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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第82回 悲劇のヒロイン気取りですか?】

 若年性認知症を患う兄の症状が進み、理解しがたい行動がますます増えてきた。同居する妹のツガエマナミコさんは、今後のどうするべきかに逡巡し、気持ちのコントロールに苦慮するこの頃…。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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 * * *

「自己暗示で乗り切れるか、わたくし…」

「これが最後の朝」「今日が終われば全部終わるから」と言い聞かせながら、起きぬけに掃除機をかけるツガエでございます。

 子供だましのようですけれども、なんとかして今日1日を乗り切ろうとする苦肉の自己暗示。こういったマインドコントロールのバリエーションを豊富にすることが介護者には必要な能力かもしれません。

 幸い、わたくしにはお仕事という大義名分があるので、お部屋にこもって何時間も兄を放置しており、「我は介護者なり」と偉そうなことは言えません。もっといえば、わたくしはただ、兄と同居しているだけなのです。

 優先しているのは、わたくしの身体的・精神的安定であって、積極的に話し相手になったり、目を見て笑顔を向けたり、手や肩に触れたりといった認知症介護に良いとされることは何一つ実行しておりません。もっとも最近はコロナ感染防止のため、会話も接触も推奨されておりませんが…。

「そろそろ要介護申請か」と思ってはみるものの、要介護申請を考え始めると、なぜか仕事が忙しくなってしまい、平日に時間が取れない。そうこうして仕事が一段落してゆとりができると、「こんな程度の介護しかしていないわたくしが、果たして人さまの助けを借りていいのか」と思い、「もうちょっと先でもいいかな」となってしまうのです。日頃から「やることやってから文句言えや」と思うタイプでございますゆえ…おほほ。

 逆に言えば、お仕事がうまくいかないとイライラが発症し、介護が必要以上の負担に思えるだけなのかもしれません。普通に考えれば兄との同居そのものには大きな負担がございません。彼はずっとテレビを観ているだけなのですし、お食事を出せばお箸やスプーンを使ってパクパク食べてくれますし、徘徊するわけでも、暴言を吐くわけでもございません。パッと見は朗らかでおとなしい普通の人。むしろわたくしの悪態に文句も言わず耐えている人格者です。

 1日3回の食事と、掃除・洗濯を担当しているだけなら、世の中の奥さま方はみなさんやっているではありませんか。わたくしは何が辛いと嘆いているのでしょう?

『若年性認知症の兄との同居』を大袈裟に捉えすぎて、何も不幸ではないのに、自分は不幸だと思い込んで、悲劇のヒロインを気取っているのでしょうか?

思えば、

<兄がいるから仕事ができない?>…というわけではございません。
<兄がいるから遊びに行けない?>…ということもございません。
<兄がいるから結婚できない?>…に至ってはまったくもって関係がなく、
<兄がいるから失ったもの─>…と考えてもパッとは浮かびません。

 おかしな行動を見るたびに「やめてよ、もう」と思い、そのくせ「少しは頭使って何かしてよ」と願い、やられたらやられたで「余計なことをしないでよ」とイラつく程度の小さな不満は数えきれないほどありますけれども‥‥。

 もっとやさしくできるはず。もっと楽しく過ごせるはず。もっと機嫌よく家事をしたり、一緒に歌なんか歌ったりして、キャピキャピすればいいのにな~。他人さまのことならきっとそう思うのに、自分のこととなるとまるで別物。理想と現実の壁は意外と分厚いと実感しております。

 そうこうしていると1日が終わり、また陽が昇ってまいります。「これが最後の朝」「今日が終わればすべて終わるから」と言い聞かせる朝でございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

