「もの忘れ」と「認知症」、その違いと見分け方チェックリスト
「ねえ、あれ取って。あれだよ!」「この前、街であの人とバッタリ会ったのよ。え~と、あの人ったらあの人よ」――普段、物や人の名前が思い出せず、こんな会話をしていないだろうか。
年齢とともに増えてくる“もの忘れ”は、年を重ねれば誰でも経験するもの。とはいえ、「自分は周りと比べてひどいのでは? もしかして認知症なのでは?」と不安に思う人も多いだろう。「もの忘れ」と「認知症」の正体を探った。
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一見しただけでは、「もの忘れ」と「認知症」の区別はつきにくい。そこで、今回はその見分け方について解説しよう。判別のための基本的な知識として、記憶には3つの種類があることを知っておきたい。
「意味記憶」「エピソード記憶」「手続き記憶」
1つは人名や地名などの固有名詞を覚える「意味記憶」。
もう1つが、“いつ、どこで、誰と、何をした”というストーリーを覚える「エピソード記憶」。
最後が、自転車の乗り方やクルマの運転のしかた、テレビのリモコン操作といった“体で覚えているスキル”である「手続き記憶」の3種類だ。
記憶障害に詳しいお多福もの忘れクリニックの本間昭院長は、もの忘れと認知症との境界線をこう説明する。
「認知症患者には“エピソード記憶”や“手続き記憶”の低下が多く見られます。もの忘れと認知症を見分けるときには『体験自体を忘れてしまった』のか『体験の一部を忘れてしまった』のかは重要なポイントとなります」
以下、長年にわたり、脳科学の研究をしている諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授に日常生活でよくあるケースから、その見分け方を指南してもらった。
「日常生活でよく忘れやすいのが、『人の名前』など“意味記憶”に属する固有名詞です。関連情報や頭の数文字などヒントによって思い出せるようなら、もの忘れと考えていいでしょう。
一方、目の前で自分に向かって話している人が知人であるかわからないというなら、エピソード記憶の低下による認知症を疑えます。またもの忘れの度合いが同年齢の人と比べて突出して多いようなら認知症が疑われます」(篠原教授)
さらに、こんな見極め方もあると篠原教授は語る。
「旅行先で何を食べたか、どこを訪れたかを忘れるのはもの忘れですが、旅行したことをまるごと忘れるのは、“エピソード記憶”が障害されている可能性があり、認知症が疑われます」(篠原教授)
日常生活の中でも、物忘れと認知症の違いを見極めるポイントはある。
「洗剤を入れ忘れるのは、単なるど忘れですが、毎日のように使う洗濯機の操作がわからなくなったのであれば“手続き記憶”の大きな障害が疑われ、認知症の疑いが高まります」(篠原教授)
ここに挙げた以外の気になるケースを以下にまとめた。自分や親の行動がどちらに該当するのかチェックしてみてほしい。
どちらに該当する?チェックリスト
【もの忘れ】
□ドラマに出ていた俳優の名前を忘れる
□小説の主人公の名前を忘れる
□財布をしまった場所を思い出せない
□買い物に行って卵を買い忘れる
□友人との待ち合わせで、時間や場所を忘れる
□洗濯機に洗剤を入れ忘れる
□手紙に書いた内容を忘れる
□電話で聞いた内容を忘れるが、メモを見れば思い出す
□買い物に自転車で行き、置いた場所を忘れる
□夫婦で旅行した年や場所が思い出せない
【認知症】
□ドラマを見たことを忘れる
□小説を読んだことを忘れる
□財布をしまったことを忘れている
□買い物に行ったことを忘れて、卵を何度も買ってしまう
□友人と待ち合わせしていることを忘れる
□洗濯機の操作方法が思い出せない
□手紙を書いたことを忘れる
□電話で聞いた内容を忘れ、メモを見ても思い出せない
□買い物に自転車で来たことを忘れて家に帰る
□夫婦で旅行に行ったこと自体を忘れている
そのほか「同じことを何度も尋ねる」、「同じ話題を何度もする」という行動が同年齢に比べ突出していても、エピソード記憶の障害が疑われ、認知症を疑う手がかりとなる。
ここまで読んでどんどん自信がなくなってきた人へ前出の本間院長はこう話す。
「そもそも、認知症患者は忘れているという自覚を持たないことが多い。自分でもの忘れの度合いが客観視でき、それを心配できるのであれば、単なるもの忘れであることが多いので、それほど心配は要りませんよ」
イラスト/黒猫まな子
※女性セブン2018年5月31日号
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