多剤併用の弊害が大きい薬の種類と減薬を医師がアドバイス「正しい検査と生活習慣の改善を」
頭痛薬や抗認知症薬、抗不安薬、睡眠薬など、症状が改善して気持ちが安定する薬は手放せないものと思っていませんか。他の薬剤などと併用することで、別の症状を引き起こしたり、大きな病の発見を阻害するなどの弊害もあるという。あなたが飲んでいる薬は「本当に必要なものなのか」を、改めて考えて欲しい。
高齢者の命を左右する向精神薬
「ベンゾジアゼピン系抗不安剤」「SSRI」「三環系抗うつ薬」。これらは日本老年医学会が「高齢者への投与を慎重にすべき」とした“要注意リスト”に挙がった薬剤だ。これらうつや不眠などを緩和する向精神薬は、多剤併用の弊害が特に大きい。
在宅医療のスペシャリストで減薬に詳しい、たかせクリニック院長の髙瀬義昌さんは話す。
「こうしたガイドラインがあるにもかかわらず、不適切に処方されてしまうケースは少なくなく、1か月ほど前もベンゾジアゼピン系の抗不安薬を3種類も処方されている70代の患者がいました。副作用による震えがひどく、食事もろくに摂れない状態でした。放置すれば命にかかわるレベルです。
減薬すると徐々に症状は改善し、食事もできるようになりました。私のクリニックに転院してくる患者には、精神科の薬を複数のんで具合が悪くなっている人がいます」(髙瀬さん・以下同)
背景にあるのは、高齢者の不眠問題だ。
「入居施設や病院で夜中に何度もナースコールを押したり、自宅から救急車を呼んでしまったりすることで周囲から苦情がきて、抗うつ薬や睡眠薬を処方される事例が散見されます。
認知症の場合は睡眠不足によってせん妄が起きやすく、うつになることもあるため、必ずしも薬を処方することが間違いではありませんが、ベンゾジアゼピン系のような抗不安剤、三環系の抗うつ薬は、副作用が強く、高齢者には推奨できない。
処方されていたら減薬を検討する対象にすべきでしょう。そもそも眠れないのには生活習慣に問題があったり、何らかの不安をかかえていたりと背景に理由があることが多い。話を聞いて眠れない原因を探り、対処していくことこそ重要です」
■<90代女性の場合>私はこうして減薬した!
※識者への取材をもとに編集部で作成。
<減薬前>抗認知症薬である「アリセプト」や「デパス」をはじめとする抗不安薬、睡眠薬など計11種類を服用。
<取り組み>医師の指導のもと、抗不安薬を減らし、6種類に。
脳を活性化させる抗認知症薬と興奮を抑える抗不安薬は正反対の働きをするため、相性が悪い。脳の混乱から起きるせん妄などの症状が緩和された。
頭痛は予防薬を使うのが正解
コロナ禍でパソコンやスマホの使用が増えたことにより、頭痛に悩む人が増えている。
実際に第一三共ヘルスケアが行った調査によれば、頭痛の頻度が「月に1回以上」と答えた人は10年前と比べて16%増加しており、解決策として「鎮痛剤をのむ」と答えた人も10%以上増えた。
しかし、東京医科歯科大学臨床教授で、あきはばら駅クリニック院長の大和田潔さんは薬によって病気の発見が遅れる可能性があると指摘する。
「頭痛には、脳や神経など別の部分に原因がある場合も多く、下手に薬をのんで痛みを抑えていると、病気が悪化してしまう。最近増えている事例ですが、頭痛だと思っていたら脳動脈解離を起こしていて、脳卒中を発症する可能性がある人もいました」(大和田さん・以下同)
大和田さんが提案するのは生活を整え、検査や診断を受けたのちに「薬」を使うことだ。
「検査の結果をもとに、しかるべき処置をすることが望ましい。もしただの片頭痛であれば、予防薬を処方してもらう方法もある。あらかじめのんでおくことで頭痛が起こらなくなります。頭痛のたびに痛み止めをのんでいると、薬に依存しやすくなってしまう。質のいい睡眠を取るなど、生活習慣を整えることが基本です。薬以上に頭痛を大きく改善させます」
巣ごもり生活によって影響を受けたのは「骨」も同様だ。運動量や日光によって生成される、骨の健康を維持していくために欠かせないビタミンDの摂取量が減ったことにより、骨粗しょう症リスクは大幅に上がっている。
「骨粗しょう症は服薬による治療が一般的であり、複数の薬が開発されています。しかし、たとえ薬によって骨密度の数値が高まったとしても、実際の骨の強度はそれよりも低いことが多い。そのうえ、『ビスホスホネート』と呼ばれる薬剤は5年以上投与すると大腿骨の非定型骨折リスクが上昇することが明らかになっており、本末転倒です。
そもそも骨粗しょう症の人は栄養不足に陥っているケースがほとんどで、根本的な原因はたんぱく質やビタミン不足にあることが多い。生活習慣を整えると、薬が不要になり症状が改善することもあります」(内科医・水野雅登さん)
※女性セブン2022年1月20・27日号
https://josei7.com/
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