大腿骨頭壊死症とは?原因、症状、治療法を整形外科医が解説
先ごろ俳優の坂口憲二さん(42才)が大腿骨頭壊死症のため、無期限休養に入ることを発表したことは記憶に新しい。歌手の故・美空ひばりさんが晩年患っていた病気としても知られるこの病気、実態はあまり知られていないようだ。
スポーツ万能で壮健なイメージの坂口さんを襲った大腿骨頭壊死症とは、どんな病気なのか?お茶ノ水整形外科機能リハビリテーションクリニックの銅冶英雄院長に解説していただいた。
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大腿骨頭壊死は働き盛りの男性の発症例が多い
大腿骨頭壊死症とは、股関節とつながっている太ももの骨の一部が壊死する病気ですが、加齢で起こりやすくなる変形性股関節症とは全く別の病気です。日本で新たに大腿骨頭壊死症を発症する人の数は年間2000~3000人。発症年齢は働き盛りといわれる30~50代が多く、新規の患者さんは男性が女性の1.8倍という統計があります。
まず「大腿骨」について知っておきましょう。この骨は太ももの中に存在し、足の付け根から膝まであり、太い管状をしています。足の付け根部分は股関節、膝の部分は膝関節を構成しています。大腿骨の上端は、ボールのように丸みのある形をしており、軟骨に包まれています。この丸い部分が「大腿骨頭」です。大腿骨頭は骨盤のくぼみにスッポリとはまっていて、グルリと回転するように動くことで股関節の曲げ伸ばしを可能にしています。
大腿骨頭壊死症になると丸みのある骨頭部が壊死、つまり一部の組織が死滅し、その部分が壊れて変形します。壊死した部分が大きくなると体重を支え切れなくなり、股関節に大きな負担がかかって骨頭がつぶれてしまいます。こうした状態を、股関節の「陥没変形」といいます。
大腿骨頭壊死症では、足の付け根に痛みが起こりますが、こうした自覚症状はすぐには現れず、病気が発生してから痛みを感じるまでに数か月、場合によっては数年のタイムラグがあることは少なくありません。
特発性大腿骨頭壊死症は特定疾患に指定される難病で原因は不明
では、大腿骨頭壊死はなぜ起こるのでしょう。
直接の要因は、大腿骨頭部への血流の悪化です。骨も血液が流れ込むことが大事なのですが、体の骨にも血液の循環がよくない場所があり、大腿骨頭はその代表的な場所の一つです。大腿骨頭は股関節に深く納まっていて血管が少ないため、血流障害を起こしやすい部位なのです。
ところが、ふだん仕事やスポーツを元気にこなし、動脈硬化など血流を悪化させるような兆しのない人が大腿骨頭壊死になることがあります。原因がハッキリとはわからないものを、特発性大腿骨頭壊死症といいます。厚生労働省の特定疾患に指定されている難病です。恐らく坂口さんも、肉体的には非常に元気な方でしょう。そんな方にも急に起こってしまうのです。
昔は大腿骨頭壊死症は、ダイバーに多く見られたので「潜水夫病」とも呼ばれました。ダイバーが水面に浮上してくるときに血液中に気泡が生じ、その気泡が大腿骨の血管に詰まると壊死を引き起こすことが知られていました。
「危険因子」つまり、統計的に「これがリスクを高めているのではないか」というものはあります。
1つは過度の飲酒。もう1つはステロイド剤の使用です。
ステロイド剤とは副腎皮質ホルモン製剤のことで、ぜんそく、アトピー、目の病気などさまざまな病気の治療に使われています。
特発性大腿骨頭壊死は、何らかの病気の治療のためにステロイドを大量に服用したり長期間連続使用している人がかかりやすい傾向があることがわかっているのです。とはいえステロイド剤は非常に有効な薬ですし、これでなくてはできない治療もあります。特発性大腿骨頭壊死に必ずなるというわけではありませんから、過度に不安視しなくてもいいでしょう。
重症でなければ切らずに済む
大腿骨頭壊死が起こったとき、症状の程度によりいくつかの治療法があります。
まず「保存療法」です。特発性大腿骨頭壊死症の初期で、骨頭が大きく潰れる可能性が低い患者さんに対しては、激しいスポーツなどを控えて患部の安静を保つように指導します。安静にして2~3週間で痛みが軽減する人が少なくありません。そのまま壊死が進行しなければ、それ以上の治療は行わないこともあります。
股関節の痛みを強く訴える患者さんには、日常生活に支障をきたさないように、痛み止めを処方して「薬物治療」を行います。
壊死が進行したり、そのままでは立ったり歩いたりできなくなる場合は、「外科手術」を行うことになります。
「骨切り術」といって、大腿骨頭の壊死した部分に体重がかからないように、大腿骨を切って移動します。
壊死が広範囲にわたり、安静時でも強烈な痛みが続き、歩行が困難になってきた重症の患者さんには、最終的に「人工股関節置換術」を行います。これは潰れた骨頭の代わりに人工関節で置き換える手術です。股関節という人間の体の中では非常に大きい関節の手術なので、3週間以上の入院を余儀なくされることもあります。
保存療法や薬による治療中や外科手術後は、足が痛まない範囲で活動することが大切です。私の医院ではリハビリや、再発予防に役立つストレッチ法も指導します。大腿骨頭壊死の場合、普遍的な運動法はなく、患者さんに股関節を伸ばす・曲げる・足を内側や外側に回すなどの動作を行ってもらい、反応を見て、その患者さんに適したストレッチ法をすすめています。
大腿骨頭壊死は初期には自覚症状に乏しく、予防も難しい病気ですが、股関節のレントゲン映像でわかることがあります。ステロイド剤の使用経験など、危険因子に心当たりがあって股関節に異常を感じたら、整形外科で検査してもらうといいでしょう。
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坂口憲二さんも病気を公表後「体調を見てサーフィンを楽しみたい」と前向きのコメントを出している。切らずにすむ治療法もあり、元気に活動している人もいるので、大腿骨頭壊死と診断されてもあきらめないことが大切だ。
取材・文/大竹麗
銅冶英雄(どうや・ひでお)
お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック院長。1994年、日本医科大学卒業。2006年、千葉大学大学院修了。千葉大学附属病院、成田赤十字病院、国立がんセンター中央病院、千葉リハビリテーションセンターなど勤務。2001年に米国ウィスコンシン医科大、2007年に豪州パース病院へ留学。2010年に、お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニックを開院。著書に『3万人のひざ痛を治した!痛みナビ体操 “国民病”の変形性膝関節症激痛・はれ・きしみ改善率84%!』(アチーブメント出版)、『腰の脊柱管狭窄症が革新的自力療法痛みナビ体操で治った!手術を回避!長く速く歩けた!笑顔が戻った!』(わかさ出版)など多数。
【データ】
名称:お茶の水整形外科 機能リハビリテーションクリニック
所在地:東京都千代田区神田駿河台4丁目1-2 ステラお茶の水ビル
公式サイト:http://www.ochaseikei.com/index.html
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