である。今回、それを知る泰時が意を決し、義時に教えようとするが、タイミングを誤って言いそびれてしまった。そのあとで泰時はのえと廊下ですれ違い、彼女が何やらえずいているのを目撃する。これはもしや!?……こちらの行方も気になるところである。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある

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