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「汗がくさい…」「人より汗かき?」”汗”にまつわる疑問を医師が解説 保険適用の治療も

 汗の悩みはデリケートかつ十人十色。「人より汗が多くない?」「汗くさくない?」「私は多汗症?」など、人には聞けない疑問を、汗治療のエキスパートに聞きました。

1.人間が暑い夏に行動できるのは汗のおかげ

 哺乳類の体には、エクリン汗腺とアポクリン汗腺という2種類の汗腺(汗の分泌器官)がある。人間以外の動物は汗腺の体温調節機能が充分に発達していないため、暑い日には長時間活動することさえ難しい。

 一方、人間は進化して大きくなった脳を冷却するために、体温調節を司るエクリン汗腺を発達させてきた。

「エクリン汗腺は脳の視床下部から送られる発汗指令を受けて汗を出し、その汗が蒸発することで人は体温を下げています。気温差に順応するために、汗をかくことは必要不可欠です」(藤本智子さん・以下同)。

 また、アポクリン汗腺はわきなど限られた部位にある。数や大きさは性別や人種によって差があり、フェロモンを出す器官の名残りといわれる。ワキガなどの原因になることも。

 体の部位や人によって汗の量が違うのは活発な汗腺の割合が異なるから

「エクリン汗腺の数に個人差はほとんどありません。すべての汗腺が常に活動しているわけではなく、働いている数は人それぞれ。活発なエクリン汗腺の割合が多い人ほど、たくさんの汗をかきます」。

 また、エクリン汗腺はほぼ全身に存在するが、部位によって密度が異なる。そのため、特に密度が高い手のひらや足の裏、頭や額、わきは汗の量が多くなる。

2.汗は原因によって3つのタイプに分けられる

・味覚性発汗

 辛いものを食べるとかく汗は「味覚性発汗」と呼ばれる。人によっては酸っぱいものや硬いものを食べて発汗することも。味覚神経が発汗に関わる自律神経に誤連絡して起こる。

・精神性発汗

 緊張やストレスを感じたときにかく汗。もともとは獲物を狙ったり襲われたりした際にかき、滑り止めの働きをしたといわれている。主に手のひらや足の裏から一時的に発汗する。

・温熱性発汗

 気温が高いときや運動をしたときに体温を調節するためにかく汗は、「温熱性発汗」と呼ばれる。体温がある程度下がるまで、全身から持続的に発汗するのが特徴。

3.汗の成分はほとんどが水

 汗の成分の約99%は水分。また、汗は血液から作られるため、ごく少量の塩分や鉄分、乳酸なども含まれる。

「汗の中には、微量ですが抗菌作用のあるタンパク質や保湿成分も含まれていて、“天然のバリア”として皮膚表面の雑菌の増殖を抑えてくれています」。

4.サラサラ汗とベタベタ汗の違いは成分濃度

 汗とともに塩分や栄養分も排出される。その際、体に必要な成分まで排出されてしまうのを防ぐため、汗が出ていく直前に成分を血液に再吸収する働きが起こる。

「成分の大部分が再吸収された汗はサラサラですが、汗の量が多すぎて再吸収が間に合わないと、塩分濃度の濃い汗が出ます。これがベタベタした汗の正体です」

5.汗くささの原因は汗自体ではない

 体温調節のために出た汗は無臭だが、皮脂やアカ、皮膚常在菌と混ざり合って細菌(におい菌)が増殖することでにおいが発生する。足の裏が特ににおうのは、靴の中で皮膚が蒸れ、におい菌の繁殖が促進されるため。

「にんにくを食べると汗がにんにくくさくなる、というのも本当です。汗のもとである血液に食べたものの成分が含まれるため、食べもののにおいも汗に影響します」

6.汗をすぐに止めたいときは、濡れタオルで拭くのが効果的

「水で濡らしたタオルで拭くと皮膚の表面温度が下がるうえ、乾いたタオルで拭くより皮脂や雑菌をからめとる力が強いので、においも防止できます。

 におい菌は時間が経つほど繁殖するので、すぐに拭くことが大切です」。

 その後、うちわなどで風を当てれば、気化冷却効果で体温が下がり、より早く汗が止まる。

7.汗が出ない人は要注意だがかきすぎも危険

 運動不足やクーラーの使いすぎで汗をかく機能が低下すると、体温調節がうまくできずに体に熱がこもり、熱中症につながる恐れが。一方、過度のサウナなどで汗をかきすぎるのもよくない。

「汗腺が弱ってしまい、充分に機能しなくなることも。自然に蒸発する程度に、うっすらと汗をかくくらいが、“よい汗のかき方”です」

8.年齢によって汗をかく部位や量が変わる

「思春期になると汗腺が発育して特にわきや頭・額の汗が増え、高齢になると汗腺が衰えて汗の全体量が減る傾向があります。また、女性は産後や更年期に女性ホルモンが減少し、特に上半身の汗が増える人が多くいます」

9.多汗症かどうかを決めるのは自分自身

『多汗症』に明確な基準はなく、判断するのは自分だという。

「スマートフォンの指紋認証が汗で反応しなかったり、常時汗が滴(したた)って何もできないなど日常生活に支障がある場合は、保険適用で治療できる可能性があります」。

10.汗の悩みは皮膚科の受診で解消する場合も

「日本人の約10%が多汗に悩んでいるともいわれています。最近は皮膚科でのさまざまな治療法がありますから、“汗くらいで”と考えず、悩んだら受診を」。

教えてくれた人

池袋西口ふくろう 皮膚科クリニック 院長 藤本智子さん

撮影/菅井淳子 イラスト/森マサコ、川野郁代

※女性セブン2021年8月19・26日
https://josei7.com/

●熱中症予防に心がけたい6つの生活習慣 入浴で『暑熱順化』を【医師監修】

●【汗】その上手なかきかたとにおい、あせもなどの対策法

●体臭でわかる危険な病気|「大便臭」はがん、「炊きたてのご飯」は自律神経失調症の赤信号

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