「動物介在介護」で高齢者のやる気にスイッチ、心身に好影響|介護福祉士・向宇希さんの取り組み
長引くコロナ禍で気持ちが沈みがちな人は少なくないはず。介護の現場では、そんな沈みがちな気持ちも明るくして癒しを与えてくれる、動物を介在させた介護サービスを取り入れている施設もある。利用者の心と体を支える人気の介護士さんをご紹介します。
犬が高齢者の行動のやる気スイッチに
「数秒・数分前の記憶も不確かなものとなっても、犬とぼくのことは1か月たっても覚えてくださるかたもいるんですよ。これは、犬への感情が長期記憶への定着に寄与した可能性があるのではと。さらに、犬が動機づけ(いわば“やる気スイッチ”)となり、さまざまな行動を作ると考えています」
そう語るのは、動物介在福祉専門事業所「わんとほーむ」代表の向宇希さん。
専門的にはエンパワメント的側面(本来持っている潜在能力を引き出す)といわれるこの力が、認知症ケアや症状軽減につながると向さんは考える。介護現場に動物がいることで、血圧・コレステロール値低下など生理的機能の改善や感覚への刺激、また一緒に遊ぶことで運動機能を助けることもできる。
向さんは15年前にNPO法人を立ち上げ、「動物が介在する介護」を事業として続けてきた。
「一昨年は1年で施設や病院を208回訪問しました。昨年はコロナの影響で半減しましたが、『向さんとワンちゃんには来てほしい』と施設からお声をいただくとうれしいですね」(向さん・以下同)
動物を通じて高齢者の能力を高める
訪問前には、向さんは必ず施設のスタッフと内容について打ち合わせを行う。
「利用者一人ひとりの性格や症状、ケアプラン、そして施設の方針も聞いてプログラム内容を詰める施設もあります。これこそ、介護福祉士だからできる仕事だと思っています」
犬と一緒で楽しいね、かわいいね、で終わらず、あくまでも一人ひとりの能力を高めるためのケア。そこに動物を介する意味がある、と向さん。
「人は誰にでも“よろこぶ権利”がある、そう思っています」
利用者の笑顔のために、向さんは犬たちと訪問し続ける。
プロフィール
向 宇希さん/動物介在福祉専門事業所「わんとほーむ」代表。子供時代の入院経験から動物介在型の介護サービスに興味を持ち、NPO法人設立を経て現在はビジネスとして確立。高齢者施設のほか病院や学校も訪問する。
動物介在福祉専門事業所「わんとほーむ」のHP:http://wantohome.sakura.ne.jp/index.html
撮影/鈴木暁彦 取材・文/別所礼子
※女性セブン2021年2月18・25日号
https://josei7.com/
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