急増中の“サ高住” 入居者が明かすメリット・デメリット「ゆるいつながりがいい」
サービス付き高齢者向け住宅、通称「サ高住」は、基本的に60才以上の自立した高齢者が入居できるバリアフリー対応の賃貸住宅で、近年急増中だ。その暮らしぶりとは?
「サ高住」とは?年々登録件数が増加中
サービス付き高齢者向け住宅(以下・サ高住)とは、「高齢者住まい法」の改正(2011年)により創設されたバリアフリー住宅のこと。
有料老人ホームと違い、介護サービスは基本ないが、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスなどが提供されていることで、高齢者が安心して暮らせる。登録件数は、2020年4月末で7890件となり、前年同月より286件増加(※)。年々その数を増やしている。
そんなサ高住の1つ、都内にある「ゆいま~る中沢」に賃貸契約で住む女性入居者の桑原節子さん、八代須己子さん、川島喜代子さん、山﨑悌子さんに話を聞いた。
(※)一般社団法人高齢者住宅協会が2020年5月13日に公開した、都道府県に登録されている「登録情報」の最新動向より。
4人のシニアが語るサ高住の暮らしのメリット
●プライベートが確立されている
桑原:私はこれまで、結婚をせずに母と2人で暮らしてきました。57才のときに母が他界してからはひとり暮らし。その不安から、体力も気力もあるうちに、高齢者住宅に住み替えようと決め、69才でこちらに入居しました。サ高住には当初、老人ホームのような団体生活のイメージがありましたが、予想以上にプライベートが確立されていました。隣の部屋同士や気の合う仲間と、好きなときだけゆるやかにつながれるんです。
サ高住は、有料老人ホームと違い、生活の自由度が高い。入居条件は施設によって異なるが、基本、自立していて介護を必要としない60才以上の“元気な高齢者”を対象としている。
とはいえ、もし必要になれば、外部の介護サービスなども受けられ、「ゆいま~る中沢」の場合は、建物内やその付近に医療機関や有料老人ホーム、有料ショートステイがある。
●気持ちを寄せ合える仲間ができた
川島:私が入居したのは、78才のときでした。健康面が気がかりでしたし、庭の手入れや家のメンテナンスなどから解放されて気楽に暮らしたくて、入居を決めました。人とのつながりでいえば、入居前の方がご近所や友人との交流は多かったのですが、こちらでは、暮らし方に共感でき、気持ちを寄せ合える仲間ができました。
山﨑:私はこれまで、ご近所づきあいはほとんどありませんでした。定年退職後に急に近所のかたと親しくなるのは難しかったのですが、ここでならイベントや会合に参加することで仲間ができ、人とのつながりも広がっています。私自身も、おしゃべりを楽しめる場所を作ろうと、「カフェお茶め」を考案し、皆さんに楽しんでいただいています。
八代:コーラスなどの活動や飲み会など、入居者が主体となった活動が活発ですよね。私も71才で入居後、ボランティアとして、イベントのお手伝いをすることで入居者たちとの交流を深めていきました。
●金銭感覚が同じなことが多い
4人が暮らす「ゆいま~る中沢」の1か月の固定費は1人入居で5万9500円、2人入居で8万9500円(ともに家賃除く)。
これを支払える経済状況の人たちが入居しているため、金銭感覚が同じであることが多い。そのため、イベントに誘いやすく、コロナ禍の前はハイキングや旅行などを楽しんでいたという。
川島:コロナ禍の前までは、週1回は活動に参加していましたよね。個人のお部屋にもうかがっていましたし。いまは制限されていますが。
桑原:とはいえ、エレベーターの中や廊下などでも誰かしらと顔を合わせますから、人とまったく話さないというわけではありませんよね。
●誰かと一言でも話せることがうれしい
山﨑:ほんの一言、天気の話や体調を気遣う声がけがし合えるだけでも、うれしいですよね。もしここに入居せず、自宅にひとりで暮らしていたら、友達にも会えず、寂しくて不安だったでしょう。
八代:対面で人と話せるのは、こういったハウスならではのメリットですよね。私も、感染対策で自室から出ない日があったんですが、1日に一度も声を出さないと、声って枯れるんですね。それがわかってからは、1日一回はフロントに行ってスタッフに話しかけたり、食堂に行って皆さんと夕飯を食べ、人と話す時間を意識的につくっています。
トラブルにならない心得とは?
サ高住のメリットとして、人とのつながりができるのはよくわかった。しかしトラブルはないのだろうか。
●声をかけられるのが嫌な人もいることを忘れない
川島:入居者同士の距離感には気を使いますね。私たちのように、人とかかわりたいと考えるかたばかりではありませんから。先日も、バスの中で偶然お会いした入居者に、“こんにちは。今日はどちらへ?”と声をかけたら、迷惑そうな顔をされました。なかには、声をかけられるのが嫌な人もいるということを忘れてはいけませんよね。
●ある程度の距離を保つ節度が大切
桑原:ささやかな頼み事も相手の様子を見つつ、慎重に対応している部分は確かにありますね。
たとえば、相手の部屋に入ることは遠慮したり…。入居前は、友人宅に泊まりに行ったり、食事時間に押しかけて一緒に食事をしたこともありましたが、いまは、入居者と長く平和につきあっていこうという意識があるので、ある程度の距離を保つことが大事だと思っています。
なかには、ドアを開けっぱなしにしているかたがいて、“寂しいから開けているのかしら”と、通りがかりに声をかけたことはありますが。コミュニケーションは臨機応変さが求められますよね。
川島:仲よくなるほどに、相手の懐に深く入りたくなるから、少し寂しい関係な気もしますが、いい関係を長く続けるには、とにかく節度が大切。
●他人のうわさ話はしない
八代:ここでは他人のうわさ話もしませんよね。大人の対応ができる人が集まっている気がします。
さまざまな境遇・考えの人が同じ目的のもとに集まったサ高住。うまく暮らしていくためには、節度あるつきあい方が大切なようだ。とはいえ、人間関係が煩わしければ、部屋から出なければいいという選択肢もある。自由なのだ。
八代:安否を気遣ってくださるかたが周りにたくさんいるのは、とても安心できます。去年、旅行で4日間留守にした際、私の部屋から物音がしないということで、お隣さんが心配してフロントに私の安否確認をしてくださったことがあります。あとから聞いて、とてもうれしかったですね。
閉じこもっていても何かあれば気づいてもらえる人間関係がすぐそばにある、というのはサ高住ならではかもしれない。今後もできる限り、ここで皆と元気に過ごしていきたいと4人は声を揃えた。
サ高住で暮らすメリット&デメリット【まとめ】
サ高住に暮らす方達に、他人と暮らすメリット&デメリットを伺った。
<メリット>
●人と話したくなったら、いつでも雑談できる
●体調や安否を気にかけてくれる人がすぐ近くにいる
●エアコンのフィルター掃除など、自分ではできない作業は助け合える
●友達などからいただいた食品やお土産などを分け合える
<デメリット>
●人によって距離感が違うため、あいさつにも気を使う
取材・文/桜田容子
※女性セブン2021年7月15日