「つま先重心」か「かかと重心」か…セルフチェック|正しい立ち方・歩き方で不調をリセット!
靴のつま先がはがれる、かかとばかり削れる。それは、体の重心がズレている証拠。放っておくと、全身の骨にゆがみを生じさせ、内臓の働きまで悪くする。偏った立ち方、歩き方ですり減るのは靴ではなく、あなた自身かもしれない。
重心の取り方は生まれつき4タイプある
食事を減らしてもやせない、肩こりや腰痛、しびれが治らない、歩くのがつらい――単なる老化によるもののように思えるが、実はこれらの不調はすべて、「重心の取り方」に大きく関係している。
これまで30万人以上のアスリートに施術し、長きにわたり日本オリンピック委員会強化スタッフも務める施療家で、中部大学客員教授の廣戸聡一さんが言う。
「人の重心の取り方は4種類。生まれつき『つま先重心』『かかと重心』に分けられ、さらに『内側重心』『外側重心』に分かれる。自分のタイプに合った立ち方、歩き方をしていないと、体がうまく動かせず、痛みやしびれが起こったり、けがをしやすくなったり、疲れやすくなったりします」
■「つま先重心」「かかと重心」は歩く歩道で分かる
廣戸さんが提唱する理論では、まず、足の裏の「中足骨(かかとからつま先にかけて一直線になっている長い骨)」の前と後ろ、どちら側に重心がかかっているかで、つま先重心かかかと重心か判断する。
「歩いていて、前に出した足を着地させたとき、前足だけに重心が乗っている人はつま先重心。前足が着地しても上半身の重みが後ろ足に残っていれば、かかと重心だといえます」(廣戸さん・以下同)
この傾向は、空港などにある「動く歩道」に乗ったときのことを思い出すとわかりやすい。
つま先重心の人は、前足が地面につくと同時に重心が前に移動するので、動く歩道から降りるときに放り出されるような、前につんのめるような違和感を覚えやすい。
一方で、かかと重心の人は後ろ足に重心を残すので、降りるときはスムーズだが、動く歩道に乗るときに、前にグイッと引っ張られるような違和感を覚えることが多い。
廣戸さんによれば、人間の体の動きを列車にたとえると、骨が“線路”で、筋肉が“モーター”。線路である骨の重心に沿った動きをすることが、モーターである筋肉を充分に使い、自分の体にとって正しい動きをすることにつながる。
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■スマホ操作の仕方でも分かる
全身の骨と筋肉は常に連動しているため、重心のタイプによって、歩き方だけでなく手の動かし方など、全身の動きに特徴が出る。
「スマホを操作するとき、片手だけの方が操作しやすい人はたいてい、つま先重心です。
手のひらにしっかりスマホをのせて、反対の手で操作した方がやりやすい人には、かかと重心の人が多い」
日本人は遺伝的にかかと重心
重心は生まれつき決まっており、一生変わることはないと、廣戸さんは言う。
「たとえば、生まれつき左利きの人が、訓練して右手でも箸やペンを扱えるようになっても、右利きに変わったというわけではありません。それと同じように、持って生まれた重心は一生ものです」
一説では、われわれ日本人の祖先は腰を低く据えて田植えを行う農耕民族のため、日本人は遺伝的に皆、かかと重心だともいわれる。
一方、前傾姿勢で獲物を追う狩猟民族の子孫である西洋人は皆、つま先重心だというが―この説について、整体エステ「GAIA」主宰で整体師の南雅子さんが話す。
「現在は、人種によって重心タイプの偏りがあるとは考えにくい。長い進化の過程や生活様式などで少しずつ骨格が変わってきているからです」
にもかかわらず、現在の日本人には、生まれ持った重心タイプに関係なく、つま先に重心がかかりすぎる生活をしている人が多いという。