#介護が始まるときに知っておきたいこと

#介護保険制度の基礎知識

コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • sunsun

    私も、連載を楽しみにしつつ、心配しております。 私も認知症の義父の介護(見守り)をした経験があるので、ツガエさんのご心情がよくわかります。義父も、徘徊や暴言等もなく、優しく穏やかなぼけ方でお兄様と似ておりましたが、やはり、とんちんかんな言動にイライラして、いつも心がピリピリしていました。どうしたら優しくなれるのか、心が穏やかになれるのかと、日々葛藤して悶々としておりました。 その時にアドバイスいただいたのが、介護者ファーストでいい、ということでした。介護者の心身の健康が、まずは1番大切だということです。 お兄様の"コップにオシッコ"や、"ベランダでオシッコ"等のエピソードを拝見していますと、よく耐えておられるというか、もう、施設入所を検討してもおかしくないのでは・・と感じます。 寝たきりとか、介助が必要な人ではなくても、元気に動き回って一見普通に見える人でも、一緒に生活するのは本当に大変なことです。 いきなり施設に入所は抵抗がおありでしょうから、まずは要介護認定を受けられて、どんなサポートを受けられるか、相談してみられてはいかがでしょうか? 皆様書いておられますが、第三者のサポートが必要な時期だと感じます。 差し出がましいことを書いてしまって申し訳ありません。 ついつい、心配になってしまったものですから、失礼があったらお許し下さい。

  • ニューポール

    ツガエさん、要介護認定申請してください! 私も認知症の母を介護していますから、ツガエさんのイライラ、自己嫌悪、やり場のない怒り、よくわかります。 お兄様は穏やかな方のようですから、デイサービスに行っても案外お年寄りたちとうまく付き合えるかもしれません。規模の小さいアットホームな感じのデイなら、配膳とかちょっとした仕事をやってもらうなんてことも出来るかも。それにお風呂にも入れてくれますし。テレビを見ているだけより、誰かと会話している方が脳にも良いはずです。 とにかく、一人で全部背負い込むのは無理です、危険です。どうぞ一歩踏み出してください。

  • まゆまみさん

    ツガエマナミコさま。 「イラつく程度の小さな不満は数えきれないほどありますけれども‥‥。」 その小さなイライラが、毎日積もり積もると・・・ 毎週、大丈夫かなぁ~と心配しつつも、マナミコさんから力を頂いている私です。 私は、認知症の母の世話をしております。 同居ではありませんが、毎日通って世話をしています。 自分のイライラが溜まってくると、料理しながら、さい箸や、ざるを投げ「ふぅ~」さささと拾いにいく私です。(割れない物限定です) 第三者が入っても、自分の負担はあまり変わらないですが、自分の頑張りを分かってくれてる、頼ってもいい人達がいる事は、心の安心になります。 どうか1人で頑張りすぎないで下さいね。

  • 紙苦墓デテコイヤー

    ツガエさんが かなり追い詰められているようで心配です。 実は既に介護保険もお使いになり デイサービスにも通っているけど 貴誌の編集上、時系列で小出しに連載しているだけなら良いのですが。 もし、今の状況がリアタイだとしたら 介護者の悪感情は必ず被介護者にも 投影されますから、お互いのためにも 良いとはいえないと思います。 若年性ということでなかなか適したサービスを見つけるのは難しいかもしれませんが、都会にお住まいですし、 このような超有名媒体に 連載をお持ちなのですから、 地方在住の一般人よりも いろんな方面から有益な情報が 入るはずではないでしょうか。 渡辺謙さん主演の映画「明日の記憶」が 上映された当時に比べれば若年性認知症に関する世間の理解は深まっているはずです。 目を背けたくなるお気持ちはよく分かりますし、いざ介護認定となるといろいろと気がし重いのも当然です。 しかし、まずは思い切って地域包括センターに電話して、第三者の力を借りてみてはいかがでしょうか。 もちろん、その過程において腹の立つことや不測の事態も起こりえますが どのような形であれ 他人が介入することにより 家庭内の息苦しさは少し楽になります。 どうかお心とお身体大切になさってくださいね。 外野席から分かったようなことを申し上げ、失礼しました。

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