認知症のリスクも高める!怖い「脳内糖尿病」その原因と対策
朝食は食パンにジャム。食後の眠気をこらえて家事を済ませたあとは、スーパーのパートへ。30分しかない休憩時間で、牛丼を書き込み、缶コーヒーを一気飲み。夕方、ご飯の支度をしようとして、スーパーに寄るのを忘れたことに気がつく…。
この何気ない生活は、「脳内糖尿病」の前兆かもしれない。
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11人に1人。これは現在の日本における糖尿病患者の割合だ。誰もがなりうるこの国民病の症状は、失明や腎臓病、手足の痛みなど耐え難いものばかり。さらに悪化すれば人工透析が必要となり、医療費もかさむ。
だが、病状以上につらいのが、周囲の無理解だ。それを指し示す研究結果が今年4月、英国の糖尿病学会から発表された。
自覚症状がない、健診でわからない「脳内糖尿病」
同学会の調査によれば、糖尿病患者の3分の1は、糖尿病について「職場の理解と支援が不足している」と感じており、6人に1人は糖尿病を理由に「職場で差別を受けている」と回答している。
ところが今、周囲の理解どころか自分ですら症状を自覚できない“新手の糖尿病”が登場し、注目を集めている。脳神経外科医で京浜病院院長の熊谷頼佳氏が言う。
「脳内が糖不足に陥ったり逆に糖過剰の状態になる『脳内糖尿病』です。糖まみれになった脳内では神経細胞が破壊され、その結果、脳が萎縮して機能が低下していく。自覚症状がないため見つかりづらいやっかいな病気です」
脳内糖尿病の原因は、脳とブドウ糖の関係性にある。
「ブドウ糖を養分として活動している脳にとって、糖分は必要不可欠な存在です。それゆえ、日常的に糖を摂取すれば脳はその状態に慣れてしまい、維持するため全身に“もっと糖分を!”と、指令を出し、脳内糖尿病状態を作り出してしまう。ところが脳の中身は、健康診断や診察で簡単に診ることができず、異常を把握しづらい。ただ『食後に眠くなる』『もの忘れが多くなった』など、いくつか兆候があるんです」(熊谷院長)
「脳内糖尿病」のリスクを自己チェック
3月に刊行した著書『脳が若返る40代からの食事術』(ダイヤモンド社)で、脳外科医としての臨床経験に基づいた「脳内糖尿病」の実態を克明に描いた熊谷院長によると、下のチェックリストに1つでも当てはまれば、「脳内糖尿病」のリスクがあるのだという。
□食後に眠くなる
□疲れると菓子やジュースをつい口にしてしまう
□メタボ体形である
□野菜不足である
□便秘がちだ
□血圧が高い
□物忘れが多くなった
□日中でもボーッとすることが多い
認知症のリスクを高める「脳内糖尿病」
脳内糖尿病の最も恐ろしい点は、「認知症やアルツハイマー病の誘発」にあると熊谷院長が語る。
「脳の命令による糖分の過剰摂取は、糖尿病を引き起こすばかりでなく、脳神経細胞が破壊され、認知症やアルツハイマー病のリスクも格段に跳ね上がる。実際、私が診療している患者の多くは、認知症と糖尿病を併発しています」(熊谷院長)
2014年に九州大学が行った研究でも、アルツハイマー病の脳では糖をうまく利用できない状態になっているという結果が発表されている。研究を行った同大生体防御医学研究所の中別府雄作教授が語る。
「アルツハイマー病患者の脳の遺伝子の働きを調べたところ、糖の取り込みを促すインスリンが作られなくなり海馬の機能が大幅に低下していることが判明しました。さらに、糖尿病を発症している人は、そうでない人に比べて2~3倍、アルツハイマー病になりやすいという結果も得られています」
「脳内糖尿病」が引き起こす病気は他にもある。
「脳神経が破壊され、脳が萎縮した結果、神経に由来するてんかんや、脳の萎縮が原因で起きる脳血管障害や脳梗塞、脳出血などにも罹患する可能性がある」(熊谷院長)
さまざまな病気のリスクを伴う「脳内糖尿病」。遠ざけるためにはどう対策すべきなのだろうか。熊谷院長が解説する。