「つま先重心」は病気のリスクを上げる
「毎日ヒールの高い靴を履いていると、どうしてもつま先重心になりがちです。また、前かがみでパソコンの画面をのぞき込んだり、うつむいてスマホを操作したりする時間が長いと、重心がつま先に偏ります。
すると、体重を支えるために前ももの筋肉を酷使して、太ももが非常に太くなってしまう。さらに、股関節や骨盤、背骨がゆがみ、猫背になります。それに伴って起きる内臓下垂によって肺が圧迫され、呼吸が浅くなり、血流が低下し、内臓の働きが悪くなります」(南さん)
では、かかと重心なら問題はないのかというと、そうではない。
「以前は確かに、〝かかとから地面について、土踏まずを経てつま先で地面を蹴る歩き方がよい〟とされていました。しかしそれは、’60年代のデータです。いまでは、自分に合った重心の取り方、歩き方が体にいいことがわかっています」(廣戸さん)
特に、最近の日本人は脚の筋肉量の低下によって、無理にかかと重心で走ったり歩いたりするとひざを痛めやすいという。
「無意識にひざをかばおうとすると、約5〜6㎏もある頭蓋骨を支えきれず、歩くたびに背骨が前後左右にグラグラして、結果、骨盤までゆがみやすくなる。すると、腰の関節が神経を圧迫し、歩くのもつらくなります。内臓が下垂して腸や子宮などの疾患のリスクもある」(南さん)
「つま先」か「かかと」4つの重心をセルフチェック
大切なのは、自分の生まれ持った重心に合った“体の軸”を意識すること。「まずは己を知ることから」というわけだ。つま先・かかと重心だけでなく、内側・外側重心まで把握しておきたい。
「手の中指を動かすとき、人差し指と一緒の方が力が入りやすいなら、内側重心。
一方で、薬指を添えた方が力を入れやすければ、外側重心の傾向があります。 たとえば、持ち手の小さなティーカップなどを持つとき、親指・人差し指・中指の3本だけで持てるなら内側。薬指を添えないと持ちづらいなら外側重心だといえます」(廣戸さん)
廣戸さんの理論をもとに、自分の重心の傾向がわかるチェックリストをまとめたので、参考にしてほしい。
テスト1
★「動く歩道」に乗ったときの違和感は?
A:降りるときにつんのめるような感覚がある。
B:乗るときに引っ張られるような感覚がある。
★長ズボンをはいていすに座ったとき、洋服の崩れ方は?
A:ズボンの腰が下がる、またはシャツが見える。
B:ズボンがずり上がってくるぶしが見える。
★パソコンのキーボードを打つときの手は?
A:机に肘をつけば安定して打てる。指の先端で打つため、タイピング音が小さい。
B:手首を机についた方が打ちやすい。指の腹で打つため、タイピング音が大きい。
★スマートフォンで文字を打つときは?
A:片手の方が操作しやすい。
B:両手の方が操作しやすい。
★片足でジャンプするとき、浮いている方の足は?
A:ひざから下を後ろに曲げている。
B:ひざを前に持ち上げている。
★肩を回すときは?
A:両腕を前に伸ばしてから腕ごと肩を回すとやりやすい。
B:脇を締めて、小さく前ならえをしてから肩だけを回すとやりやすい。
A:が多かった人→つま先重心
B:が多かった人→かかと重心の可能性大!
テスト2
★小さなティーカップを持つときの指は?
a:親指、人差し指、中指の3本だけで持てる。
b:親指、人差し指、中指で持ち、取っ手の下に薬指も添えないと持ちづらい。
★もう一度、肩を回すときは?
a:前回しの方がやりやすい。
b:後ろ回しの方がやりやすい。
★親指と人差し指、または親指と薬指で「OKマーク」をつくって、輪の部分が床と平行になるようにまっすぐ前に腕を伸ばし、そのまま腕を外に開く。
a:親指と人差し指の方がやりやすい。
b:親指と薬指の方がやりやすい。
aが多かった人→内側重心
bが多かった人→外側重心の可能性大!
