双子の赤ちゃんパンダがすくすく育った”粉ミルク” どんな味?栄養は?人用の粉ミルクと比べてみた試飲レポート
双子の赤ちゃんパンダ、シャオシャオとレイレイ。2頭の成長を支えた“パンダミルク”なるものがあるらしい。栄養豊富な粉ミルクは、赤ちゃんだけでなく、高齢者の栄養サポートにも役立つものだ。そこで、気になるパンダミルクについて開発元を直撃! パンダミルクとはどんな味なのか――。記者が実際に飲んでみた様子をレポートする。
双子パンダが飲んでいる粉ミルクって?
昨年6月23日に誕生した双子のパンダ、雄のシャオシャオ(暁暁)と、雌のレイレイ(蕾蕾)。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、現在、動物園は休園しているが、双子がすくすくと成長している姿が3日間だけ公開されて話題となった。
双子パンダは、母・シンシンの母乳で育っているが、実は、生後3か月ごろからパンダ専用の粉ミルクも飲んでいるという。
シャオシャオとレイレイが実際に飲んいる粉ミルクを手がけているのは、私たちの生活にも身近な森永乳業グループの企業。森永のミルク? なんだかおいしそうだけど、人間のミルクとは違うものなの?
いったいどんな味がするのか、実際に飲んでみた様子をレポートする。
パンダミルクの販売元に直撃!
パンダミルクは、1988年に世界で初めてジャイアントパンダ用の粉ミルクとして登場。森永乳業グループ傘下でペット用のミルクを開発・販売する森乳サンワールドが、上野動物園と共同で開発したものだ。
現在は、上野動物園のほか、和歌山のアドベンチャーワールドのパンダもこのミルクを飲んで育っているという。ちなみに、動物園向けの商品で、一般向けに販売はされておらず、パンダ専用だが人間も飲むことができる。
同社広報によると、当時の開発担当者は、すでに定年退職しているということで、森乳サンワールドで生産部長を務める田中智弘さんに話を伺った。
パンダミルクを開発した経緯
「パンダは人工授精した場合、双子が生まれる可能性が高くなります。しかし、パンダは2頭生まれると1頭しか育てないという習性があるため、人工乳が必要になるといわれています」(森乳サンワールド・生産部長の田中智弘さん、以下同)
「開発当時、絶命危惧種であったパンダを守るために乳業メーカーで培った技術やノウハウが、パンダの成長の役に立つと考え、パンダミルクの研究が始まりました」
パンダミルクの成分ってどんなもの?
パンダミルクの特徴は、人の母乳と比べてたんぱく質や脂質が多く、炭水化物が少ないこと。パンダの母乳に合わせて乳糖も少なくしているそうだ。
2010年に改良され、人間の母乳にも含まれるたんぱく質であるラクトフェリンや、アミノ酸の一種であるタウリンも強化しているという。
「パンダミルクを開発した当時は、パンダの母乳に関する有効なデータがなかったそうなんです。そのため、弊社の開発担当者と上野動物園の間では、パンダの近縁であるクマに近いのではないかということで開発が進められたようです」
双子パンダをはじめ動物園にいるパンダは、正式にはジャイアントパンダといい、上野動物園のジャイアントパンダ情報サイトによると、食肉目クマ科に分類される。
「クマは冬眠中に出産することもあり、冬眠中に水分を摂らないので母乳中の水分量も少なく、授乳しながら赤ちゃんの尿を飲むことで水分を得たりすることもあります。
一方、パンダは冬眠をせず、笹のような水分の多いものを摂取するので、母乳中の乳脂肪分などは少ない可能性もあるのではないか? このように、様々な可能性を考えて成分を決めていったそうです」
パンダ以外のミルクもある!
