インプラント・ブリッジ・入れ歯のメリットとデメリット|歯をなくしたときの3大治療法を医師が解説
もしも虫歯や歯周病になってしまったら、どのような治療法があるのか。そして、いよいよ歯を失ってしまった場合には、どんなカバーリング方法があるのだろうか。保険適用でできること、保険適用外の自由診療でできることなど、「きちんと噛んで食べる」ための気になるポイントを整理してみよう。
2020年から予防目的の治療も保険適用に
歯を失う主な原因は歯周病、虫歯、破折(はせつ)の3つ。
「トップの歯周病対策は、自宅での歯磨きや歯間フロスとともに、3か月に1度、予防歯科で定期健診をしてもらう、この合わせワザが効果的です」(花田さん・以下同)
疾病保険としてスタートした日本の公的医療保険は、これまで予防目的の歯科治療は適用外だった。だが2020年4月の診療報酬改定で、歯科での歯周ポケットのメンテナンスやPMTCと呼ばれる歯科衛生士によるクリーニング、フッ素塗布なども保険適用に。おかげでいまや、3割負担で受診できる。
歯周病菌を一掃する口腔内除菌法「3DS」
「歯周病は、歯周ポケットが4mmより深い中度で歯槽骨が半分近く溶け始め、7mm以上の重度で歯槽骨が半分以上溶けて歯が支えられなくなります。これを防ぐには歯周ポケットの奥深くまでクリーニングする必要があります」
ただ、歯周ポケット内でバイオフィルムを完全除去するのは難しく、歯周病菌が残留する可能性もある。そこで注目なのが、花田さんらが開発したのが写真の「3DS」だ。
「これは、オーダーメードのマウスピースの内側にジェル状薬剤を塗り、歯のクリーニング後、約1時間、歯に装着していることで歯周病菌を一掃する最新口腔内除菌法です」
現在、この方法は、鶴見大学歯学部附属病院・3DS除菌外来ほか、全国の歯科医院で導入され始めている。
抜かない&削らない最新の「MI治療」
「いまの虫歯治療は、歯を抜かずに、できるだけ削らない、MI治療が主流です。歯面に白い斑点ができる初期虫歯(C1)は、コーティング材を染み込ませる治療で充分です。C2まで進んだ虫歯の場合は、虫歯を溶かす薬剤を塗布して治療します。C3以上は根管治療が必要で、神経を取るか温存するか、常に可能性を探っていきます」(田名網さん・以下同)
下の写真は、抜歯をすることが多い根尖性歯周炎が、丹念な根管治療を行うことで治癒し、抜歯を免れた例だ。
「根管治療も、虫歯を削る際も、患部をマイクロスコープで拡大し、必要最小限の削り方で虫歯を除去します。保険適用外の薬剤やセメントを充填・密封するのが最新虫歯治療のポイントですね」
丁寧に、必要最小限の削り方をするMI治療は、保険適用外の場合も多いので事前に確認を。
虫歯の進行【C1~4】と治療法
【C1】エナメル質と呼ばれる歯の表面部分が黒ずんでいたり、穴が空き始めている状態。
痛みなどの症状はない。悪い部分だけを削って歯科用プラスチックなどを詰めて治療。
【C2】エナメル質の内側の象牙質まで進行している虫歯。
徐々に症状が表れて、冷たいものや甘いものがしみるようになる。虫歯の部分を削って詰め物で修復する。麻酔を使う場合も。
【C3】歯の奥の神経まで虫歯が進行。
熱いものがしみたり、ズキズキと激しく痛むようになる。神経を取り、充填剤を詰めてふたをする治療が一般的。最近は神経を取らない治療法も。
【C4】歯が溶けてなくなり、歯根まで虫歯が進行。
神経が死んで痛みを感じなくなることもあるが、歯根に膿がたまると痛む場合も。抜歯がほとんどだが、保存治療も進んでいる。
虫歯は初期段階で治療すれば歯へのダメージも最小限に抑えられる。定期的に歯科医院へ通って虫歯の原因となる歯石などを除去するのがおすすめだ。
歯を失ってしまったときの3大治療法
コロナ禍で歯医者控えをした人の中には、虫歯を放っておいてボロボロになってしまった、という人も少なくない。
「歯科治療には、虫歯や歯周病、事故などで歯が欠けたり、歯がなくなった部分を、人工物で補う“補綴(ほてつ)”という治療法があります。わかりやすく説明すると、詰め物やかぶせ物などをする審美セラミック治療や、入れ歯、インプラントなどの総称です。その中でも、失った歯をカバーするために、入れ歯やインプラント、ブリッジをすることが多いですね」(永田さん・以下同)
