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兄がボケました~若年性認知症の家族のとの暮らし【第136回 兄妹けんかをしたことがない】

 ライターのツガエマナミコさんが兄と一緒に暮らすことになったきっかけは、そもそも両親との同居でした。家族4人で暮らしていましたが、父、そして母が他界し、今日の2人暮らしになったのです。母が亡くなった頃に、若年認知症を発症した兄を妹のマナミコさんが支えて6年が経ちます。今回は、そんな2人の仲について、幼い頃からの日々を振り返ります。

「明るく、時にシュールに」、認知症を考えます。

“けんかするほど仲がいい”の逆

 朝、兄をデイケアに送ってマンションまで帰ってくると、入り口で修繕工事の警備員さまがニコニコ顔で「毎日お見送りされて、仲がいいんですね~」と声を掛けてくださいました。そんなラブラブなもんじゃないわいと思いながら苦笑いで「毎日じゃないですけど…」と答えたその日の夕方、デイケアに兄をお迎えに行くと、唐突にスタッフの方から「兄妹げんかしないんですか?仲いいんですね」と言われました。この日、デイケアでは兄にどんなことで兄妹げんかするかを訊いたようです。「そんなのしませんよ。けんかなんかする人いるんですか?」と答えたそうです。

 兄が認知症で憶えていないからではございません。わたくしの記憶の底を掘り返しても兄とのけんかシーンは出てきません。遠慮がちな兄妹で感情が内にこもるタイプと申しましょうか。良くも悪くも若干よそよそしいのです。

「仲がいいというか、お互い干渉しないので」とその日二度目の苦笑いを炸裂させました。けんかはいたしませんが「仲がいい」わけでは決してない。“けんかするほど仲がいい”ということわざを真逆の意味で実感しているツガエでございます。

 コロナウイルスなんてすぐに終わると思っておりましたのに、かれこれ2年の自粛生活を強いられております。

 外出をしなくなって、お化粧もしなくなって、締まりのない体になって、何を着ても似合わないむっちりオバチャンと化してしまいました。若い頃は薄型ペチャパイ族でしたのに、今となっては正面も側面もほぼ同格のドラム缶族の構成員でございます。靴下を履くたびにお腹のお肉がつっかえるようになり、いよいよ「どげんかせんといかん」とにわか宮崎弁でお腹をさすってしまいます。

 でも、ふと思ったのです。「60歳間近ならこんなものか」と。スタイルのいい“美”魔女族は他人さまにお任せして、わたくしはオバチャンらしいオバチャンになれたことを喜んで引き受けようと。これは食べることに困らずにここまでこれた幸せの証なのだと! そう思ってテレビを観ていると、最近はふくよかな若手女性芸人さんの多いこと多いこと。しかもその方々に卑屈な影は一切なく、たたずまいも自然で堂々としていらっしゃる。もちろん周囲からバカにされることもない。いい時代になりました。

 わたくしは、ふくよか・むっちり体形グループの新人として、先輩方が本当に誇らしい。今後も痩せる努力をすることなく「どげんもこげんもせんでええわい」と丸いお腹をさすりたいと思います。

 我が兄上はどうかというと、何もしないでテレビばかり観ている割には人並みの体形を維持しております。仕事に行っていた頃よりは多少だらしないお腹になってきましたが、肥満というほどではございません。ビールなどのアルコール類を一切飲まないので、一般的なオッサン体形にはならないのでしょうか。

 認知症というと、今ごはんを食べたばかりなのに「まだ食べてない!」と言い張るシーンがよく描かれます。我が兄はそういうことも一切なく、ありがたいと思っております。ただ先日ちょっとその片鱗が垣間見えた瞬間がございました。

 わたくしが夕飯どきにリモート取材をしなくてはならず、「これからお仕事だから先に食べててね」と言って兄の食事を並べて部屋にこもりました。1時間半ぐらいして部屋から出てくると兄はすっかり食べ終わっており、食器を洗って(水で流しただけの兄流洗浄)テレビを観ていたので、わたくしは遅めの夕食を用意して食べ始めました。すると兄がキッチンの方をチラチラ見ては、わたくしの食事に熱い視線を送ってきたのです。今にも「僕のは?」と言いたげだったので、言われる前に「お兄ちゃんはもう食べ終わってたよ。ほらお茶碗も洗ってくれて、ありがとうね」とひとこと言うと「ああ、そうか」と納得したようでした。少し不満そうでもありましたが……。

 やはり食べたことは忘れてしまうのでしょう。こういう積み重ねが間違った記憶になって被害妄想になるのかもしれません。兄の前で“わたくしだけ食べる”という状況を作ってはいけないと学習いたしました。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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この記事へのみんなのコメント

  • 匿名くん

    弱いストレスが長期間かかると太るときいたことがあります。まさに私もツガエさんと同じです。家族の介護の入口は逆に急な不安が押し寄せて激ヤセしましたが、良くも悪くも慣れてしまうとイライラして常に何か食べねばやっとれん状態になり音を立てて増量しました。どげんかせんといかん(笑)と思い、スナック菓子は食わん、甘いもんは週1、をやったら少しハラが引っ込みました。逆に今までどんだけ食ってたんや、という話です。また少し成長(増量)しつつあるので、物価高を理由に節約も兼ねて間食をやめなきゃ、と思っています。 世界情勢に目を向けると、こういうことを言えるのもとても幸せなことなんだと思うきょうこのごろです。

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