※テスト1(AまたはB)と、テスト2(aまたはb)の結果を組み合わせると、自分の重心の傾向がわかる。
重心4タイプ…診断結果
■Aa:【つま先】 内側重心タイプ
足の人差し指のつけ根あたりに重心がかかりやすいタイプ。
歩くときは、前足は地面を垂直に踏むような感覚で着地させ、同時に反対側の腕を振り上げると、しっかりした軸ができて疲れにくい。
【同じタイプのアスリート】イチロー(47才)やダルビッシュ有(34才)、石川遼(29才)
■Ab:【つま先】 外側重心タイプ
足の薬指のつけ根あたりに重心がかかりやすいのが特徴。
前足をひざから地面に垂直に着地させ、同時に前足と同じ側の腕を振り上げる意識で歩くのがよい。
【同じタイプのアスリート】松坂大輔(40才)や浅田真央(30才)、宮里藍(35才)、錦織圭(31才)
■Ba:【かかと】 内側重心タイプ
重心は、土踏まずの内側と足の人差し指の延長線が交差するくらいの位置にかかるタイプ。
後ろ足で地面を蹴ることで体を前に押し出して進むタイプなので、歩くときは、前足が地面に着地したタイミングで、前足と同じ側の腕を後ろに振り上げるとバランスが取りやすい。
【同じタイプのアスリート】本田圭佑(34才)、室伏広治(46才)
■Bb:【かかと】 外側重心タイプ
土踏まずの外側と薬指の延長線が交差するポイントに重心がかかる。
「かかと・内側重心」と同じく、後ろ足で地面を蹴ることで前に進むタイプだが、歩くときは前足の着地と同時に反対側の腕を後ろに振ると、体を痛めにくく疲れにくくなる。
【同じタイプのアスリート】松井秀喜(46才)、北島康介(38才)、安藤美姫(33才)
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タイプ別 正しい立ち方、歩き方
自分のタイプが分かった所で、今度は正しい立ち方や、歩き方を見ていこう
【つま先】 内側重心タイプ
重心は「つま先」「足の内側」にあり、みぞおち、ひざの内側、足首の前側を一直線につないだ円柱状の軸を体の中心につくるような意識で立つとよい。歩くときは、前に出している方の脚に体重をかけるようなイメージで、ひざから先をクロスさせるようなイメージがよい。
【つま先】 外側重心タイプ
重心は「つま先」「足の外側」にあり、みぞおち、ひざの外側、足首の後ろ側を一直線につないだ円柱状の軸を体の中心につくるような意識で立つとよい。歩くときは、左右それぞれの足を、前に向かってまっすぐ出す意識を持つのがよい。
【かかと】 内側重心タイプ
両足裏と首のつけ根、股関節の内側を一直線につないだ円柱状の軸を体の中心につくるような意識で立つとよい。歩くときは、「つま先・内側重心」タイプと同様に、前足に体重をかけて、足をクロスさせるようにする。
【かかと】 外側重心タイプ
両足裏と首の左右のつけ根、股関節の外側を一直線につないだ円柱状の軸を体の中心につくるような意識で立つとよい。「つま先・外側重心」タイプと同じく、歩くときは後ろ足に体重を残すようなイメージで、それぞれの足はまっすぐ前に踏み出すとよい。
“自分重心”を守れば心身の健康も保てる
自分にとって正しい重心を意識して行動すると、肺をはじめとする内臓が適切に働く。すると血流がよくなって体温も上がる。そして、重心が整い姿勢がよくなることで視野が広くなるため、行動にムダがなくなって活動的になれる人が多いという。
そのためには、自分のタイプに合った立ち方、歩き方を心がけるのはもちろん、どのタイプでも、重心がブレないように気をつけるのが鉄則だ。
「座っているときに足を組んだり、どちらか一方の足に体重をかけて立ったりするクセがあると、重心がブレて、骨盤にも負担がかかります。また、利き手ばかり使わないことも大切。荷物は1日ごとに左右反対の手で持つなど工夫を」(南さん)
廣戸さんは、生まれ持った重心を保ち、健康でいることは、本来なら当たり前のことだと話す。自分を見つめ直して、当たり前の健康を取り戻したい。
教えてくれた人
廣戸聡一さん/中部大学客員教授、南雅子さん/整体エステ「GAIA」主宰・整体師
※女性セブン2021年4月8日号
https://josei7.com/
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