兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第157回 リハパン、穿いたことありますか?】
若年性認知症の兄の排泄トラブルに頭を悩ますライターのツガエマナミコさんが、久しぶりに兄との生活から離れて、同世代の友達と会ったときのお話です。楽しい時間を過ごしたマナミコさんでしたが、意外な気づきもあったというのです。
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アラ還の女子トーク
高校時代の友人たちに久々にお目にかかりました。最後にあったのはコロナ前なので、3年ぶりの再会でございます。
この年齢の女子会は、それぞれが重めの困難を抱え、ああでもないこうでもないと愚痴っては、近況を笑い飛ばしながらあっという間に時間が過ぎていくのが世の習わしでございましょう。
みんな自分の話を聞いてほしくてたまらないので、次から次へとおしゃべりが弾む弾む。まぁ、4人も寄れば、かしましいやら、やかましいやら…。わたくしなど口を挟めるスキがないので、「そうねそうね」「わかるわかる」「やっぱりそうなの?」という合いの手3点セットで聞き役に徹し、いつか「それで?マナミコはどうなのよ」と話をふっていただくのを待つのでございます。
子育ては一段落しても(ツガエは出産経験ナシですが)根深い嫁姑問題があり、ご近所問題があり、病気があり、老後の心配がある。還暦とはそんなお年頃でございます。
先日、ふとしたことから紙おむつのお話になり、最近病気で療養中の友人が「看護師さんに寝たまましていいですよって言われるけど、できないんだよね。特に大きい方。出したいんだけどどうしても出せないの」と言うのを聞いて、「そりゃそうだ」と深く唸りました。そうして出せない日々を過ごすと、便秘がどんどん粘膜にこびりつき、自力でも薬でも出せない状態になってしまう。その滞りがほかの臓器に及ぼす影響は大きいのです。
考えてみれば、トイレで御用を足すことは、物心つく前から厳しいトレーニングを積み、やっと習得し、60年間守ってきた基本中の基本ルールではないですか。その体の芯までしみ込んだ習性をかなぐり捨てて、ベッドの上&パンツの中にどうぞというのはあまりにも酷なお話でございます。自然に漏れてしまう状態の場合は別として、簡単にできそうにないことは想像がつきました。
そんなとき、看護師をしている友人がこう言ったのです。
「そうだよね、普通は出せないよ。でも私は、お墓参りするときはいつもリハパン(パンツタイプの紙おむつ・リハビリパンツの略)しているよ」と。
「お墓参り?なんで?」と驚愕するわたくしに「お墓とトイレがすごく遠いのよ。掃除している途中でいきたくなったら面倒じゃん」と涼しい顔で言われました。しかも「キャンプのときもそうしてる。トイレが遠いし、やっとトイレに着いたら人がいっぱい並んでたりするでしょ。オシッコなら3回ぐらい大丈夫。帰りの車の中でリハパンだけ抜き取ればいいしさ」と追いエピソード。「なにか問題でも?」と言わんばかりのドヤ顔ナースに、「さすがだ」とお口が開いたままになってしまったツガエでございました。
学んだのは「リハビリパンツは若く元気なときでも使って便利」ということと「なにごとも慣れが必要」ということ。
どうしても高齢者をイメージしてしまいますが、看護師の友人が言うように、リハビリパンツは若くても活用法があるのです。考えてみれば災害時、トイレが使えないときにも使えるアイテム。日ごろからそれに慣れ親しんでおくことも一理あるなと思いました。
たまにパンツを濡らしてしまう兄にも、そろそろリハビリパンツに慣れてもらうべき時期だろうかと考えてしまいました。ただ、価格が安くないので、ちょろっと漏れぐらいで今から使い始めるのはもったいないなどとケチなことを思って、一歩が踏み出せないツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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