角田晃広、演技の絶妙 器の小ささカッコ悪さ、それでも憎めない『大豆田とわ子』3話
大豆田とわ子(松たか子)の3番めの夫、中村慎森(岡田将生)との出会いと別れ、そして現在が描かれた『大豆田とわ子と三人の元夫』2話。つづく先週放送の3話は2番めの夫、佐藤鹿太郎(東京03・角田晃広)回だった。ドラマもお笑いも大好きライター・釣木文恵さんが、今夜4話に備えてポイントを振り返ります。
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器が小さいと言われてしまう数々の言動
仕事仲間全員が彼を評して「器が小さい」と言う。「ミスター小皿」とまで言われている。庶民的な居酒屋で「どう? オレのお金で開いた飲み会」とか言っちゃう。
サービスで出たムール貝をひとつだけ多く食べる慎森に文句を言う、1回しか使っていない自分のビニール傘を間違えて持っていった人にぐちぐち言う、それが大豆田とわ子(松たか子)の2番めの夫、佐藤鹿太郎だ。
けれど元妻であるとわ子にはいいところを見せたくて、土砂降りなのにわざとビニール傘を置いて帰る人でもある。「『僕が貸してあげた傘のおかげで濡れなくてよかったね』とは言わないよ絶対」と言っちゃうところがまた、器の小ささを示しているけれど(エンディングで「ビニール傘もオレにとっちゃヌンチャク」とラップしてたっけ)。
とわ子に未練たっぷりの鹿太郎だけれど、撮影で出会った女優の美怜(瀧内公美)からなぜかアプローチをかけられ、とうとうキス、一晩添い寝(直立不動の体勢で)するまでに。次の恋に踏み出す決意をした鹿太郎は、自身のカメラマンとしての「最高傑作」と事務所に飾ってあったとわ子の写真を棚にしまうが、美怜が他の男とキスしているところを目撃してしまう。
設計士と社長、2つの狭間でとわ子が下す決断と苦悩
とわ子は若くて才能ある設計士・登火(神尾楓珠)の設計図を観てときめくも、それは予算が大幅にはみ出した、実現可能性の低いもの。この案を通したらとてもじゃないが会社はやっていけなくなる。予算を管理しているカレン(高橋メアリージュン)に「あの”作品”は」と食い下がるも、「作品?」と返されてしまう。
いち設計士ならばここで戦うのだろうが、いまのとわ子は社員41名を食わせていく責任がある社長だ。「商品」としては登火の設計図では無理だと、とわ子は自ら予算と発想の折り合いをつけた図面をひく。けれど登火は結局、退社することに。スター設計士を退職に追いやったとわ子は一部社員からの反感を買ってしまい、社内の雰囲気は最悪になってしまう。社内のこれに関しては社長と直接話をさせなかった先輩設計士の頼知(弓削智久)がかなり悪いような気がするけれど……。
誰もいない会社でとわ子が開いていたのは世界的な建築家、ザハ・ハディドの作品集だ。かつては彼女の発想が奇想天外すぎて予算の面から建てられないものもあったため「アンビルトの女王」と呼ばれたこともあるザハだけれど、彼女の美しい”作品”は今や世界各地でその都市のシンボルになっている。とわ子が開いたページは、なかでもザハの代表作で、美しくダイナミックな曲線が目をひくアゼルバイジャンのヘイダル・アリエフ・センター。設計士出身のとわ子が登火の提案したような、ザハのような作品を作りたいと思わないわけがない。それでも社長だから「憎まれ役」をやるしかない。救いは登火がじつはそれを理解していたことだ。
欠点が自分を守ることもある
鹿太郎ととわ子との出会いは、鹿太郎はスキャンダル専門のカメラマンとして潜入した社交ダンス教室だった。毎朝ラジオ体操をしているし、毎回いろんなスポーツをしているし、とわ子は体を動かすのがかなり好きなのかもしれない。