「脳内糖尿病を招くいちばんの要因は、現代の糖にまみれた食生活です。これを改善することが予防への最短ルートになります」
ここからは、積極的に取り入れるべき食品やその食べ方、反対に食べると脳内糖尿病リスクを高めてしまう食品の具体例を挙げて解説していく。
1975年型和食
「最新の研究によれば、1975年頃の日本の食卓、いわゆる“一汁三菜”が糖尿病や認知症予防に非常に優れた効果を発揮する、といわれています」(熊谷院長)
豆腐や海藻、いも、根菜などさまざまな食材をバランスよく取り入れられる上に、かつおや昆布だしの旨みやみりんの甘味で糖分の摂取を少なくすることができることがその理由だ。
「だしに使用される昆布のグルタミン酸や、かつおぶしのイノシン酸などの旨み成分は、脳にいい刺激を与えるといわれています。実際、これらの旨み成分を定期的に摂取した認知症患者の脳が活性化したという例もあるほどです」(熊谷院長)
腐りやすいものを食べる
「発酵しやすいもの、つまり腐りやすいものはそれだけ新鮮であり、体の中でエネルギーに変わりやすい。新鮮な肉や魚、野菜などを積極的に食べることをおすすめします。一方で、賞味期限が長いスナック菓子や砂糖漬けなどはエネルギーに変わりづらいうえに、脳に悪影響を及ぼします」(熊谷院長)
缶コーヒーNG
「缶コーヒーをはじめとして、自動販売機で売っているお茶や水以外の飲料は、ふんだんに糖を含んだいわば“砂糖水”。たとえ口あたりがよくても、これらを飲むと急速に血糖値が上がり、脳に糖分が一気に運ばれてしまうのです。常飲すれば、脳内糖尿病になる危険があります」(熊谷院長)
缶コーヒー以外にも、大量の糖質を含んだ飲料や食品は、脳内糖尿病を引き起こすリスクを内包している。
「厚生労働省によれば1日に必要な糖質量は角砂糖65個分。食品や飲料の糖質量を把握して、必要以上に摂取しないよう気をつけてください」(熊谷院長)
早食いNG
「ざるそばやうどん、丼もののような糖質が多く含まれた炭水化物をかき込むようにして早食いしてしまうと、脳の働きがどんどん鈍くなってしまう。食べ物が消化されて血糖値が上がり、インスリンが分泌されて満腹中枢が刺激されるまで少なくとも10分はかかる。もし早食いで10分以内に食事を終えれば、満腹感を感じられず、食べすぎるばかりか、急激に糖分を摂取することで脳を刺激してしまう」(熊谷院長)
早食いを避けることは認知症予防にもつながる。
「食事には少なくとも10分以上かけてください。それにより、必然的に噛む回数が増える。よく噛んで食事をすることで、脳の中の記憶を司る海馬の働きが活性化し、認知症予防にもつながります」(熊谷院長)
オリゴ糖に置き換える
糖質を摂りたいときは、できるだけ砂糖でなはく、分解や吸収に時間がかかり、血糖値の上昇がゆるやかな多糖体に置き換えて摂取することが望ましい。
「中でも特に推奨しているのが、オリゴ糖です。甘味があるのに、脳を刺激するブドウ糖が含まれていない。その上、腸内環境も整えてくれる優れものです。料理に甘味をつけたいときや、ヨーグルトのトッピングを選ぶときなど、オリゴ糖に置き換える習慣をつけてください」(熊谷院長)
頭を使いながらウオーキングなど運動を継続的にする
食事以外で勢勝つ環境を改善することも脳内糖尿病の予防につながる。前出の中別府教授が言う。
「体にあまり負担がかからない程度の運動を日頃から積極的に取り入れてください。何よりも継続することが大切なので、ウオーキング程度の軽いものがおすすめです。
加えて推奨しているのが、頭を使いながら運動をすること。たとえば、歩きながら簡単な足し算や引き算をしたり、歌を歌ったり、脳と体を活性化させることで病気を遠ざけることができるようです」
※女性セブン2018年5月24日号
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