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暮らし

山口県の若い酒蔵が造る”太陽の恵みで醸す美しい酒”が話題 女性杜氏の酒造りに密着

「日本酒って強い、苦い、渋い」そんなマイナスイメージを持つ人もいるかもしれないが、近年は「低アルコール」「果実のような香り」「発泡」など、これまでの印象を覆す日本酒が続々と誕生している。山口県で2020年にスタートしたばかりの「長州酒造」で蔵を束ねるのは、40代の女性杜氏。その酒造りに密着した。

山口県・長州酒造

 山口県下関市菊川町は豊かな水源を擁し、主産業は稲作と素麺製造。「長州酒造」は2020年にこの地で酒造りをスタートさせたばかりの若い酒蔵だ。廃業危機にあった老舗酒造会社の事業を継承し、新たな蔵を建てた。主要銘柄は「太陽の恵みで醸す美しい酒」という意味の『天美』。蔵を束ねる杜氏の藤岡美樹さん(46)に話を聞いた。

「菊川町は、日本海と瀬戸内海に面する下関市中心街より平均気温が5℃ほど低く、冷え込みの厳しい地域。名水である六万坊山の湧き水を求める人で賑わっており、酒造りに適した場所です」(藤岡さん・以下同)

 しかし、かつての酒造会社が使用していた井戸は長く放置されていたため、半年以上水を汲み上げ続け、清らかさを取り戻した。その澄んだ水で醸した酒はなめらかでやわらかく、甘みと酸味のバランスのよい味わいだ。

 酒造りは子育てのような感覚だと藤岡さんは言う。

「とはいえ、赤ちゃんは不満や不安があれば泣いて伝えてくるけれど、同じ“生き物”であっても酵母や麹菌の状態は作り手が把握し、日々調整しなくてはいけません。ひとつひとつの工程を丁寧に確実にこなす必要があるのです」

“日本酒”の概念を覆すみずみずしくも力強い味

 蔵のモットーは“微差は大差”。小さなトラブルに目をつむると微細なズレが生じ、それが積み重なれば50日かけて造る間に味や香りが大きく変わってしまう。

「お客様は癒しや喜びを求めてお酒を選んでくれます。その期待に応えられるよう試行錯誤を繰り返し手間を惜しまず、下関の地酒を育てていきたいです」

 そんな思いを込めた天美は、いわゆる“日本酒”の概念を覆すようなみずみずしくも力強い味が特徴的だ。

「炭酸を少し残しているため、開栓時はガス感があり、フレッシュでジューシーな味わいです。開栓3日目以降はガスが抜け、甘みや旨みが増してきます。飲みきるまでに多彩な表情を見せてくれるので好みの味わいをみつけてもらえるとうれしいです」

 最近では蔵同士の技術交流が盛んになり、業界全体が日本酒の魅力を伝えたいという気概にあふれているという。

「アルコール度数が高い、味に馴染まない、匂いが苦手といった昔ながらの負のイメージを持つかたも少なくありません。そんな苦手意識のあるかたにこそ、現在の多様性のある高品質な日本酒を手に取ってもらいたい」
 
 日本酒はここ20年で醸造技術が発達してきた。“令和の日本酒”に目を向けて、自分に合う酒をぜひ見つけて欲しい。

長州酒造の酒造り

【1】酒蔵の朝は早く、作業は朝6時からスタート。朝礼では杜氏が作業工程を全員と共有する。

【2】洗米後の米を10kgごとに仕込み水に浸漬(吸水)させる。その米を皿にすくい、水を吸っていない透明な中心部分で吸水具合をチェック。同時にストップウォッチで計測して秒単位の微調整を行い、理想の吸水率へと導く。浸漬時間は精米歩合や品種、気温、水温などにより変わる。この日は120kgの米の浸漬を行ったが、通常は200~300kgを処理する。

【3】酒米は「炊く」のではなく「蒸す」。甑(こしき)と呼ばれる蒸し器で蒸すのだが、外側は硬く、内側は軟らかい「外硬内軟」という状態に蒸すのが理想。

【4】米、麹、酒母(しゅぼ)、仕込み水をタンクに入れて発酵させた液体を醪(もろみ)と呼び、櫂棒(かいぼう)と呼ばれる2mほどの棒でかき混ぜる=櫂入(かいい)れを行う。酒母とは醪の発酵を促す酵母を大量に培養した液体で、酒造りに重要な役割りを果たす。

【5】醪を入れた仕込みタンクの櫂入れ。タンクの容量は3300L。蔵の立ち上げ当初は6基だったが、昨年夏に10基に増設した。

【6】蒸し上がった米はスコップで甑から掘り出す。

【7】醪のアルコール度や日本酒度(甘さや辛さの目安)、酸度、アミノ酸度などを機械で日々分析。

教えてくれた人

長州酒造 杜氏 藤岡美樹さん

三重県松阪市出身。東京農業大学を卒業後、香川や三重の酒蔵で経験を積み、長州酒造では蔵の設計にも携わる。

■長州酒造

住所:住山口県下関市菊川町古賀72
公式サイト:choshusake.com

撮影/田中智久 アドバイザー/梅谷曻 取材・文/藤岡加奈子

※女性セブン2022年3月3日号
https://josei7.com/

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