アシスタントに元妻とのなれそめと別れを語るなかで、鹿太郎は離婚の理由を「しゃっくりがね、止まんなくなっちゃった。オレにはそれを止めてあげることができなかった」と話す。
その前に、「しゃっくり」の意味がさらりと差し込まれている。登火の件でストレスを抱えたとわ子がしゃっくりをしているのだ。そこに鹿太郎と結婚していた頃のご近所さんたちが通りかかり、とわ子と姑の件を聞いてくる。その内容から、鹿太郎の母ととわ子とが相当折り合いが悪かったらしいことがわかる。
鹿太郎ととわ子が再会後、それについて語る様子が描かれていないのは、彼らの性格の良さを表しているようにも、その出来事が振り返ることもできないほどしんどいことだったと証明しているようにも見える。
しかし、たまたま会社について話す登火と遭遇した鹿太郎は、落ち込んでいるであろう元妻、かつては母から守りきることができなかった元妻に、最高傑作の写真のドレスと同じ赤の花束をもって会いに行く。
なにしろとわ子は、姑に翌日に捨てられても花を買って帰る人なのだ。会社で発想と予算の板挟みになりどうしようもなくなっても「切腹する代わりに花を愛でることに」するような人なのだ。そして鹿太郎はたぶんとわ子が花を好きだと知っているのだろう。
とわ子だけが残っている会社を訪れた鹿太郎は彼女に花束を渡し、とわ子をいたわる。
「きつい?」
「きつい……きつくはないけど」
と耐えるとわ子に、「我慢することないんだよ、一人で乗り越えることなんてないんだよ」「愚痴こぼしてこうよ」と言う鹿太郎。
鹿太郎の器の小ささは、大変な日々を乗り越えるひとつの手段だった。
鹿太郎がとわ子に語った言葉から伝わってくるのは、人から見たら欠点に思えるところが、自分を救う手段になり得ること。そして人からどう思われるかよりも、自分のほうがずっと大切だということだ。
角田晃広キャスティングは絶妙
みんなから「器が小さい」と笑われる彼にも、自分なりの信念があって、それが人を救うことがある。バーで登火の愚痴を聞いたときに「大豆田とわ子はそんな女じゃない」とつぶやく鹿太郎同様、とわ子も「鹿太郎はそんな男じゃない」部分を知っている貴重な存在だ。
器の小ささからとわ子についた嘘を本当にするためにファッションカメラマンになって、ちゃんと活躍している人なのだ。その器の小ささ、カッコ悪さ、それでも憎めない鹿太郎を演じるのに、角田晃広というキャスティングは絶妙すぎる。最初こそ「東京03のコントじゃん!」という瞬間があったけれど、3話に至ってはもう鹿太郎が鹿太郎にしか見えなくなっていた。
そして何より、「やってらんない」ことがたくさんある大人二人が踊るダンスの美しさ。いままでもやってらんないことがたくさんあって、その結果離婚もして、一人になってもやってらんないことはいくらでもやってきて、それでも今この瞬間だけは踊る。
1話の喪服でのブランコ。2話の慎森のかっこ悪い走り。そしてこのダンス。『大豆田とわ子』には毎回、美しいシーンが入っている。
結局、美怜は顔が似ている不倫相手の身代わりとして鹿太郎に近づいたことがわかる。
田中八作(松田龍平)はとうとう、親友・出口(岡田義徳)の彼女である早良(石橋静河)を家に入れてしまったらしい。出口が八作の家を訪れたとき、早良はとわ子と同じくキッチンの戸棚に隠れているが、女性をそこに隠すのがお決まりなのだろうか。
慎森は翼(石橋菜津美)のために翼がパワハラを受けたという飲食店を営む企業を訴える準備をするが(今作と同じく坂元裕二作品である『問題のあるレストラン』を思い出す展開だ)、どうやら翼の話は嘘らしい。翼にどういう魂胆があるのか謎だ。混沌としてきた『大豆田とわ子と三人の元夫』4話は今夜。
文/釣木文恵(つるき・ふみえ)
(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。