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延命治療を拒否し尊厳死を望んだ母の看取りから学んだ「苦痛のない死はない」

 脳の難病を患った母の最期を看取ったエッセイストの鳥居りんこさん。「延命治療は悲惨。尊厳死ならつらくない…」と延命治療を拒否した。しかし、その過程にはいくつもの葛藤があった…。実体験をもとに、本人と家族が納得のいく「死に方」を考えてみたい。

尊厳死を望んだ母の看取り|鳥居りんこさん

 終活とは、「どのような最期を迎えたいのか」を考えることでもある。しかし、延命治療はしないで穏やかに死ぬことを本人が望み、その意向をエンディングノートに記したことで家族が大変な事態に直面することもある。

 一般に尊厳死とは、人生の最終段階において過剰な延命治療を行わず、自然なかたちで死を迎えることを指す。

 超高齢化が進んだ昨今は、尊厳死にまつわる情報も氾濫し、「尊厳死はいいもの」「延命治療は悪いもの」という極端な認識を持つ人も増えてきた。

「ただし、延命治療をしなければ楽に死ねるというわけではありません」

 そう語るのは、エッセイストで教育・介護アドバイザーの鳥居りんこさん(59才)だ。

 鳥居さんは父親を肺がんで亡くした後、脳の難病を患った母親を介護した。母親は「延命治療をしない」という意思表示をしていた。

「母は入院した際にベッドに縛りつけられた経験があり、病院で延命措置のため体に管をつけられた患者もたくさん見ていました。

 そのため、『私は管をつけてほしくない。延命治療はいらない。このまま老人ホームで息を引き取りたい』と望み、日本尊厳死協会の発行する『リビング・ウイル(延命治療を拒否する事前指示書)』を登録していました」(鳥居さん・以下同)

 しかし’17年に母親の容体が急変すると、鳥居さんは厳しい現実を突きつけられた。

 老人ホームの訪問医からこう告げられたのだ。

「『お母さんの命はあと10日ほどです。延命治療をしますか?』と言われました。

 母とは何度も延命治療の話をしていましたが、いざ医師から『ホームにいたら10日で亡くなるけど、入院したら延命できる』と説明されると、心に迷いが生じました。

 入院したら奇跡が起きて元気になるのではという希望や、延命治療を拒否したら私が母の命を絶つことになるのではという自責の念にとらわれたんです。それでも、『延命治療は悲惨。尊厳死ならつらくないはずだ』という気持ちが強く、最終的に延命治療を拒否しました」

 しかし、人は宣告通りの期間で、なだらかに亡くなるとは限らない。鳥居さんは、母親の苦しそうな姿を想定外の長期間、見守り続けることとなる。

苦しむ母の口をふさぎたい衝動に駆られた

「苦しそうに呼吸をして、声が聞き取れないほど小さくなりながら、母は10日過ぎても亡くなりませんでした。医師の通告から2週間すると誤嚥性肺炎を防ぐために水分が与えられないようになり、母は水を欲しがって苦しそうに口をパクパクさせました。

 いつ“その時”がくるのかわからなかったため、私はずっと母のそばについていたのですが、その姿は見ていられなかった。いっそ、この手で母の鼻と口を覆ったら楽になるのでは、と思い詰めるほどでした」

 過酷な現実を目の当たりにして冷静さを失いそうになる一方、母親の足が冷たくなったらマッサージを繰り返し、足に血の気が戻ると安堵のため息をついた。

「殺したいのか生かしたいのかわからなかった」という不安定な状態のなか、余命宣告から1か月後に母親は息を引き取った。

母の死から学んだこと 延命治療の現実

「母の死から学んだのは、“苦痛のない死はない”ということです。延命治療をしないことで、苦痛のない死を迎えられるとは限りません。

 また、実際に死を迎える場面になると、本人は意思表示ができませんから、キーパーソンである子供が決断するしかない。

 延命治療について、私は充分、母と話し合っていたつもりでしたが、最後の最後まで突き詰められていなかった。

 人はどういうふうに死んでいくのかレクチャーを受け、『こうなった場合は、こうしてほしい』など具体的な話を家族で共有しておかないと、最終的に家族が救急車を呼んでしまうこともあり得ます。

 初めて親の死を迎える人は、親が元気に会話できるうちに死生観を細かく話し合っておいた方がいい」

 尊厳死も、延命治療も甘いものではないことを鳥居さんは思い知ったと話す。

尊厳死と延命治療は表裏一体

 看護師の藤澤一馬さんも、「尊厳死と延命治療は表裏一体」と語る。

「尊厳死とは、ただ単に延命治療を拒否することではありません。本当に大切なのは、本人が望む死を迎えるために、どのような治療を行うかです。

 延命治療と一口にいっても、胃に穴をあけて栄養分を注入する『胃ろう』や、のどを切開しての『人工呼吸』など、さまざまなレベルがあります。

 だからこそ、『尊厳死は穏やかで、延命治療は苦しい』というイメージで語るのではなく、本人がどのような最期を迎えたいのかを事前に話し合い、そのためにどのようなケアが必要なのかを具体化しておく必要があります。

 そうした準備がないと、いざというときに決断することが怖くなり、遠い親類や家族ではない第三者に判断を委ねて後悔することもある。第三者の意見に流されないためにも、どうすべきかを本人と家族で共有しておくことが重要です」

 本人と家族にとって理想的な死を迎えることは、とても難しいことだ。単純なイメージで延命治療の有無を決めるのではなく、時間をかけて向き合っておこう。

教えてくれた人

エッセイスト・教育・介護アドバイザー/鳥居りんこさん、看護師・在宅介護を支援する未来設計サポートMedit代表/藤澤一馬さん

※女性セブン2021年7月15日

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