3大治療(ブリッジ、入れ歯、インプラント)それぞれの構造と特徴は、下の図を参考にしてほしい。噛む力を長持ちさせるには、しっかりとした知識を持つ専門医に相談するのがおすすめだ。歯の状況や予算に合わせて、自分に最適な方法を見つけよう。
【ブリッジ】
抜けた歯のスペースに、橋をかけるように両隣の歯を土台として、人工歯をかぶせる方法。保険適用治療と自由診療の両方が選べる。
【入れ歯】
取り外し可能な人工歯で補う方法。隣の歯に金属のフックをかけて一部分を補う部分入れ歯と、すべての歯を補う総入れ歯がある。保険適用もあり。
【インプラント】
失った歯の根元にある顎の骨に、ネジのような器具を使って人工歯を埋め込む方法。素材はプラスチックやセラミック、金合金など。自由診療。
3大治療のメリットとデメリット
【ブリッジ】違和感なく噛めるが、両サイドの歯を削る必要がある
写真の症例は、かぶせる歯が、底面の歯肉から離れている離底型のブリッジ例。奥歯の銀歯と前歯を支柱にしてブリッジをかけている。ブリッジ部分の歯の表面はプラスチックを使用し白い歯に。
「このメリットは、固定式なので義歯でも違和感なく噛めること。デメリットは、ブリッジをかけるために両サイドの歯を削らなくてはいけないこと。材料は保険適用の3割負担で2万円ほど」(永田さん・以下同)。
【入れ歯】手術の必要はないが、噛む力が弱く、違和感がある
<Before>
<After>
ビフォー写真でもわかるように、ほとんど歯のない人が、上の歯は保険適用、下の歯は自由診療で総入れ歯にした症例。
「入れ歯のメリットは手術の必要がなく、多くの義歯を一度に入れられること。デメリットは噛む力が弱いことと、違和感があることなど。料金は総入れ歯の場合、保険適用で約1万5000円。自由診療は素材によって異なりますが、35万円からが相場です」。
【インプラント】しっかりと強く噛めるが自由診療で高額に!
<Before>
<After>
Afterは、上の歯を欠損した人が、すべてきれいな歯並びのインプラントで補った例。
「インプラントのメリットは、隣の歯を削らずに単独で固定できることと、しっかりと強く噛めること。また、見た目も噛み心地も自然です。デメリットは手術が必要で、治療期間が長く、3か月から3年かかることも。自由診療で治療費が高額になり、右の例で270万円。1本なら35万円くらいから」。
入れ歯選びは「3大要素」を重視することが大切!
「補綴をする場合、方法によって噛み合わせの具合が変わるなど、注意点がいくつかあります」(永田さん・以下同)
まず、自分の歯の噛み合わせを100とした場合、ブリッジは80、インプラントは200。しかし、入れ歯は保険適用で10、自由診療で30程度。
「保険適用の入れ歯では装着時に金属フックが見えるのを気にして、最初から自由診療の入れ歯にしようとする人がいます。ただ、どんな入れ歯を作っても、自分の歯のようには噛めません。入れ歯選びでは、【1】汚れない、【2】壊れない、【3】動かない、この3要素を重視することが大切です」
また、骨再生手術を行う場合、喫煙者や糖尿病の人、骨粗しょう症の薬をのんでいる人などは骨がうまくくっつかず、インプラントにできない場合もある。顎を守るためにも、禁煙するのがよさそうだ。
教えてくれた人
花田信弘さん/鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授、
口腔衛生研究の第一人者。3DSという除菌治療法を開発。歯科大学などで客員教授や非常勤講師を務める。
田名網宏樹さん/ジャパン デンタルクリニック院長
2015年に同クリニックを開設。「抜かない、痛くない、怖くない」歯科診療を最新の医療技術で実践している。
永田浩司さん/永田歯科医院院長
日本補綴歯科学会指導医、ヨーロッパインプラント学会(EAO) 認定医、噛み合わせ認定医。
取材・文/北武司 イラスト/こさかいずみ
※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/