「90代の母親の歯科通院が大変…」気になる【歯科訪問診療】とは?診療内容や利用方法について専門医に直撃
90代に入り足腰が弱ってきた記者の母は、歯科医院への通院が負担になってきた。近所の歯科医院に付き添って行くのだが、診察台の乗り降りにもひと苦労…。母にとって歯の治療やメンテナンスは必要なのだが、いったいどうしたらいいのかリサーチしてみました!
教えてくれた人
こばやし歯科クリニック/歯科医師・渡部友莉さん
東京歯科大学卒業後、東京歯科大学歯学研究室にて摂食嚥下リハビリテーション学を修了し歯学博士の学位取得。現在、東京都江戸川区のこばやし歯科クリニックに勤務し、主に訪問歯科にて歯科治療や嚥下評価・口腔機能低下症の検査及びリハビリを行っている。https://www.k-dc.net/visits
90代の母の歯科通院や治療が大変に…
母は通院している歯医者さんをとても気に入っていて、90代になっても頑張って通っていた。しかし、最近院内での移動も大変になり、ご迷惑をおかけしてしまうので、困っていたところ、医師から「自宅で受けられる歯科の訪問診療がある」と教えてもらった。
歯科の訪問診療とはどんなものだろうか。訪問診療を多く行っている歯科医師の渡部友莉さんにお話しを伺った。
歯科訪問診療とは?
「歯科の訪問診療は、病気やケガや障がいなどにより通院が極めて困難なかたを対象としていて、治療や定期的な口腔ケアを自宅や入所施設で受けられるものです。
高齢者のかたにとって、誤嚥性肺炎の予防のためにも、口腔ケアはとても大切なものです。通うのが難しくなった場合は、訪問診療への切り替えを検討してみてください。
地域で訪問診療を行っている歯科医院の歯科医が、歯科衛生士とともに自宅や施設に必要な機器を持って伺います。伺える範囲は、医院から半径16kmの範囲内という決まりがあります」(渡部さん、以下同)
歯科訪問診療の利用方法は?介護保険も利用できる?
「検査や治療に関しては、普通の病院のように医療保険が適用となりますが、介護認定を受けているかたは、介護保険も使えます。
直接、歯科医院にお問い合わせいただいてもいいですが、介護保険利用のかたは、担当ケアマネジャーに相談していただくとスムーズでしょう」
どんな治療やケアをしてくれるの?
訪問診療では、どのようなことをしてもらえるのだろうか?
「歯科訪問診療では、定期的な口腔ケア、むし歯治療や義歯(入れ歯)の調整や新製などの歯科治療を行います。
寝たきりのかたでも、寝たまま受けていただけます。ご自身でうがいができない場合や、うがいが危ないと判断した場合は、スポンジブラシや口腔ケア用ウェットティッシュで拭き取ります。吸引器で吸いながら口腔清掃を行うこともあります」
虫歯ではなくても利用していいの?
「口腔ケアでは、歯ブラシだけを用いるのではなく、歯間ブラシやスポンジブラシ、フロスなどを使い、歯の細かい所までプロによる口腔清掃を行います。
定期的な口腔ケアは、口腔内細菌を減らし誤嚥性肺炎の発生リスクを下げるだけでなく、口腔内のマッサージも兼ねています。
そして、口腔内を刺激することで、口腔機能の低下を少しでも防ぐことも目的としています」
自宅で用意するものはある?
「治療や口腔ケアでは水を使うので家庭や施設の水道水と、治療に必要な機器を動かすための電源をお借りします。
X線から歯を治療する道具まで必要な機材を持って行きますので、歯科医院と同じように治療を受けていただけます。
行う場所は洗面所である必要はなく、普段ご利用者様がいらっしゃるお部屋などでも大丈夫ですよ」
【準備するもの】
・医療保険証、介護保険証、介護負担割合証、既往歴やお薬情報もわかればまとめておくといい。
・歯ブラシ、歯間ブラシ、スポンジブラシ、フロス、コップなど。
・タオル
・普段使っている入れ歯
・水や電源
歯科の訪問診療の利用料金は?
歯科の訪問診療料は、治療内容や訪問先、健康保険・介護保険の適用の有無や自己負担率などによって変わるので事前に確認を。また、介護保険を利用する場合は、ケアマネジャーを通す必要があるとのこと。
家族や本人が普段気をつけておくべき口腔ケアは?
「歯ブラシで歯をきれいにすること以外には、舌を舌ブラシやスポンジブラシで軽く清掃してください。ご自身の歯がない場合は、歯茎をスポンジブラシや口腔ケア用ウェットティッシュで拭き取り、マッサージしてあげてください。ご自身やご家族では限界があるため、できる範囲で大丈夫です」
訪問歯科診療を活用した実例
渡部さんの訪問診療により、口腔環境が改善された実例をお聞きした。
「ご家族による口腔ケアを拒まれていた高齢者のかたに、口臭が気になるということで訪問させていただき、診療やケアを行ったところ、すっきりされていました。
専門にしている医師が伺うことで、ご本人にも納得して、前向きになるケースは意外と多いですよ。
同時に家族のかたにも口腔ケアのやり方を指導させていただきました。以降は、ご家族によるケアもスムーズになったとのことです」
また、歯が複数本抜けてしまい、おかゆなどの流動食ばかり食べていたご高齢のかたに、訪問診療で入れ歯を作成したところ、『固形物が食べられるようになって、食事が楽しくなった』と、喜んでいただけたこともあります」
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歯科の訪問診療ではどんなことをお願いできるのか不安だったが、お話を伺い歯科医院と変わらず安心して任せられると感じた。母のために、歯科の訪問診療の最初の一歩を踏み出してみたい。
写真提供/こばやし歯科クリニック 取材・文/本上夕貴