同社は、パンダ以外にも、クマやゾウのミルクも販売しており、過去にはアザラシやオットセイといった海獣用のミルクも扱っていた。それらの知見をふまえ、パンダ用も開発された経緯がある。ゾウのミルクも気になるところだが…。
「ゾウの母乳には、グルコサミンが多く含まれることを分析で発見し、エレファントミルクに配合しています。
また、海獣ミルクは、脂肪分が多いことが特徴です。これは冷たい海水に体温を奪われない様、脂肪を蓄えるためではないかと推察されます」
このように動物の種類によって母乳の成分や味はかなり違うようだ。
動物も人間も、すべての生き物の成長をサポートする栄養たっぷりのミルク。実は、高齢者の栄養補給にも適しているため、最近は、大人のための粉ミルクも注目されている。そこで、色々と飲み比べてみることにした。
パンダミルクの味や形状を比べてみた!
飲み比べしたのは、『パンダミルク-10』のほか、人間の赤ちゃん用の粉ミルク、大人向けに販売されている粉ミルクの3種類。
粉の形状や作ってみたときの溶けやすさや、色、味わいを比べてみた。
人間の赤ちゃん粉ミルク(0か月~1歳用)
・成分は?
初乳に多いたんぱく質であるラクトフェリン、お腹のビフィズス菌を増やすためのオリゴ糖なども配合されている。また、緑黄色野菜などに含まれるルテインやDHAなども配合され、母乳の比率に近いことが特徴。
・作ってみた
13gの粉に対してできあがり量が100mlになるようにお湯を混ぜるだけ。数回かき混ぜるとさっっと溶け、真っ白いミルクが完成した。
・味は?
さらっとした飲み心地。ほんのり甘く、“母の味”でおなじみの昔ながらのキャンディーをごく薄くしたような味わいだ。
大人向けの粉ミルク
・成分は?
高たんぱく、高カルシウムで、ラクトフェリンも豊富。鉄分なども含まれ、高齢者が不足しがちな栄養が補える。母乳にも多く含まれるラクトフェリンは、たんぱく質の一種で、健康の維持に大切な成分として注目されている。
・作ってみた
スティック(1本20g)に対して、100mlのお湯や水でかき混ぜると、すっと溶けた。赤ちゃん用ミルクよりもやや黄身がかっているが、白に近い。
・味は?
バニラエッセンスや焼き立てのクッキーのような甘い香りがふわり。さらさらしていて飲みやすく、バニラアイスやミルクセーキに似た味だった。紅茶やヨーグルトなどに混ぜてもおいしいかも。
パンダミルク
・成分は?
缶の表示を見ると、粗たん白質の次に多いのが粗脂肪となっている。また、原材料名には、乳製品、植物性脂肪、ビタミン類、ミネラル類、タウリン、DHA、ラクフェリンとあり、100g中の代謝エネルギーは561kcal。
・作ってみた
25gの粉に対して75gのお湯を注ぐ。人間の粉ミルクと比べると水分の量が少ないせいか、溶かすのが難しい。一気にお湯を入れてかき混ぜたら、だまになってしまったので、もう一度トライした。
少しずつお湯を入れて慎重によく混ぜてみると、どろっとしたミルクができあがった。ほかの2に比べて、色も黄色に近い白。表面には、固形の油分がぷつぷつと見える。
・味は?
とろっとしたミルクを口に入れてみると…。
「可愛くてもふもふしたパンダが飲むミルク。ほんのり甘いのかなぁ?」と、期待に胸を膨らませて飲んでみたら、想像していたミルクの味とはまったく違うことに衝撃!
「乳糖が少ない」というだけあって、甘さがほとんどなく、ほんのり苦みを感じるのだ。
人間の粉ミルクのような甘い風味が一切なく、じゃがいもをなめらかにマッシュしたような、ポタージュのような感じ。ややしょっぱいスープと思えば、飲めないこともない。濃厚で栄養はたっぷりなんだろうな…。
撮影だからとグビグビ飲むように促されたが、愛くるしい赤ちゃんパンダの姿を思い浮かべてみても、「旨い!もう一杯!」とはいかない微妙な後味だった。
レイレイ、シャオシャオは、きっとおいしく飲んでいるんだよね。同じ味を知るものとして、双子パンダの姉のような気持ちで今後も成長を見守っていきたい。
取材・文/氏家裕子 撮影/五十嵐美弥(本誌)
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